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ドサクサ日記 9/12-18 2022

12日。
大阪のFM802へ。天満駅から延々と続く商店街を歩くと、とても不思議な気分になる。どういう理屈で営業を継続できているのかわからない商店や、昼間から人で埋まっている飲み屋、それなりに盛衰が激しそうな飲食店を眺めて歩く。しかし、長い。べらぼうに長い。毎日やっている祭りのようでもある。こういう雑多な感じは安心する。生活感が滲み出ているのもいい。ほとんど文化遺産だと思った。

13日。
スタジオで曲作り。某コーヒーチェーンの店に行くと、「今日は製氷器が壊れているのでアイスの商品は氷なしになる」とのことだった。俺の前に並んでいた仕事中と思しきサラリーマンはそれを笑顔で受け入れ、汗だくのままアイスティーを注文した。俺はアイスコーヒーを注文するのはやめて、ホットコーヒーを頼んだ。残暑と呼ぶにふさわしい気候が続いている。怒り出す人がいないことを祈る。

14日。
撮影。この日の現場は、お弁当が大変に美味しくて嬉しかった。高カロリーなお肉の弁当を食べたいという年頃は過ぎた。この日は野菜がたっぷり入ったヘルシー弁当だった。たっぷりと言っても、食べきれない量ではない。気の利いた様々な惣菜が雑穀米の上に肩を寄せ合うように乗っていて、見た目も楽しい。若い頃と比べて食の趣味が変わったと実感する。破滅的に疲れているとき以外には油でギトギトのラーメンを食べたいと思わなくなってしまった。肉も赤身を好むようになった。動物の飼育の方法が気になって、お肉だったらなんでもいいとは思わなくなった。ここまで工業化した方法で家畜を育てて肉を食べる時代は、人類史上初めてのことだろう。培養肉を食べているかもしれない遠い未来の人たちから見たら、恐ろしく野蛮な時代と呼ばれる可能性もある。食べ物とその周縁のことは、よく考えたい。

15日。
来年のツアーのことや、これから行うツアーのことを皆で話し合う。コロナ禍で集客の見通しを立てるのがはっきりと難しくなった。俺たちも大変だが、観客も大変だろうと思う。生活や仕事のことを考えると、行きたくても行けないという人も多いと想像する。どんな状況であれ、今ここで音楽を鳴らし共に分かち合えることを喜びたい。200人のライブハウスが埋まった日、俺は地下の天井を突き破って屋上まで顔が飛び出るくらい嬉しかった。こんなにも多くの人が俺の音楽を見つけてくれたと感激した。200人が600人になり、1000人を超えて、とてつもない加速によって誰の顔も見えないような時期もあった。集客は過去最高だったが、精神はボロボロになった。なるべく幸せに音楽を続けたい。それには、自分が何を幸せだと考えているのかについて、しっかりと見つめ直さないといけない。

16日。
小説家・古川日出男さんによるアジカンへのギガインタビューが公開になった。これから7週に分けて、アジカンの楽曲ごとのインタビューや、アルバム『プラネットフォークス』のレコーディング風景が公開される。俺たちがどんなことを考えながらアルバム制作をしたのかに迫る濃厚な記録映像だと思う。しかし、俺は感情を言語化する精度が低いなと痛感する。考えていることを伝えるのは難しい。

17日。
代々木体育館でJ-WAVEのイベントに参加。こういうイベントが街に戻ってきたのは嬉しい。しかし、コロナの後遺症の(と思しき)咳がしんどい。ステロイドの吸入と友人の施術によって何とかステージには立てているけれど、ステージから降りると咳き込んでしまって辛い。ツアーまで2週間あることは幸運だが、ここできっちり治さないと2時間強のコンサートはやり遂げられない。はっきりと不安。

18日。
疲れているのか、日中はずっと眠たくて目を開けられなかった。気合いを入れて昼にカレーを食べてからは、さらに強い眠気に襲われて、居間のソファで倒れるようにして過ごした。そして変な夢を見た。「カイナウメミノケンコウウメシ」という商品のCMソングが延々の流れる謎の夢だった。メロディもある。「(ン)レレレ、レラソファ、ソーソー、ラソラー」、それぞれ2拍で読点を打ってある(レはオクターブ上)。どんな楽器でもいいので再現してもらうと分かるのだが、どことなく和風でレトロな感じの旋律だ。そういう商品なのだろう。俺は夢のなかで「カイナウメミノケンコウウメシ」とは何かと熟考する。「腕(かいな)埋め実の健康う飯」という結論に至ったところで目が覚めた。益荒男みたいな人が上腕の力こぶのあたりに何やら実を挟んで潰していた。「かいな」というのは肘から肩のあたりの腕のことだ。実は山椒ではないかと俺は考えた。ご飯は登場しなかったが、「う飯」とは鰻飯のことかもしれない。「埋め実」を「梅実」と想像する一派もあるかもしれないが、梅干しと鰻は食べ合わせが悪いという言い伝えがある。しかし、現在では理にかなった食べ方ということがインターネットの力で分かった。よって、「腕梅実の健康う飯」という可能性もある。しかし、腕で潰した梅干しを食べたいと思うだろうか。