見出し画像

海外で、いけばなを教える

先日、ノルウェー最大の子供向けインターナショナルフェスティバルで、2日間いけばなを教えてきました。

いけばなと私

いけばなを始めたのは大学2年生の時。当時アメリカ留学中に、「趣味は何?」→「フラダンス」→「なぜ(日本人のあなたが)ハワイのフラダンス?」という問答をかなり経験しました。聞いた彼らに悪気はなかったのでしょうが「別に日本人がフラダンス趣味にしてもいいじゃん!・・・でも日本人だし、伝統文化も1つくらい嗜んでみるか」と思い、池坊(いけばなの流派の1つ)の教室に通い始めます。

そこから約10年が経ち、その間も、地味に細々と続けてきました。
オスロでは池坊の支部がない為、ここ2年お稽古はお休みしているものの、家では定期的にいけています。

ただし、人に教えたことはありません。お金をもらって、どこかにいけたこともありません。趣味の範囲です。

それが今回、The Norway-Japan Societyに声をかけて頂き、2日間Stoppested Verdenというイベントで、いけばなのブースを担当させて頂きました。こちらのイベント、2日間で1万人の方が訪れたそうです。


前日は花材を調達しに、森へ

日本ではお花屋さんで簡単に手に入る枝や葉も、ノルウェーでは入手困難です。
運営側に希望の花材を伝えていたものの、当日までどのようなお花や枝が用意されるかわからず、やや不安がありました。
そこで前日に森へ行き、ラズベリーの枝やトクサを採集し、いくつか持参しました。


意外に共感を呼ぶらしい、Less is More精神

当日は、花器と剣山を4〜5個ずつ用意し、山で採集した枝や、運営側が用意してくれたお花をつかって、いくつか作品をいけました。
前述した通り、日本とは花材も異なるので、創意工夫のもとできる範囲で、という感じではありましたが、いけた作品や、その制作過程に沢山の方が興味を持ってくれました。

こちらが当日いけたお花たち

いけばなは500年以上続く文化であること、器と花材の取り合わせ、季節毎にいけることなど、各人が興味のありそうなことを説明しました。

中でも、池坊が重視している、「花材のライン(線)を尊重し、空間をつくることで、より少ない花材で、洗練された、美しい作品にする」、いわゆるLess is More精神、これを理解し共感してくれる人がとても多かったのには、驚きました。

  • 奥さんの誕生日に買う花束では、お花が多ければ多い程、美しく豪華になるでしょう?でも、いけばなでは、少ないお花で美しさを表現するの

  • 本当はここには5〜6輪のお花が咲いていたけど、1輪1輪の美しさを際立たせるために、3〜4輪のお花を敢えて取っているの、でも、ほら、とっても自然でしょう?

  • (敢えて剣山を左端に寄せている作品に対して)この作品では右半分に何もないから、剣山を真ん中に持ってくることもできる、でも左端に置いておくと、右側のスペースに空間が生まれて、何か想像できるようになるの

皆さん、作品を眺めながらフムフムと共感してくれるので、そんなようなことを、ひたらすら説明しました。

最初はどんな風に会話をすれば良いか掴めなかったものの、「いけばなを過去に見たことがあるか(この質問で、日本文化への興味の深度、訪日経験等がわかる)」、「どの作品が好きか(特にシャイな子供との会話のきっかけになる)」といった質問が糸口になるとわかってきて、徐々に会話のペースも掴めるように。
本当にいけばなに興味がある人なのか、子供が花配りや書道(日本ブースの他の出し物)をしている間の時間潰しが目的の人なのか、とりあえず各国のブース見る!という意気込みの人なのか、相手のニーズに合わせた会話をする必要性も感じました。

また、Less is More精神は小学生未満の子供にはやや難しいらしいこともわかりました。保護者が丁寧にノルウェー語で説明し直している姿は微笑ましかったですが、魅力をうまく伝えきれなかったのは残念です。

2日目の朝、会場の近くで採集したスミレやタンポポでいけたもの。ノルウェーではタンポポの綿毛は嫌われ者らしく、「これも作品になるの・・・!」と感動してもらえた。


「盆栽、金継ぎ、着物、お茶」参加者から溢れ出る日本ワールド

国を越えて理解されるLess is More精神以外にも、訪れた方々は本当に日本文化に興味があるようで、色々なことを知っていました。

いけばなから連想しやすいのか、「盆栽」というキーワードは最頻出でした。
着物やお茶といった定番から、金継ぎなど少しマイナーものまで、知っている日本文化について話してくれる人もチラホラ。
日本の文化ってすごいんだなぁ、私もまだまだ知らないことばっかりだなぁと、改めて思いました。

ノルウェーにいると、どうしても日本のネガティブなところが目につきがちです。
けれど、やはり伝統的に受け継がれ、発展してきた文化には、他国には敵わない面白さが多分にあると感じました。

多かった質問(今後の為の備忘)

訪れてくれた人から多く頂いた質問はこちら。
中々うまく回答できなかった質問もあり、私自身も本当に勉強になりました。もっと知識を深めなければ・・・!

  • 剣山はノルウェーで買える?
    剣山で花をいけることが新鮮らしく、おそらく1番多かった質問。 

  • お花をいける為のルールはある?

  • 少ない花でいけることに、どんな意味がある?

  • どんな哲学が背景にある?

  • 着物や浴衣もブーナット(ノルウェーの伝統衣装)のように、出身地域によって柄が異なる?

四角い花器に、直線的なラインを合わせます。


海外で、日本の伝統文化を教える

今後もいつどの国に住むか読めない私にとって、日本の伝統文化を伝える仕事をすることは、昔から1つの選択肢というか、アイディアでありました。
一方で、教えて稼げるほど、自分の技術が成熟していない、また、企業勤めの方が圧倒的にコスパが良い、という理由から、さほど真剣に考えてはいませんでした。

けれど、今回初めて人に教えてみて、こうやっていけばなを人に知ってもらうのって、とっても面白いなと。
そして、自分が思っているより、人に教える為のハードルは実は高くなく、教えながら自分も一緒に学んでいくこともできるかも、と思いました。

訪れてくれた人の中には、学校の美術の先生もいて、「今回はいけばなのブースが1番面白かった!あなた達と話して色んなアイディアが生まれたし、私の授業にも取り入れてみようと思うわ!」と話してくれる方も。
とても嬉しい一言でした。

とは言うものの、当面いけばなの先生として生計を立てる予定はありませんが、1つ、新しいチャレンジをさせてくれた環境に感謝しています。

虫食いの葉もあえて使います。「ハートに見えるね!」と言ってくれた方も。たしかに。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?