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職場の"親友"の話

三日前、だったと思う。職場の後輩の男の子と仕事終わりにチャリで一緒に帰った。


ゆうに成人を超えた男女二人が、このくそ寒い12月の夜更けに、片道10kmの通勤路を、だぜ。体育会の強化合宿のような馬鹿げた通勤コースを私はほぼ欠かさずチャリで通ってきた。

その後輩も、気づけば何故かお父さんから譲り受けたという自転車で通うようになっていた。


夏には「Goriさんも一緒に走りやしょうや」とNIKEランクラブへの勧誘があった。なんとこいつは、出勤前に毎朝5km走ってきてるらしい。


そんなアスリート精神を耳にして、運動はめっきりの私も「まあ君がやってるなら一緒にすっか....」という感じで、約2ヶ月にわたるラン生活がスタートした。NIKEランクラブアプリはフレンドになればお互いの総走行距離がランキング化されて把握できるのが特徴らしい(#PRではございません)。
各自お気に入りのジョグコースを走っては、アプリを開いて「今日は○km走ったんか....」と進研ゼミの広告のような奇妙な切磋琢磨の仕方でジョグメンとしての親交を深めてきた。



季節が移ろうと、その彼はジョグメンからチャリメンになっていた。

本来私は、"職場の人はあくまで職場の人"でしかない。仲良くなりたいとは思っていても「仕事」である以上、自分が何かやらかした時に「あいつ普段調子乗ってんのにな」という揶揄を防ぐ保険として一線を超えて仲良くなることは避けたいし、お疲れ様ですと扉を開けた瞬間にもう他人で在りたい派だ。仕事終わりの飲みとか駄べりとか、そういったのは本当に苦痛だった。だから一刻も早く帰りたかった。

でもあまのじゃくなもので、例えばスタバで働く同級生が退社する時に人望の具現化と言わんばかりの花束やらギフトやら「〇〇さん大好きです♡」と添えられたメッセージカードやらを抱えて今まで本当にありがとう♡と綴られたストーリーや、職場の先輩後輩に連れてってもらった、何々をくれた報告を羨ましく思う自分もいた。


コミュニティを広げられる人って、ねずみの繁殖のように(言い方)どこかしこでもネットワーク網を張り巡らせることができる。でも私はそれが出来ない。煩わしいやり取りをしてまで業務時間外まで気を遣うとパンクしてしまうし、「仕事」を超えて素の自分を見せ、仲良くなる自信なんてないからだ。

どうせこれ以上にはなれないし、どこまで行ったって"仕事の人"は抜けない。だからはよ一人で帰りたい。今の職場まではそうだった。


でも、今の職場からその思考は変わってきた。
10kmもの道のりを、人と帰ることが出来た。今までなら何かと理由をつけて逆の道から帰ったり向こうが完全に見えなくなったのを見計らってまでも一人で帰ることを選んでいた(末期)。


後輩との帰路は完全に、高校の帰り道だった。他愛のない話をして、あの時間いらんかったスよねーとか仕事の愚痴をちょっと言い合って、寒い中ひたすらチャリを漕いで。どっちかが早く行きすぎるとちょっとスピードを緩めるあの感じ。大学受験の際に通っていた塾の帰り道が回顧されて、あまりにも追体験の時間だった。
別れ際、「ほな明日学校で」なんて言いそうになるぐらいには。


今の職場には感謝してる。特に仲良くしてくれる波長の合う人たち。職場の人との関わりが煩わしい、なんて思うの勿体ないなって思わせてくれた。だってその出逢いでさえ一期一会で、永遠ではない。その後輩だって、3月にはワーホリでイギリスに発つことが決まっている。


いつも思う。「職場」という枠組みがなくなったとき、私たちって一体どういう関係になってしまうんだろう。別の大好きな同性の後輩の子だって、今は職場という共通のカテゴリーがあるから私たちの関係性も同期して成立してるけど、それが失われたら?今までのことなんて何も無かったかのように、ただの一人と一人の他人に戻ってしまうんだろうか。


それでも、たかが同僚だとしても。今の私にとって職場の人たちは、日々自分には無い色んな体験談、知見、助言をくれている以上有難い存在なんだ。

銀行を半年も経たないぐらいでギブしてしまった私が、一年近く病まずに働け続けられてる。それは紛れもなく今の職場の人たちのおかげ。

そんなことに思いを馳せてるけど、ああそうか、年末だからよなと自分で自分を腑に落とす。

その後輩は今猛烈にレコードにハマっている。彼が大好きなTaylor Swift。「このアルバムガチやばいんすよね~まじ欲しいイギリス持っていきてえ~」とさりげなくアピールしていた『1989 Taylor's version』のレコードには、一応先月から星をつけていた。
枝道で分かれ、西へと自転車を走らせる彼を見送ったあと、それをカートに入れた。


3月になったとき、どんな反応くれるだろうか。


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