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ショートショート |「僕は目をそらす」

みんな、心のどこかでおかしいと思っている。
でも、誰もそれを口には出さない。
なぜかって?
自分がおかしいと思われたくないからさ。

だから、みんな目をそらし続ける。
目をそらすことが正しいことだと信じて。

だけど、たまに目をそらすなよって言ってくる奴がいる。
すると、みんな怒るんだ。
お前は間違っているって。
心の中ではそいつが正しいって分かっているくせに。

怒られ続けたそいつは、やがて疲弊して音を上げるだろう。
そして、怒っていた人達は言う。
ほら俺たちの言ったとおりだ。お前は間違っていたんだって。

音をあげたそいつにはもう、怒りを受け止める力は残っていない。
いずれ、みんなと同じように目をそらすことになる。
心のどこかでおかしいと思いながら。

ただ、たまに、本当にたまに、
怒られても声をあげることを辞めないやつがいる。
そいつはどれだけ怒られても、どれだけ否定されても気にしない。
世界が変わるまで己の主張を続ける。
まるで間違っているのは世界だと言わんばかりに。

そして、やがてそいつは世界を変えてしまうだろう。

すると、みんなは手のひらをくるっと返す。
急に天才だとか、英雄だとか言い始めるんだ。
それを見ていた僕はなんだか肩透かしを食らったみたい。
でも、天才たちはそんなこと気にしない。
更に前に進んで、何かを成し遂げるだろう。

世界は僕たちと、消えていったそいつらと、天才で出来ている。
ちっぽけな僕は今日も目をそらす。
いつか天才が世界を変えてくれると信じて。

でも、おかしいと思っている。
心のどこかで思っている。
ずっとずっと思ってる。

ショートショート No.1

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