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5月の読書感想文:しょうがの味は熱い/綿矢りさ先生

結婚したい女と先延ばししたい男


同棲をして数年が経った。さぁ次は結婚だ。
そう思うのにいっこうにプロポーズされる気配がない。
彼は私のことどう思っているの?

というような悩み、結婚ラッシュの第1弾が始まる年齢以降耳にする機会が増えた。
直接話を聞く場合もあるし、居酒屋で泣き叫ぶかのように相談する、名前も知らない女性の声が耳に入ってきたり。

この本は、この年代にとっては本当にあるあるなテーマを丁寧に描かれた作品だった。
結婚をしたら全てがうまくいくと思い、結婚に向けて奔走する主人公、奈世と
そんな奈世の気持ちを受け止められず、戸惑い立ち尽くす、絃。

二人の視点で進んでいくこのお話は、同じ出来事に対して全くちがう思いを持つふたりのすれ違いが描かれていて、読者としてはもどかしい。

リアルな心情なので刺さる人にとっては、つらいかもなぁとも思う。
奈世が依存心を捨てて自分の世界を充実させて…という話だったら、同じ悩みを持つ人にとってはいいかもしれないけど、そうじゃないから、この本を読むと余計に泥沼に引きずり込まれそうだ。

この2人は上手くいかないと思われる理由とは?

私もそう思ったけど、他の方の感想を読んでいると「このふたり、このまま過ごしてもうまくいかないな」と言われていることが多い。

私がそう思った理由が、ふたりとも本音で話せていないしお互いを信頼しきっていないと思われる場面が多々あるためだ。

奈世視点が多いので、奈世の立場にたって読んでいると、嫌われたくなくて気を使いすぎ!と思う場面が多々ある。

奈世にとって、絃の言動が正だと思ってるような節があるので、余計に自分の考えを捨てて本音を言わずにいて、でも本当は聞いてほしくて、という感じに煮詰まっている。

ふたりの関係性で驚いたのが、奈世がため息をつくと、ため息をついた理由を絃が聞いてくるところ。しかも、心配してというより何で僕といるのにため息なんてつくの?みたいな理詰めで聞いてくる感じ。
絃視点でみたら、心配して聞いてるのかもって思うけど、それが全然奈世に伝わっていないから意味がない。

絃は絃で、寝ようとしているときに奈世が怖怖と、まるで野良猫を撫でるような手つきで撫でてくるのでそれが気になって眠りにつけないと困っている。

絃は背中を向けて寝ているので、奈世は絃が寝ているか起きてるか分からないので起こさないように配慮のつもりで怖怖した手つきになっている。

お互いが、酸素不足で金魚鉢の上の方で口をぱくぱくしてる金魚みたいに息苦しい環境にいると思う。

見返りを求める恋愛は難しい

ここまで偉そうにふたりの関係性について言ってきた私だけど、私も奈世みたいな恋愛をしてきたのでブーメランが今突き刺さっている。奈世の気持ちわかる〜と思いながら読んでいた。

心のコップで書いたように、私は好きを貪欲に求めてしまう性質なので、奈世のように嫌われないようにと行動してきたし、依存もしていた。
でもやっぱりそういう恋って長続きしない。

今このnoteを書くために考えていると、そういう気遣いって本当に相手のためじゃないから、長続きしないんだと思う。
自分が嫌われたくない=傷つきたくないから気を遣って行動しているだけなのに、それをあなたのためを思ってというように振る舞われたら誰だって嫌だろうなぁ。

相手のためにという振る舞いって、そのgiveを無償でできるならしてもいいけど、見返りを求めるようになるならしない方がいい。

勝手に気を遣われて、相手の思う返答じゃないとネガティブな反応をされると、じゃあしなくていいよって思うんじゃないだろうか?

だから恋愛以外に自分の世界をもつといい、というアドバイスがあるのは、恋愛で思うようにいかなくても別の世界で気持ちを切り替えて自分の人生を生きていくようにするためなんだろう。

結婚したら幸せです?

奈世はとにかく結婚に固執している。
けっこう同棲期間が長いのでその気持ちは痛いほど分かるし、絃は絃でもっと考えろよー!と肩を揺らしたくなる。
でも奈世にもう少し考えなよと言いたくなるのは、結婚したら何もかもうまくいくように思ってるところだ。

信頼関係の基盤ができているならそれでもいいけど、このふたりはねぇ。
絃なんて婚姻届に名前を書くことを借金の連帯保証人になることと同じように捉えているからなぁ。このときの絃の心情を読むと、思わずズコーッとなって呆れて薄ら笑いがでてしまった。
結婚を迫られたことがある人にとっては共感できる心情だろうか?

奈世の暴走をきっかけに、結婚に向けて話し合うふたり。
お互いの妥協点を探るような話し合いではなく、自分の主張をただぶつけ合うだけの生産性のないものだ。
奈世にとっては、ようやく自分の気持ちをぶつけられる絶好の機会なので、最悪の状況にのに最高の状況になってしまっている。
信頼関係を構築しようともしないし、できていないから結婚しても幸せになれないよと奈世に言いたい。
きっと言った瞬間水をかけられるだろうけど。

最後に


ここまで、本当に奈世や絃がいるかのような感覚で感想を書いた。
それぞれと居酒屋にいって話を聞き、ふたりぞれぞれにモヤモヤした気持ちを、別の友達に聞いてもらってるような感じだ。

それほどリアルに心情が綴られた本なので、読後はもやもやがいっぱいだけど、読んでよかったなぁと思った。

今、奈世たちの年代に近いのでこういう感想を持ったけど、20年後や30年後だったらどんな感想になるんだろう?と思う。

きっと30年後は大阪のおばちゃん節が強くなっていて、「分かった!分かった!まぁ、とりあえずこの団子食べてあったかいお茶のんで落ち着きぃ!」と奈世の肩を叩いているだろう。


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