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美生

2022/07/17 北海道東川町の図書館にて

「生きることが美しさを創る」


「生きることが美しさを創る」と美瑛町の丘を見ながら、心の中で感じていた。美瑛町の丘には、小麦やとうもろこしなどが栽培されている。生きるために必要となる食料を栽培していて、「労働」という言葉を連想させる。

ただ、自分はその丘を見て、「美しい」と感じてしまった。その瞬間、「生きることは美しい」という言葉が浮かんできて、心が揺れ動くのを感じた。今まで綺麗なものを見ることは多かったが、すごく消費的だったと思う。けれど、美瑛町の丘には美しさがあり、その美しさに一体となっている気がして、言葉を詰まらせていた。

立ち止まりたい気分だった


6月末に仕事を辞めた。この会社なら自分のやりたいことができる、自分が大事にしたいことを大切にできる、社会的にも意義がある、そんな思いで転職をした。ただ、実際に働いてみると、自分が想像していたようにはうまくいかなかった。「自分はこの会社にマッチしていない」と思い、仕事を辞めた。心にポッカリと穴が空いているかのように思えて、立ち止まりたい気分だった。

人生の学び舎

そんな時に、北海道東川町にSchool for Life Compathという人生の学び舎があることを思い出した。知人からお薦めされていたが、仕事があり参加できていなかった。これは行くしかないと思い、参加を決めた。

北海道東川町は旭川空港から車で10分ほどのところにある。
写真の町として有名で、人口8000人程度の町である。
この町に一週間暮らしにきた。

一週間共に暮らす仲間は、さまざまなバックグラウンドを持っており、年齢も性別もバラバラである。大人になってからの共同生活に、不安を抱えながら東川町に降り立った。

私が参加したのはワーケーションコースというもので、仕事をしながら自分の興味関心に沿った授業を選択し、学びを深めるというものである。
一日の始まりは、仲間と自炊をして朝ごはんを食べる。そこから、朝の会を行う。内容は30分程度ペアで散歩しながら対話したり、ヨガをやったりなどする。その後は、各自バラバラとなる。仕事をする人もいれば、選択授業に参加する人もいる。何もせず、ぷらぷらとする人もいる。夜になると、みんなで夜ご飯を作り、一日の終わりとして、対話したりして、一日を終える。ここでは、誰かに指示などされることはなく、各々が生活をしている。

森の名刺

参加者全員で東川町にあるキトウシ森林公園に向かった。もちろん初対面なので、最初はみんなよそよそしい。プログラム開始する前に、全員で今の気持ち・状態をシェアするチェックインをする。「俺、金髪だからみんなから敬遠されていそうだな」と考えていたので、「かちょうと呼ばれてます。結構緊張してます」と言うと、ワッとリアクションが返ってくる。ちょっと安心感を感じていた。

チェックインが終わると、「森の名刺」というワークショップが始まるらしい。白い布を一人一枚渡され、今の暮らしの状態を森で表してくださいとのこと。

森に入ると、緊張感が和らぎ、自然と小走りをしてた。森に何があるんだろう、どんなところで名刺を作ろう、そんなことを考えながら歩き回ってた。よさそうな場所を見つけて、名刺製作に入る。

「今の暮らしか…」と想像したとき、イメージとして出てきたのは嵐での森だった。6月末に仕事を辞めたが、怒涛の日々だった。仕事を辞めるのは想定外だったし、いろいろな感情が巡っていたので、嵐という表現がピッタリだった。7月はその嵐が過ぎ去って、何もない状態。何もないところから、自分の小さな幸せを探していきたいと思っていたので、表現してみることにした。

左側が6月までの生活を表して、右側が今の生活を表してみた。

表現してみると、「雑だな〜」と思ったけど、他に表現しようがないと思って作業を止める。完成した作品をグループでシェアしていくことに。メンバーの作品を見つつ、製作した背景や想いを聴いていく。「キャリアに悩んでいて」「余白が生まれつつあるけど、まだ疲れてる」「燃え尽きた」など色々な話を聴いていく。「あー、わかるな、その気持ち」「どういうことだろう、もう少し聴いてみたい」といろいろな感情が巡っていった。

ワークショップが終わると、お昼ご飯の時間。東川町のおむすび屋さんが作ってくれたおにぎりをみんなで食べる。うまい。

お昼ご飯が終わると、みんな眠くなってきたのか、たたみでお昼寝を始める。たたみってこんなに気持ちよかったっけ?と思いながら、寝転ぶ。だんだん瞼が重たくなってきて、意識が遠のく感覚がする。すると、自分がいびきをかきはじめる音がして、びっくりして飛び起きる。流石に初対面でいびきはまずいと思って、なんとか自重してました。

休憩終了後、ジャーナリングしましょう!ということで、各々今感じていることを書き出すことに。「久しぶりにジャーナリングするな〜」と思った。というのも、ジャーナリングは少し苦手だった。仕事をしているときにジャーナリングしても、大抵不安や不満しか出てこないし、頭で内省をすることが多かった。書いてみると、「意外と緊張している」「もっとみんなのことを理解したいから、コーチングできます!って宣言してみよう」などいろんな言葉が出てきた。意外にポジティブな自分に気づく。

ジャーナリングが終わると、理想の暮らしを表現するワークショップが始まるとのこと。しかも、言葉ではなく、折り紙や画用紙、毛糸などを使って、自由に表現して良いとのこと。「こういう図工苦手なんだよな」と身構えつつ、向き合ってみることに。理想の暮らしについて考えを巡らせていると、「踊りたい!」となぜかフレーズが出てきて、ミラーボールを頭の中でイメージさせていた。当然ミラーボールなんてものはなく、どうやって表現しようと考えていると、キラキラしたワイヤーを見つけ、「これだ!」となり、毛糸を丸めてボールにして、その上からワイヤーを巻きつけた。ミラーボールというよりはてるてる坊主になってしまったけど、踊りながら暮らしたいという思いが湧いてきた。「踊りながら暮らしたいってどういうことだろう」そんなことをぼんやり考えていた。

ミラーボールを表現してみたら、てるてる坊主に見えてきた

朝6時に目を覚ます。環境が変わったせいか、いつもより早起きだった。せっかく起きたので、散歩しようと思い、東川町を歩く。空が青く、雲の様子がすぐに目に入ってくる。東京とは違う風景に、空を眺めてしまう。散歩を終え、昨日のジャーナリングを思い出す。せっかくいつもと違う環境にいるのだから、いつもと違うことをやってみようと思い、ジャーナリングをする。初日に出会った「踊りながら暮らしたい」というフレーズについて考えてみる。「そもそも『踊』と『躍』って何が違うのか?」と別のことが気になって調べてみる。すると以下の違いがあると知る。

「踊」は、「ある決まりに従っておどるおどり」を表します。
「躍」は、「勢いよく飛びあがること」を意味します。

https://www.nhk.or.jp/bunken/research/kotoba/20160101_1.html

「絶対に後者だな」と妙に腹落ちをした。確かに今の生活は勢いがあるわけではなく、むしろ止まりたいという状態だった。

二日目は、選択授業があり参加することにしていた。『自分の状態とつながる -マインドフルネスとヨガ』というタイトルの授業だった。体のストレッチから始めることに。自分の体に触れることで、凝りだったり硬くなっている部位を見つけ、こんなにも硬くなってるのか!と驚いた。「少し外に出て地面からの気を感じてみましょう」と先生に呼びかけられ、裸足で芝生の上に降り立ってみる。気持ち良い。すごく心地よい。テンションが上がっていった。東京に比べてさほど暑くないので、日差しもちょうど良いし、風も心地よかった。「心地よいって思ったのはいつぶりだろう。そもそも心地よいって普段あんまり思わないな〜」と感じていた。

美しさ

この日の朝の会では、ニーズカードというのを用いて、今日一日満たしたいニーズをそれぞれ選ぶ。自分は「美しさ」を選んだ。

というのも、その日は旭岳に登ることになっていて、きっと綺麗だなって思うだろうぐらいの理由で選んだ。

旭岳に登り、歩きながら考え事をしていると、色々と思考が浮かんでは消えていく。「旭岳も美しいし東川町も美しいよな〜」と考えていた。美しいものは調和が取れているのだろうと考えながら、どんどん歩いていく。そんな時、ふと東川町に関する本を読んでいた時のことを思い出す。『生活価値』と『経済価値』というキーワードが本に書かれていた。「あ〜、この二つの価値のバランスが取れている、調和しているから美しいと感じたのか」と腹落ちがした。生活のリズムがゆっくりですごく心を落ち着かせることができる。周辺のお店もクオリティが高いので、お金を払うことに躊躇いがなかった。

じゃあ、自分の生活はどうだろうと。この二つの価値は調和しているのか。全くしていないと思った。朝ごはん食べないし、掃除は全然しない、夕飯はミールキットを作るだけ。一方仕事は、スキルを上げるにはどうしたら良いか、仕事での価値を生み出すためには何をしたら良いかなど、経済価値に偏りがあった。「あ〜、こんなにも偏りがあったのか。だからしんどいのか」と腹落ちがした。

「なんのために働いていますか?なんのために生きてますか?」

この日の朝の会では参加メンバーがもやもやしていること、聞きたいことを「問い」としてカードに書き出し、一人一枚問いを持ち続けて、一日生活することになった。自分が引いた問いは『なんのために働いていますか?なんのために生きてますか?』だった。

直球な質問

「いや〜〜〜〜、重い質問だな笑」と苦笑してしまった。少し頭を働かせて考えてみるが、何も出てこない。一旦問いを頭の片隅に追いやり、身支度を始めた。

この日も一日フリーだったが、前日の反省を活かして、午前中に箸づくり体験に参加した。wood workという特注の家具を製造している会社が開催しているワークショップに参加させていただいた。数種類ある木材から好きなものを選択し、かんなで削り、やすりをかけて、オイルで艶出しをするというものだった。普段、ソフトウェア開発を仕事にしているので、リアルプロダクトを作り出すのはとても手触り感があり、楽しかった。

午後は予定が何もなく、どうしようかと考えていると、同じ参加メンバーも時間を持て余していたので、カフェでおしゃべりをすることに。ここまでの生活で感じたこと、直近のお互いの仕事についてなど話しをしていた。話題は朝の会での問いに移った。話していく内に、昔のことを思い出した。中学3年の頃、不登校になり、その時に父親からもらった手紙を思い出していた。その手紙には、父親の人生について書かれていた。いじめられっ子であったこと、社会人になってから人に裏切られたこと、仕事で苦労したこと、それでも心臓が動く限り、人は生きていかなければならないこと、そんなことが書かれていた。当時は、理解することが難しかったが、大人になるにつれて、胸にずしりと響いてくるものがある。そんなことを思い出していた。ただ、問いに対する答えにしっくりこないまま、消化不良感を抱えながら、その日は終えた。

この言葉に出会うために、自分はこの場所にいるんだ

この日は一日外出する予定だった。東川町から車で一時間程度のところにある美瑛町に向かうことに。美瑛町にある拓真館という写真館に行くことになった。この写真館では、美瑛町の丘を撮り続けた前田真三さんの写真が展示されていた。どの写真も美しく、心惹かれるものばかりだった。そのギャラリーで展示されている言葉が目についた。

見せるために作られた風景ではなく、生きるための労働がひいては風景を形作っていくことが重要だ。

写真展 SHINZO MAEDA 100『前田真三 風景の源流』

拓真館の裏側を抜け階段を上がっていくと、開けた場所に出た。

この時は何も言葉を発することができずにいた。思考も動いておらず、ずっとこの風景を眺めていた。ただこの風景を感じていた。次第に言葉と言葉がつながっていくのを感じ、フレーズが浮かんできた。『生きることが美しさを創る』、そんなフレーズが出てきた。自分の心にカチッとハマるを感じて、こんな風に感じることができる日があるのかと感じていた。泣きそうになっていた。この言葉に出会うために、自分はこの場所にいるんだと感じていた。

東京に戻り感じていること

東川町での生活が終わり東京に戻ってきた。東京での生活は慌ただしく騒々しい。けど、青い空を見上げると、東川町の空を思い出す。思い出すと心がほんの少し落ち着いてくる。一週間一緒に生活したメンバーの写真を見ては、穏やかな気持ちになっている。今まで経験したことがなかったから、うまく言葉にできてません。けど、自分の心に東川町が大きく存在していて、美瑛町で出会った言葉が忘れられません。『生きることが美しさを創る』、この言葉をどのように大切にしていくか、考えていきたいです。

愛おしい人たちからもらった言葉たち。


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