『52ヘルツのくじらたち』を読んで

※ネタバレ注意

数年ぶりに小説を読んだ.『52ヘルツのくじらたち』が朝日新聞の天声人語で紹介されているのを見て,久しぶりに小説を読みたい気分になり,購入した.端的に言うと,この話は「孤独な人の声を聞く話」である.理解力・想像力があまり高くない私でも読みながら情景を想像しやすい小説だった.また,孤独という誰もが感じたことがあるテーマなので,感情移入しやすかった.

この小説には孤独感から言葉を発することができなくなった少年の様子がいくつも記されている.これらを読みながら私は中高時代を思い出していた.中高の同級生に言葉を発せられない子がいた.誰からもその理由を伝えられるはなかったが,先生からは仲良くやってくれと言われていた.その子はトラウマや孤独感を持っているのだなと感じ,私を通してそれの「何か」を克服すれば良いと思った.中学一年の時,毎日挨拶をし,昔から仲良かったかのように昨日の出来事や勉強のことなどを一方的に話した.面白いことを言うと微笑んでくれるので,普通の日常生活をいかに面白おかしく伝えられるかに毎日挑戦していた(笑)結果,言葉を発してくれることはなく一年が経過し,その後同じクラスになることはなかった.しかし卒業までの五年間,廊下で会う度に微笑んで手を振ってくれていた.少なくとも好印象は持ってくれていたのだろう.しかし高校卒業以来会っていない.彼女の傷は癒えたのだろうか.彼女の現在が非常に気がかりだ.

孤独を感じている人はそのことを表現しない.心の中に非常に大きな孤独感を感じていたとしてもそれを大々的に言葉で表現することはない.実際に私自身も本当に信頼している友人には話したり話されたりしたことはあるが,大抵の人は孤独感について話さない.私が話さない理由は弱みを見せることへの抵抗ではなく,弱みを見せた時に相手に負担になるのではないかと感じるためだ.孤独感を表現すること,受け入れること,支えることに多くの人が慣れていない.孤独感は非常にセンシティブだ.

この小説の登場人物のように,誰に対しても寛容な心を持ち,その人の幸せを願えるようになりたい.そしてその願いを実際の行動で示したい.これから社会人になって出会う人全員が孤独感を感じているといっても過言ではないと思う.一人一人を受け入れ,少しでも私の言動が相手の支えになるように心がけたい.

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