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一枚のCDが いつの時代も 僕のそばで

僕が高校生の頃。それは携帯がまだ高校生には普及していない時代のお話。

僕の周りでは夏休みにはお互い誘い合うこともなく自然発生的に学校に行って自習をするという習慣がありました。その自習とは大義名分で、”学校に行けば誰か来ているだろう”といった、夏休みの暇つぶし的な感じで、その時間は僕たちにとって自習という名の”遊びの時間”でした。

皆さんいかがお過ごしでしょうか。ぐっでぃテレビのモーリーです。

noteの新しいお題企画、”#はじめて買ったCD”にグッと来たので、今回ははじめて買ったCDではないけれど夏に出会った一枚のCDがその後の僕の人生で大切な夏のBGMになったお話をお届けしたいと思います。

その日も暑い日だった。

『カチッ』

コンポが付く音で目覚めた僕は、その後ラジオからかかってきた音楽を聴きながら、まだ眠りの中でまどろんでいます。

その日も”自習”という名の”遊びの時間”を過ごしに学校へ行くため、KENWOODのコンポを目覚まし代わりにタイマー予約していたのでした。

最初にかかってきたのは大瀧詠一『カナリア諸島にて』

『カナリア諸島にて』は名盤A LONG VACATIONの3曲目に収録されています

大瀧詠一さんの曲はちょうど高校に上がった頃に聴き始め、洋楽志向の私を邦楽にも目を向けさせてくれた、とっても貴重なアーティスト。中でも『カナリア諸島にて』は大好きな一曲です。そんな曲で始まる一日はなんだかいい気分だなぁと思いながら、まだベッドから出ることが出来ない僕。

外ではカンカン照りの太陽の下でセミが大合唱しています。

次にかかったのが原田知世『天国にいちばん近い島』

『天国にいちばん近い島』は3曲目に収録されています

まだ高校生だった私は原田知世さんのこともあまり詳しく知らず、昔のアイドルの方なのかなぁくらいでした。その頃インターネットもあまり普及していなかったので顔もわからず。その後社会人になって「私をスキーに連れてって」や「時をかける少女」などの映画後追いで見て良い意味で普通感のある唯一無二の役者さんだなぁと思うわけでした。

最後にかかったのが山下達郎『Loveland, Island』

夏だ!タツローだ!時代の名盤『FOR YOU』の7曲目に収録されています

おおぉぉなんだこれは!!めちゃくちゃいいじゃないか!!

小学生高学年の頃から洋楽が好きで、中学校に上がるころには、好きな音楽は『ビーチボーイズ』と答えていた私。山下達郎の『Loveland, Island』は洋楽に負けないパンチがあり、パワフルでカラフル。ビーチボーイズに負けないくらいキラキラしてて夏には持って来いのナンバー。めっちゃいい感じ。

そして僕は胸でこう思います。

「適当に自習した後はCDショップに行こう!」

実はこの夏休み期間、朝のこの時間帯に3曲ノンストップで夏に聴きたい曲をかけるといったコーナーがあり、この日はたまたま、そのコーナーピッタリにタイマーが起動したのでした。(その後夏休み期間この時間に合わせてこのラジオを聴くようになりCity Popというジャンルを深堀するのでした。)

暑い夏空の下、自転車をこいで学校へ。

学校に着くと、いつものメンバーが思い思いの席に座って教科書や参考書を開いています。わからないところを教えてもらうといった口実を使い、誰からともなく雑談が始まる教室。僕も席に着くと一応教科書、参考書、ノートを開きます。

そこでなんの話をして、どんな勉強をしたかは覚えていませんが、頭の中で、『Loveland, Island』がずっと流れていたことだけは鮮明に覚えています。

そろそろ帰ろうかとなった時に、友達の一人が近くの古本屋によって帰ろうって言いだしました。

「まぁあそこの古本屋なら多少CDも置いてるし僕も寄っていくかぁ。」
「CDショップは
その後に行けばいいや」

と思い、僕も一緒に行くことにしました。

小さな古本屋で一枚のCDと出会う。

勉強を早々に切り上げて、自転車でぞろぞろと古本屋に向かう僕たち。古本屋といってもそこはブックオフのような大型店ではなく、個人経営の小さな古本屋。そこには漫画や文庫を中心に品揃えされていましたが、CDもそれなりに置いてあるようなお店でした。

到着すると、他の友達はお目当ての本コーナーのところへ。
僕はCDコーナーへ向かいました。

「あいおえお」順に並んでいる陳列棚から「や・ゆ・よ」のところに目を向ける僕。そこで1枚のアルバムが飾ってあるのを見つけます。

COME ALONG Ⅱ

CDショップなどに行くと、ジャケットが見える状態で陳列してあるアルバムがあります。(こういう陳列を平置きっていうのかなぁ)
この『COME ALONG Ⅱ』が正面を向いて陳列されているのです。

「ジャケット、超カッコいい!」

当時は携帯もインターネットも普及していない時代。山下達郎のアルバムを調べたくても、高校生の僕にとっては調べきれずにいた僕は、『COME ALONG Ⅱ』がどんなアルバムなのかも知りませんでした。

【補足】
『COME ALONG Ⅱ』はアメリカのFMっぽい感じで作られたアルバムで、曲と曲の間には小林克也さんとカマサミ・コングさんがアメリカンな感じで曲紹介をするといった、ちょっと特殊なアルバムです。しかも『COME ALONG Ⅱ』は題名を見てもわかるようにこのコンセプト内で作られた2作目のアルバムとなります。

中古にしてはちょっと高い値段。でも欲しい。

平置きされている『COME ALONG Ⅱ』を手に取る僕。すると『Loveland, Island』が収録されているではありませんか。

『Loveland, Island』が収録されていて、このお洒落でカッコいいジャケット。そんなの期待できるアルバムに違いないでしょ!

そう思って値札を見る僕。すると中古品とは思えない値段が書いてあるじゃあるませんか。(とは言ってもプレミア価格とかではなく、新品2500円のものが中古で2300円とかそんな感じ。)

高校生の僕には高く感じました。中古なのに・・・少し悩んでいると、本を選び終えた友達たちが僕のところへやってきます。

「モーリーもなんか買うん?」

持っていたCDを見て
「おっ誰のCD?山下達郎?夏なのに?」

当時、山下達郎さんは今のように精力的に活動をしておらず、当時の一般の高校生には『クリスマスイブ』の人って感じの知名度でした。

「もう帰るでぇ」と言わんばかりにお目当ての本をもってレジへ向かう友達たちの姿を見て僕も早く決断しないとと焦ります。

「ええぇい!買っちゃえ!」

『COME ALONG Ⅱ』を手に友達の後を追う僕。

高校生にとって2500円近い買い物はかなりの出費でした。

家に帰り『COME ALONG Ⅱ』をCDコンポへ

家に帰り『COME ALONG Ⅱ』を早速KENWOODのCDコンポへ。

まずはお目当ての『LOVELAND, ISLAND』から聴こう。

8曲目までトラックを送ってみると、そこから聴こえてくるのはDJの声と『LOVELAND, ISLAND』。
あれまさかの編集版?1曲単独で聴きたかったのに・・・とちょっと肩を落としたのもつかの間、『LOVELAND, ISLAND』のトロピカルな世界観に引き込まれ、気が付けばノリノリになっているではありませんか。

『LOVELAND, ISLAND』を聴き終わった僕は最初から通しで聴いてみることに。

流れてきたのはカッコいいDJの曲紹介と共に流れるミュートに聴いたギター。最高にファンキーでゴキゲンなリズムに思わず体が動いてしまいます。

「うぉぉ!!カッコいいぃ!」
「ジャケットのイメージ通りのサウンドや~!」

1曲目の『FUNKY FLUSHIN'』から始まり、6曲目の『あまく危険な香り』までがLP時代のA面に当たります。こちらはNIGHT SIDEと書かれており、主に夜聴くといい感じの曲がそろっています。

波の音から始まる7曲目。『SPARKLE』のカッティングキターに乗せてLPで言うB面が明るくスタート。8曲目の『LOVELAND, ISLAND』、超有名曲『RIDE ON TIME』、ミディアムテンポの『いつか (SOMEDAY)』を挟み、最後はロマンティックなバラード『YOUR EYES』で締めくくり。

最高すぎる約45分を過ごした僕は放心状態。
「これぞ青春の塊や~!これぞ日本の夏や~!」

この感覚って現在のサブスクでは体験できない感覚。
お金を出して、リスクを背負って買ったからこそ得られる至福の時(笑)

「今日買ったCDは当たりやったぁ~!」

時は流れ、僕にとって一生の宝物の一つに

『COME ALONG Ⅱ』は僕にとって宝物の一つになりました。
「夏を制する者は受験を制する」なんて言葉があるように、遊びたいけどストッパーを外してハチャメチャに遊ぶことが出来なかった高校時代。

車の免許を取って「いつかは隣に彼女を乗せてドライブしたい」と語り合いながら男同士ドライブに出かけてた大学時代。

真っ青な夏空の下、我武者羅に背伸びして大人になろうとした社会人時代。

そして時は流れ、ビニールプールではしゃぐ子供たちの姿に癒される中年時代。

いつの時代にも夏になると僕のそばで『COME ALONG Ⅱ』が流れています。

音楽って時が経てば経つほど自分の中で熟成されて磨きがかかります。
聞けば聞くほど色々な時代の楽しかったこと、甘酸っぱい経験、歯を食いしばって頑張ったことなど、様々な時代にタイムスリップして走馬灯のようにその時の想いや気持ちを蘇らせてくれます。

僕にとっての『COME ALONG Ⅱ』とほかの方にとっての『COME ALONG Ⅱ』はまた違うものなはず。それはその人の人生と共に音楽が寄り添っているから。

一生より添える作品を作りたい

今私は映像を作る仕事をしています。
そしてたくさん制作させて頂いている案件の一つに舞台撮影があります。

舞台は演者にとって最も輝ける時間。その一瞬のために何か月、何年もひたむきに頑張っています。毎回舞台に立っている演者でも、舞台ごとにドラマがあります。それは舞台上だけでなく舞台に立つまでの道のりを含めて。

以前「ぐっでぃさんの映像を見たら、いつもあの日の気持ちに帰れます。」
そんなことを言っていただいたことがあります。

「あの日に帰れる。」って言葉を頂いたとき、心の底から嬉しかったです。私が音楽を聴いて「あの日に帰れる」ように、映像を見てあの日に帰ってもらえてるんだ。自分の作った映像が一生の宝物として心の隅にしまってくれている人がいることに胸が熱くなりました。

「一生より添える作品を作りたい。」

私はそう思いいつも舞台後方からカメラを回しています。
一生より添える作品を作るためには撮影技術や編集テクニックだけでは出来ません。演者や舞台にかかわるすべての人たちの熱量を受け止める熱い気持ちと寄り添う温かい心。そして良い作品を届けたいという情熱が技術と共に必要です。

思い出は一生の財産だと思います。
年をとると色々な時代の色々な思い出が蓄積されて、より深みを増し、気持ちが温かくなるような気がします。

これからも時が経って映像を見てほっこり「あの日に帰れる」作品を少しでも多くお届けしたい。
そして一生より添える作品とたくさん出会い、素敵な思い出をどんどん作って行きたいと思う2020年の夏の一日でした。

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