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グッテnote就労  IBD就労イベントレポート「IBDとともに働き続けるコツ〜コミュニケーション編〜」

みなさんこんにちは。グッテnote編集部、サポートスタッフのランです。

2022年1月29日(土)14:00-16:00に行われた、田辺三菱製薬株式会社様と株式会社グッテ共催のIBD患者さん向け就労イベントのご報告をします。

1.イベント概要

【開催の背景】

IBD患者さんは日常的に腹痛・下痢などの消化器症状を抱えていることに加え、症状が悪化すると入院が必要となることもあり、仕事と治療の両立に悩む方も多いと言われています。
多くのIBD患者さんは若年で発症し、病気とともにキャリアを築いていかなければならない一方、職場での周囲とのコミュニケーションや伝え方に難しさを感じたり、不安を抱えながら就労しています。
実際にIBDを抱えて働き続けるためには、職場での周囲とのコミュニケーションが不可欠です。しかし、課題に感じる患者さんも多くいらっしゃることから、今回「IBDとともに働き続けるコツ〜コミュニケーション編〜」の開催に至りました。

【参加人数】

〈パネルディスカッション〉登壇者含む患者さん、もしくはご家族:44名
今回は50名を超える方に事前申し込みをいただきました!当日もたくさんの方にご参加いただき、誠にありがとうございました。

2.イベントの内容

第一部:パネルディスカッション

IBD患者のKenさん(潰瘍性大腸炎)、しんちゃんさん(クローン病)、ランさん(潰瘍性大腸炎)の3名によるパネルディスカッション。
ファシリテーター:就労支援ネットワークONE 中金竜次氏

登壇者の方のプロフィールは以下の通りです。

Kenさん(50代):10年前に潰瘍性大腸炎を発症し、全大腸炎型と診断され緊急入院し治療を開始する。炎症が激しかった為に2ヶ月間の絶食入院となった。退院後も治療を続けながら営業の仕事(製薬会社のMR)をしており、転勤も数回行っている。現在は単身赴任中。

しんちゃん(30代):17歳でクローン病と確定診断。工業高校、コンピュータ専門学校と進学し2010年に入社。人事を9年経験し、現在は情報システム部門で社内システムエンジニアとして働いている。入社後も入院と休職を経験。患者会代表としても、積極的に情報発信をしている。

ランさん(30代):2013年海外で就労中に潰瘍性大腸炎を発症、入院。難治例のため退職し帰国。入退院を繰り返しながら転職を経験。寛解導入後に司書の資格を取得し、現在は医療関係の研究所にて情報支援職に就くかたわら、Gコミュニティでサポートスタッフとしても活動中。

自己紹介の後、以下の内容についてお話しいただきました。

①就職・転職時に病気のことは開示しましたか?

ランさん:今まで何回か転職と、同じ会社の中でも異動したこともあるが、全て履歴書などに病気のことは書いて、オープンにした上で就労している。
体調が落ち着いていて日常生活に支障がない人が伝えずに心地よく働けるならいいと思うが、私は活動期から寛解期になって間もない就職だったり、体調のアップダウンが良くあるので自信がなかった。悪くなる可能性がある以上、病気を伝えた上で入るのが自分なりの誠意だと思った。

Kenさん:転職したことはないが、転勤を8回くらい経験している。そのうち病気になってから配置換え含め3回転勤した。発症時はいきなり入院したので、周りに迷惑をかけた。基本的に病気のことはオープンにしていて、転勤時も次の職場に情報開示している。
製薬会社で働いているので薬のことは周囲も知識はあるが、IBDについては理解しづらいところはたくさんある(治るでしょ?普通の生活できるでしょ?など)。そういうところの正しい理解が得られるよう、話すようにしている。特に注意しているのは、トイレの回数が普通の人より多いことをきちんと説明し、回数が増えている時は悪化してるんだなと知ってもらうようにしている。

中金:異動後、誰にどう伝えるのか。

Kenさん:上長にまずは理解を求める。あとは、一緒に仕事をする同僚。一番近い存在の人に話す。自己紹介のスライドを転勤の度に作成し、転勤や配置換えがあったらそのスライドを使用してUCについて開示するようにしている。

しんちゃん:2010年に入社して入社日に倒れ、タクシーで人事部長に家まで送ってもらい、翌日から入院した。元々障害者採用だったので、病気だというのは担当者は知っていたが、まさか入社翌日入院とは思わなかっただろう。
4ヶ月入院し退院後に、クローン病について治療計画や通院頻度、入院した時の退院目安などをまとめたマニュアルを作って全員に配った。入社3年目ぐらいまでは続けたが、自分が会社に根付いたので、それ以降はやっていない。

中金:病気のマニュアルを作って共有することについてどう思うか、ランさん?

ラン:私も作っている。紙にまとめて、どういう病気でどういう配慮があると嬉しいということを書いて渡す。一緒に働く上長にはしっかり伝えるため。
異動時も、新しく関わる上の人には提出する。その際は、マニュアルを渡すと同時に、自分がその症状を抑えるためにどういった努力もしているかを伝えるようにしている。配慮事項としては、例えば通勤に時間がかかる職場が多かったので、出勤時間や経路の調整をお願いした。

中金:周りの反応は?

ラン:私の場合は、出してダメだと言われたことはない。直属の上司や一緒に働く人に病気を伝えておくことは、一緒に働いて関係性を作っていく上で大切なような気がしている。長く働きやすくなるのではないか。
こちらがきちんと話すと、お腹の病気って大変だよねと共感されたり、思ってもなかった反応が返ってくることがある。「あなたは患者さんの気持ちがわかると思うから、そこを生かして働いてほしい」と言ってもらえたこともあった。思いもしないコミュニケーションが生まれるかもしれない。

中金:合理的配慮をもらう上で、配慮の内容は当事者から伝えなければならない。伝えた時の心理的なシミュレーションとして、ランさんの話を聞けてよかった。
Kenさん、伝える時の同僚の反応っていかがですか?

Kenさん:病気について否定する人は非常に少ない。単身赴任なので通院のため有給休暇をもらっているが、我々の年代は休まないことの美学を持っている人も多い。社会が休暇推奨の傾向となってきているところに助けられている。ただ、出なくてはならない会議を通院のため休まなければならない、代役を立てなければならないこともあるので、工夫している。

しんちゃん:クローン病って何?と言われることが多い。自分は障害者というラベルがあるのでそこから伝えるが、労わってくれるような反応が多い。クローン病については詳しいことは言わずに、お腹の病気で1年に1回くらい入院するんですよねと伝えると、大変さの度合いが端的に伝わる。
同部署にいても業務の近さは違うので、業務的に近い人にはさっきのマニュアルのような分量で、あまり関わらない人には軽く伝え、説明のボリュームを変える。

中金:相手によって伝えるレベルや内容を変えているのですね。人事部で働いて、気づきや変化は?

しんちゃん:自分は採用担当ではないが、障害者採用は定期的に行う。内部疾患は会社側としては雇用しやすいのではないか。特別なオフィス環境の整備の必要がないので、どういった配慮がほしいかということをちゃんとこちらが伝えれば、その配慮するだけで良い。人事側としては雇用がしやすいのではないかという知見を得ている。


就労のイベント時には、「職場に対して病気の開示をするか、しないか」はいつも話題になります。登壇者の皆さんそれぞれのお考えがあり、いつも興味深いのですが、今回は全員が開示、そして紙やスライドにまとめて伝えるという共通点がありました。皆さん工夫をしながら伝えているようです。


②体調変化時に、どう伝えていますか?

ラン:体調悪化は普通の人よりは多いと思う。寛解期なのでそこまでお休みをもらうことはないが、体調悪い時には早退して早めに休む。
事前に説明してあっても、突然休むことで周りに迷惑をかけることはある。迷惑をかけたら謝って、何かしていただいたら感謝の気持ちをきちんと伝える。そして、元気な時に自分のできることをしっかりやる。
「あいつは頑張れない」と言われたこともあるが、それは事実なので仕方ない。
休まないという価値観で争うと負けてしまうかもしれないが、それ以外の付加価値をアピールするようにしている。例えば、今の職場だとコロナ禍で利用者が減ってしまったが、動画作成を始めて利用者へ働きかけるなど。自分の強みや得意なことを活かしたり、挑戦したり、何かできることを探すようにはしている。

中金さん:持ち味や強みという土俵を変える作戦でアピールしているんですね。

Kenさん:私の場合は今は寛解期で変動はないが、仕事柄、忙しくなる時期に必ず悪くなるというリズムが出てくる。この時は体調悪化するかもということを周りに知ってもらうようにする。安定している時は、特に配慮なく普通の人と一緒に仕事できますよとアピールする。

中金さん:やりやすい時に頑張るということですね。一方、頑張り疲れという声も聞こえてくるのですが、そこら辺のバランス感覚も知りたいですね。

しんちゃん:頑張り疲れはわかる。ランさんの早退サクッとします、はすごいと思う。僕はやりきりたい。早退するとは言いたくない。業務としては忙しくない時もあって、そういう時は早退しても良いけれど、気持ちとして早退したくないと思う。それは頑張りアピールだと思う。決められた就業時間内、きちんと頑張ることでアピールができると思っている。
体調の変化をどう伝えているかは、自分は小腸型なのでトイレに頻繁に行くとかはない。しかし、IBD患者さんは寛解期であっても、複合的にいろんな症状があることがあると思う。倦怠感は、IBDのせいなのかわからないこともあると思う。
問題の切り分けはできないので、体調が悪い、疲れているということを上司に正直に伝えるしかない。日頃から上司や同僚とコミュニケーション取っておかないと、こういう突発的なトラブルに協力してもらえなくなるので、頑張りアピールをしてしまう、という僕の日ごろからの悩みでもある。

中金さん:状況と頑張りアピールとがループしていてもどかしいですね。

③病気があっても働きやすい業界や職種、また、能動的に働きかけて環境が変わったことなどは?

ラン:しんちゃんさんの話を聞いて、難しいなと改めて思った。私もサクッと早退しつつも罪悪感もあるし、頑張りアピールも、そうだよなぁと思う。能動的に働きかけた結果かはわからないけれど、自分も相手も不完全だと思うので、それを許容できるようになった。以前は自分も頑張らなきゃ、普通の人と同じように働かなきゃと思っていたが、それで体調を崩して自分を責めて自己嫌悪になった。
でも今は、長期的に見ると、自分が元気で長く働けることが職場への貢献になると思っている。余裕ができると視野が広がって、自分にも相手にも事情があると思える。たまに潰瘍性大腸炎という自分の事情を忘れられてしまうこともあるけれど、この視点になることで、自分が働きやすくなった。自分にとっても職場にとっても、この視点が働きやすさにつながっていると思う。

Kenさん:この病気自体がストレスが8〜9割関連していると考えている。難しいが、なるべくストレスをためないように、うまく発散させるように心がけている。それでも悪くなる時期は来るので、そこに備えて同僚には日ごろからなるべく会って、冗談っぽいかんじでも、病気のことを伝えていく。すると、仕事をしやすくなる。自分が体調不良になった時にこういう配慮がほしいとさりげなく伝えておく。

しんちゃん:働きやすさの発端は、上司→部署→企業のように広がると思うが、企業が理解を示してくれるか、働きやすい環境かどうかというのは、一つの会社しか知らないので正直わからない。
ただ、自分の会社は女性が8割の企業だから働きやすいと思う。どれだけ休職しようが体調不良で急に休もうが、いつものことだよね、と接してくれるのがありがたい。
長く働く美学を持っている企業で働くのは大変だろうなと思う。休むことを推奨・許容してくれる企業に入るのが働きやすいと思う。

中金さん:理解される・されないについて、会社の風潮、文化的なものなのか、いろいろあるので、人によっては環境をリチョイスすることもあると思う。周りから幾らかの理解を得られることで、働き続けられるかどうかが決まると思う。


④参加者の方からいただいた質問への回答

1.どうすれば合理的配慮が進むと思いますか?
中金さん:あまり周知がされていないことがある。アンケートを取ると、半分上の企業が合理的配慮を知らなかった。しかし、3人に1人には病気がある、治療しながら働いているので、社会全体で周知をしていくことが必要。支援者も正しく理解できていない方が実際にはいるため、この周知をしっかり取り組んでいきたい。

2 .病気について受け入れるのに、どれくらいかかりましたか?
ランさん:正直今でも完全には受けいれられていない。やはり病気でイヤだと思うことはある。しかし、病気を通じて繋がりや活動ができたりして、いろんな新たな出会いを通して受け入れられるようになった。
病気であるからこそ、自分は他の人の不完全さも受け入れられるようになったと思うので、良い変化に目を向けられると気持ちが楽になるのではと思う。

しんちゃん:自分は発病した時に絶望した。ただ病気であるだけで終わりたくないと思って、患者会などの活動をしている。しかし、体調が安定しないと何もできない。そういう状態だと病気を受け入れることは難しい。まずは治療を最優先して、寛解を手に入れることが第一ステップ。その後自分も社会に貢献できる、自分も何かできると思えるようになれば、受け入れられる。

Kenさん:難病として国から治療費補助もある。ずっと悪いわけじゃなく、良い時と悪い時を繰り返すのがIBD。良い時には普通の生活ができるので、良い時をなるべく長く続けられることを目指すのが良いと思う。

中金さん:病気を受け入れている人もいれば、そうでない人もいる。傷つき体験をした人もたくさんいる。受け入れられないことも、そのままの自分として受け入れてあげたらいいと思う。


もっと深堀りして聞きたい点が満載でした!!体調の良いときの頑張りアピールや頑張り疲れの問題も、難しいなと思います。皆さんバランスをどのように取っているのか、色々な方のお話を聞きたいですね~。
また、今回はパネルディスカッション視聴者の方から質問もいただき、双方向でコミュニケーションが取れたのも良かったなと思いました。



第二部:交流会

6名前後でルームを分け、パネルディスカッションの登壇者の方にも入っていただき、参加者間でお話をしました。
たとえば、以下のような話題が出ました。

しんちゃんグループ:就活時の病気の開示について、寒さと体調不良の話 など

Kenさんグループ:職場の人とどのようにコミュニケーションを取るか、仕事が違うとどのように違うのか。簿記、FP(ファイナンシャルプランナー)などの資格について。

ランさんグループ:就活で病気を開示する時に企業にどう理解してもらえるか。メンタルが辛くなった時の対処法。自分の仕事量についてキャパシティーをどのように把握するか、など。

交流会では顔出しなし・聞くだけ参加もOKです。皆さんと気軽にお話しできればと思います。

レポートは以上です。
グッテではまた就労イベントを企画していますので、今回は参加できなかった方も、また次の機会にご参加いただければ幸いです。
登壇者・参加者の皆さん、お忙しい中どうもありがとうございました~^^