聖堂のための散文(個展で展示してないものも含む)
はじめに
教室の北側の窓から赤松が一本風に揺れているのが見える。
五時限目の授業中はオレンジ色に染まっていく外の景色を眺めながら妄想をするのが日課になっていた。
オレンジ色の夕日、木目を模した廊下の模様
校舎西側の階段を上がると音楽教室があり、そのななめ向かいに美術教室がある。
扉を開けると画材のにおい。ダリの画集を本棚から取り、馬のデッサンを眺めた。
レモン
青いレモンを一口かじり
ああ、ため息が出るよ
赤いお茶を一口飲んだ
あつい!なんで!?むかつく
黒い鉛が頭を満たして
素敵な日曜日は最悪になった
緑色の薬を飲もう
きっと大丈夫になる
じきに...大丈夫だよ
ハッチング
すべての天使が孵化して
空に飛び立つ夕暮れ
私も連れて行ってほしい
傷を羽に負い
あなたは飛ぶことをやめてしまった
だから連れて行って
どうか遠い上空に
地上のトラブルが見えなくなって
すべてが青に飲み込まれるまで
慈雨
夜のうちに雨が降っていたようで
コンクリートが湿っている
朝日がまぶしくて目がくらむ
2年も前のことなのにあなたを思い出す
昨日のことのようで、まだ私は幽霊を見る
皮膚の産毛が朝日で透明にきらきら
光って
雨を讃えた
小旅行
明日を心配して今日を生きられないのなら
きっとあしたもそう
一ヵ月後を心配して今苦しむのなら
きっと一ヵ月後もそう
かばんに手帳、デスクには付箋だらけ
それは不安の種?
それとも不安を必死に消そうとしたしるし?
闘っているのだね、毎日。
私と逃げて
どこまでも遠くに
週末を飛ばして、
問題が見えなくなるまで
あなたと一緒に
二人の知らない場所へ
私と逃げて
感覚が麻痺するまで
痛みが追ってこなくなるまで
春
空気が変わる
それは大気中の水分量が変わったのか
風の含む熱が変わったのか
渡り鳥が来訪する
アパートのコンクリートに巣を作る
翼が空気を撹乱して
そして大気はゆっくりと組成を変えた
5pm
気持ちの悪い泥が
私の四肢にまとわりついている
どうにもごけないし
呼吸も浅くしかできない
私は沈んでいる
沈んでいる
黒い海
泳ぐすべを知らないというのに
7時~未明
心臓がいつもより早くなる
嵐の中
頭の中で嵐が起こる
電気が点滅して
思考はジャンプの連続で
足が宙に浮いている
どこに自分はいるのだろう
落ち着いてくれ
混雑する海に溺れないように
必死に思考する
論理がすべてに勝る
そのときを待つのだ
恐れが胸を満たす
声を上げたくなる
こらえることを知っているから
その分つらくなる
あの時、友達の言葉
アルコール、眠剤
「アイツ昨日やばくてさ」
小雨、蛍光灯
忘れてほしい
静かにするから
ちゃんとこらえているから
ランナー
まだ暗い空、
少し軽やかになった風
アスファルト湿り
いくばくかの休息
乖離する心と本体の
隙間から流れる汗
手首を執拗にひねり
夜は明けた
フェアウェル
電気ケトルがカチッと音を立てた
コーヒーにするか紅茶にするか
それぞれの選択から無数の分岐に分かれて
樹みたいに未来は拡散していく
私がコーヒーを飲んだから
きっと紅茶を飲む私は
全く違う人生の私
だから一応さようならといっておく
私の尊い離別だ
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