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ちびたの本棚 読書記録「八月の御所グラウンド」万城目学

絶え間ない蝉の声と肌を焦がすような日差し。むせ返るような暑さの京都では、信じられないことが起こらないほうが不思議なのかもしれない。

美しい留学生シャオさんが放つ掛け声はまるで呪文のようだ。覇気のない主人公 朽木を始め、寄せ集めの草野球チーム全員の意識が、試合を重ねるごとに変わっていく。

あっけらかんとした日差しが降りそそぐグラウンドに、戦争という大きな波に呑み込まれた若者たちの心の内を思う。出陣学徒壮行式が京都でも行われていたことを知らなかった。

もうひとつの短編「十二月の都大路上下ル」で主人公が遭遇する出来事も、京都の町ならではだ。

京都の町には多くの魂がずっと息づいていることが分かる。でもそれは決して恐ろしいものではなく、強い思いがその土地に残ってしまった、ただそれだけのこと。その不思議な現象は、現在を生きる人の魂と共鳴した時に現れるのか。それはその場所にとって大切なものであり、この先も失くなってほしくないと思う。

このところの冗長な長編よりも、はるかに秀逸な短編であると思う。読み終わってなお、物語の中にもっと浸っていたいという余韻がある。

また、シャオさんのバイト先が、鴨川ホルモーに登場する居酒屋「べろべろばあ」というのも、万城目ファンを楽しませてくれる♪

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