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連載小説【正義屋グティ】      第25話・串刺し

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25.串刺し

バコ――ン
ウォーカー先生の救出劇が済み、デパート内に取り残された50人ほどの子供たちは目の前に突如として現れた大穴に唖然とした。デパートは自らの身体を大きくうねらせ、地上には定期的に赤レンガがゴロゴロと転がる。その原因を作っているのは夜明けを待つこの街の上空で竜のように暴れている二匹のロボバリエンテだった。
「くそっ、また逃げやがった。テツヤあいつを追うぞ」
前方射撃席に座りその先の太い銃口で標的を狙うラスは後方操縦席で操作する相方に指示を出す。
「…おう」
デパートに埋もれた機体をゆっくりと引き出すテツヤは、レンガが崩れ落ちる様を眺め手を震わす。
「助けて」
空けた穴の先からは、レンガの破片で足から血を流す小さな子供の拙い叫びがテツヤの耳へと届いた。
「なにをやっている、テツヤ。早く抜け出さないと奴が!」
ラスにはこの子供が見えないのか。その言葉を聞いたテツヤは耳を疑った。
「早く!」
黒目が一点を見つめ、不敵な笑みを浮かべるラスはまさに悪魔のようだった。テツヤは怖くなり急いでハンドルに手をかけたその時。
バーンという凄まじい衝撃音がラスたちの乗っているロボバリエンテに伝わった。
「ぐわっ!」
ラスとテツヤは思わず声を上げた。ランゲラックの乗った白のロボバリエンテがラスたちの機体に体当たりをしたのだ。ペン状の機体の側面に攻撃を食らった赤のロボバリエンテはその勢いのままデパートの中に押し込まれ、少年めがけて突進した。
「危ない!」
テツヤがそう叫んだ頃には、既に赤のロボバリエンテは激しい光と熱を発しながらフロアの端の方まで滑り込んでいた。
「ラス、さっきここには子供がいたんだ。早く助けなくちゃ」
「うるせぇ、そんなことしてたら逃げられちまうだろ!俺はすべてを奪ったあの男を生かすつもりはない」
「だからって!」
止めに入る相方の事なんか気にも留めずラスは射撃かんの引き金を引き続けた。
バババババと、ロボバリエンテから鉛玉が次々に飛び出てくる。言葉の通じないラスを止める方法、それは標的を抹消するほかないとテツヤは解釈した。テツヤは仕方なくハンドルを手前に引き、機体をデパートの外に出した。
「…ごめん。行くぞ、ラス」
テツヤは大きく深呼吸をすると、目の前にフワフワと浮いている白のロボバリエンテに向けて縦回転しながら体当たりをした。
バコーーン
白のロボバリエンテはあまりにも突然の攻撃に対処できず、煙を上げがらアスファルトの道路に身を投げ出した。ドンと凄まじい音を立てながら滑り込み、電柱やガードレール、その場にいた人や黒焦げになった車までもを飲み込んだ。
「ラスの野郎、この街を壊してでも僕を殺すつもりだな」
白の塗料が削れ生々しく鉄があらわになり始めたロボバリエンテの後部操縦席には、相変わらず白の服装に身を包んだランゲラックが乗っていた。ランゲラックは頭をさすり一呼吸置くと相方に指示を仰ぐ。
「ルイス、僕たちにとってこの街がどうなろうと知ったこっちゃないけどさ、後々面倒なのは嫌だから、あいつの攻撃次第では冷静に対処しよう。相手はまだ20にもなっていない青年なんだから、殺すことはない」
「おう」
ルイスの相づちを待ち、ランゲラックは機体を再び上昇させた。エンジンモーターが唸り声をあげ、ロケットのように火を噴いて空中を飛び回る白のロボバリエンテに気づいた人々は、瓦礫と化した建物へと身を隠す。
「浮いた。テツヤ、奴に近づけ」
ラスは目の前で弧を描いて縦横無尽に飛び回る物体に目を見張らせ、引き金を引き続けた。
バババババ
赤のロボバリエンテの先からは黄色い光がが細々と現れ、白い戦闘機に向かって飛んでいく。が、その弾丸はそれに当たることもなく、周りのビルの窓ガラスや飲食店の看板、駅の駐車場に納車されている地域バスまでもが次々に破壊されていった。
「当たんねぇ!テツヤ、奴の背後に回れ。これじゃ射程圏外だ!」
「分かっている。でも、敵の操縦がこちらの技術を圧倒している」
「しっかりしろ!俺たちはあの養成所で5年間やって来ただろうが!あんな犯罪集団なんかに負けんな!」
ラスの怒号がテツヤの操縦をさらに荒ぶらせ、遂には充填済みの弾丸を全て使い果たしてしまい、挙句の果てにはランゲラックに背後を回られる結果となった。
「マズイ!来るぞ」
テツヤは大きく叫んだ後、操縦かんを離し頭を抱えた。しかし、白のロボバリエンテは攻撃を行うことはしなかった。敵が背後に回ろうとする瞬間にラスが、一発白のロボバリエンテの銃口の中に弾丸を命中させたのだ。
「ラス、お前当てたのか?」
「ギリギリな」
ラスはすました顔でそう答えると、
「急げ、俺の一発で前方射撃席に乗っている奴を仕留めた。畳みかけるぞ」
と怖い顔をしながらテツヤに指示を出した。テツヤは忘れていた。ラスは養成所時代、他の生徒から群を抜いて成績が優秀だったことを。背後に回ったはずの白のロボバリエンテは銃口から煙を出しながら後ずさりをはじた。テツヤはその瞬間を見逃すことなく操縦かんを右に大きく曲げ、ランゲラックのロボバリエンテの側面部に機体を激突させた。
「よし!」
テツヤが大きくガッツポーズをすると、白の竜は近くの地下鉄の駅へと思いっきり倒される。それを受け止めた地面はものすごいスピードで崩れ落ち、地下に避難していた人間を瓦礫の下へと追いやった。
「あーヤバイな。ルイス生きてるか?」
ランゲラックは衝撃によって操縦かんに頭をぶつけ、血を少し出してしまっていた。頭をさすりながらモニターに目をやると、相方のルイスが巨大な弾丸に胸を撃ち抜かれていた。
「まさか、あの銃口に打ち込んだのか」
モニター越しにピクリとも動かないルイスの姿にランゲラックは、敵が強大なものだと悟った。それと同時に上空からの大きい気配にも気づいた。ランゲラックは急いで操縦かんを持ち上げ上空に浮上するが、ラスたちはそれを読んでいたかのように飛び立ったばかりの白のロボバリエンテに勢いよく切りかかり、弱り切っていたその機体を真っ二つに破壊した。
「わっ!」
さすがのランゲラックもこれにはたまらず声を上げ、千切れて火花を散らしている断面からランゲラックが放り投げられ宙を舞った。
「ここまでか」
ランゲラックは生きようと努力するのを諦め、自分の行って来た冷酷で非人道的な行動を心のどこかで悔いながら、落下していく自分の身体を楽しんだ。その時、ランゲラックの身体は空中で停止した。ランゲラックは突然痛み出した自分の腹の方に目をやると、赤のロボバリエンテの先から出た細長い刃物がその体を貫いていた。

       To be continued… 第26話・逆寄せ
 長かった首都襲撃事件の終焉。串刺し状態で空中にとどまるランゲラックに、因縁の相手に王手をとったラス。果たしてどうなってしまうのか… 2022年12月25日(日)午後8時公開予定!次回は遂に第二章最終話。衝撃的な展開をお見逃しなく!

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