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連載小説【正義屋グティ】   第35話・赤の進軍

あらすじ・相関図・登場人物はコチラ→【総合案内所】
前話はコチラ→【第34話・ブルーサファイア】
重要参考話→【第19話・ロボバリエンテ】
物語の始まり→【1話・スノーボールアース】


~前回までのあらすじ~

新入生歓迎会が終わると、突然正義屋養成所内に小型ミサイルと謎の戦闘機が攻めてきた。一棟にいるスミスと新入生に危機が迫っている中、それを知ったグティとカザマは、自転車『ブルーサファイア』に乗り救出に向かった。そして裏で動き始めたパターソンの作戦は赤の武装集団に太刀打ちできるのか⁈

35.赤の進軍

一棟二階廊下  数十秒前

いつもに増して静かで、緊張が張り巡らされているこの冬に日に武装集団の一人であるノアはぬくもりを求めて赤のダウンのチャックを限界まで上げ身を寄せた。
こんな時期に僕は何をやっているのだろう
脳裏に浮かんできた愛しの妻子の顔を振り払うために、ノアは雪景色が広がる外に目をやった。
「え…あいつら何を」
しかし、ノアの目には少年二人が青の自転車にまたがり宙を舞いながらこちらに近づいてくるという、なんとも情報量の多い描写が広がっていた。
次の瞬間、その少年たちは大きな破壊音を立てながら窓ガラスを割り、こちらへと突っ込んできたのだ。
「邪魔だぁあああ!お前らあああ」
青の自転車はきれいな着地を決め、ものすごいスピードでノアの横を過ぎ去る。
「な、何をしている⁈侵入者だ。早く始末するのだ!」
副指揮官である男の低い声にノアは目を覚ますように銃を手にし、猛スピードで廊下を走り抜ける少年達に標準を合わせる。冷たく固い引き金に指をかけ、今にも荷台に乗っている少年の頭を撃ち抜けるという絶好の時にノアは引き金を引くことなく硬直してしまった。
「みんな!待て。その荷台に乗った少年は恐らくニコル潜入捜査長の仰ったグティレス・ヒカルだ!その男は生きたまま国に持ち帰るというご命令だぞ」
ノアが声を荒げると、標準の合わせていた20人ほどの赤の男たちが一斉に銃を下ろし息を飲んだ。
「銃を下ろした?」
違和感を感じたカザマは、このチャンスを逃すまいと急いで空いている教室に滑り込む。ブルーサファイアは丁寧に並べられた机や椅子に受け止められて何とか停止することが出来た。
「痛ってー!もっときれいに止まってくれよ」
腰を強く打ち転げているグティを横目に、カザマはすかさずドアの鍵を閉め深く白い息をついた。もろい木造の板を挟んだ奥には数十人の大人たちが慌ただしく足音を立て走り回る。
「グティレス・ヒカルがいるってどういうことだよ」
「知るかよ!でも、奴は殺すな。副指揮官の指示はまだか!」
「気を付けろ!ニコル潜入捜査長の話によるとグティレスは狼男だそうだ!」
声が教室の前に段々と集まってくるのが分かった。だが、雑踏交じりのその声から何か情報がもらえるわけでもなければ、助かる手立てを教えてくれるわけでもない。カザマの心はいつドアが破られ自分より背丈の高い男たちが攻め入ってくるかで気が気ではなかった。
「どうすりゃいいんだよ」
先ほどまで強気だったカザマだが、大人数から銃口を向けられ命を狙われた15歳の心はもうとっくに壊れていたのだ。カザマは拳を地面に打ち付け絶望に満ちたような顔で小刻みに震えていた。
「カザマ?お前、大丈夫か」
カザマの異常な雰囲気に引っ張られむくっと起き上がったグティはそう口にする。
「大丈夫なわけねぇだろ。俺は大人数に命を狙われることがこんなにも怖い事だと知らなかった。今までは、正義屋になって戦争に行っても怖がらずに胸を張って戦えると思っていた。でもいざ死ぬかもしれない状況になるとわかる。命がこんなにも惜しい物だったって」
カザマの荒い息が立ち上る白い吐息から伝わってくる。こんなにも震えているカザマなんて初めてなものだからグティは声の掛け方に困った。しかし、ドアがドンドンと叩かれる音がこの事態の非常さを表していることにグティは気づいた。
「『生存の希望を最後まで捨てるな』だろ?早く起きろよ。カザマ」
「え?」
カザマはハッとした。まるで一年前の自分に諭されているかのような気分になり、自然に顔が上がった。その先にはこんな事態だとは思えないようなグティの前向きな顔が、不思議とカザマを身体をゆっくりと起こしてゆく。
「なぁ、この『ブルーサファイア』ってカルム国製だよな?」
「え、あぁ」
グティの突然の問いかけに情けなく答えると、グティはブルーサファイアのスタンドを立てドアの目の前に置いた。
「グティ、お前何する気だよ」
「カルム国の自転車は特殊な構造をしていて、ペダルで漕いだ分後輪だけが回り前輪はそれについて行くように回るんだ」
グティは角ばった荷台にひょいっと飛び乗り、サドルにカザマを座らすように目で促す。カザマは何が何だか分からないままサドルにまたぎ、
「なんでそんな事知ってんだよ」
と、シンプルな疑問を投げかける。
「何でって、お前のいつもしている自転車話を聞かされてたら勝手に覚えるって」
グティはさらっと返答すると、
「早く、漕げよ」
とカザマの膝をパシッとはたいた。冷たい隙間風や、ドアをこじ開けようとしている男たちの声を一切無視し、カザマは言われるがままにペダルを無我夢中で漕ぎ続けた。
ウイー――ン
自転車のチェーンが激しい音を立てているのに、スタンドが立っているため前に進まない不思議な感覚がカザマの心を躍らせた。そして遂に扉がゆっくりと開くとグティはスタンドを蹴り飛ばした。ものすごい回転をしている後輪が地面に付き二人を乗せたブルーサファイアは赤い服の男たち目掛けて急発進をしたのだ。
「うあああああああああ」
予想だにしていなかった事態に男たちは慌てて逃げようとするも、スピードを溜めていた新品の自転車に敵うはずも無くあっけなく轢かれ声を上げる。
「グティ、これ俺達もヤバイって!」
しかし、カザマたちもそのスピードを制御しきれずに、男たちと共に地面に倒れ込んでしまった。
外では身を細めるような極寒の突風が吹き窓ガラスを叩いている。そんな音に皆が耳を傾けるほどに静かな空間が廊下全体に出来上がった。
「グティ!大丈夫か?」
「あぁ大丈夫だ。早くスミスたちのところに行こう」
グティとカザマは何とか起き上がると、地面に倒れ込んでいる男たちの上を歩き一階へと向かった。が、巻き込まれなかった数人の男たちがグティ達をライフルで狙っているのを二人は気付いていなかった。
「あのショートヘアは、グティレスじゃねぇな」
無事だった一人であるノアはカザマの後頭部に標準を合わせると今度こそ引き金を引いた。
バンッ
「ぐわあああ!」
弾丸はカザマの左足に命中し、その場に倒れ込んだ。
「カザマ!」
グティは目を丸くし発砲音の方に振り向くと、そこには頭から血を流すノアと手を震わしながら鉄パイプをもつパターソンの姿があった。

         To be continued… 第36話・共倒れ
一難去ってまた一難。動き出すパターソンの作戦とは一体…?2023年5月7日午後8時ごろ投稿予定!!!今週はゴールデンウイーク。最高!お楽しみに!


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