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連載小説【正義屋グティ】   第34話・ブルーサファイア

あらすじ・相関図・登場人物はコチラ→【総合案内所】
前話はコチラ→【第33話・僕と後輩】
重要関連話→【第3話・小さな誓い】
物語の始まり→【1話・スノーボールアース】

~前回のあらすじ~
新入生歓迎会が終わり、新入生を案内するパターソンとスミスは緊急用のサイレンを聞き逃し謎の武装集団が近づいてくることに気づくのが遅れてしまった。助けを求めようと先に帰ったアレグロに連絡するも、自分の受けている使命ではないからとその救助要請を拒否されてしまった。様子を見に屋上に向かったパターソンと後輩のサムはスミスたちの危機を救えるのか⁈


34.ブルーサファイア


「これは、本当に現実なのだろうか?」
整備されていない屋上の上に今もなお降り積もる雪。それに加え身を細い針のよう突き刺し、心を蝕んでいく寒さがパターソンの口からそんな言葉を引き出した。
「電話の相手は…なんて?」
ただひたすらに赤い服の武装集団を目で追いかけるパターソンに、サムはダメもとでそう尋ねる。
「来ないって」
「そんな…」
サムはドスッと大きな音を立て柔らかな白の上に尻もちをつく。それにつられるように、パターソンの手から携帯電話が滑り落ち、沈黙の時間がしばらく続いた。
「今、こんな間にもスミスたちは、死ぬかもしれない瀬戸際にいるんだよね」
「えっ。はい」
「実は、みんなを助けられる方法はもう思いついてるんだ」
思いついている?サムは聞き間違いかと思いパターソンの顔をじっと見つめる。空間は再び静まり返り、冷たい風が体を舐めまわしていく音がはっきりと耳に入るほどになった。
「けど、それは僕の正義に反する行動だからやりたくないんだよ」
また意味の分からないようなことを淡々と言葉にしていくパターソンにサムは分かりやすく混乱していた。
「えっと、すみません。パターソンさんが何を言っているか僕にはわからないのですが…」
少しおかしな先輩の話をうまい感じに流すと、次の瞬間自分の足元から バンッバンッバンッ と冷たい銃声が響き渡った。
「銃声⁈」
「どうやらそんなこと考えている時間はなさそうだね。僕は自分の正義とみんなの命を守りぬく。僕自身を犠牲にしてもね」
パターソンは先ほど雪に埋もれた、赤色の携帯電話を掘り起こすとある人物に電話を掛けた。

駐輪所
「何なんだよ、さっきからこの騒ぎは!」
「相当やばそうだね…あ、電話だ」
大ホールの方から巻き上がる黒煙に目を見張らせていたグティは突然鳴り出した携帯電話に手を添えた。
「グティ聞こえる?こちらパターソン。ちょっとこっちがヤバイ状態で今すぐ助けてほしいんだ」
「大変って…パターソンお前、あの爆発に巻き込まれてねぇよな⁈」
「何だって!」
グティの慌てる声に、近くで自転車にまたがるカザマも思わず声を出す。
「ち、違うけど。とにかく大変なんだ!今すぐ一棟に来てくれ」
「分かった。カザマと向かう」
グティはそう言い切ると電話を切り、凛々しい目つきでカザマにその旨を伝えた。
「カ、カザマはいいよ!」
そうパターソンが止めた時には通話は終了してしまっていた。

「行くぞ、カザマ。そんなガラクタで遊んでる暇はないぞ」
グティは先ほどまで自転車に投げ倒されていたカザマの姿を思い浮かべ、徒歩で校舎へと向かうことにした。しかし、カザマの言葉はグティの想像していたものとは全く異なっていた。
「何言ってんだ、バカグティ。早く乗れよ」
「は?」
グティは呆れた顔でカザマの方に目をやってみると、奴は青の自転車にまたがっていた。
「お前、まさか!」
「こっちの方が速いだろ。行くぞ!」
カザマは大声でグティを呼び込み、スタンドを蹴ると雪の中を危なげなく進んで行った。カザマとグティの乗った自転車は一旦正門を出て少し高地になっている敷地の周りをがむしゃらに走り抜ける。ちょうど半分を過ぎたあたりの時だろうか、カザマは不意に笑顔を浮かべグティに、
「なぁカザマ、この自転車の名前は『ブルーサファイア』っていうんだぜ!かっけぇだろ」
と自慢げに声を高めた。するとカザマを掴む緊張していたはずのグティの手が極端に緩んむ。
「カザマ、お前こんな時に冗談言うなよ、ハハハハハ」
「冗談?何がだ」
「何がって。お前もそういう年頃だもんな」
グティが腹を抱えて声たかだかに笑い転げていると、カザマの頬が少しずつ赤らめていく。
「バカグティ!てめえ!」
恥ずかしさがピークに上ったのかカザマは、グティに怖い視線を送った。しかし案の定、初心者のよそ見運転がそう長くも続くはずも無く、『ブルーサファイア』は二人と一緒にひっくり返った。
「あああああ。おい!バカザマ、どこ見てんだよ!」
「お前のせいだろ、バカグティ!」
「なんだと!この…」
グティは隠し持っていた特大雪玉を手に持ち、カザマに標準を合わせた時。遠目に一棟の一階のある教室が目に入った。その教室の中からははっきりとは見えなかったものの、赤い集団と血で濡れた人間がいたように見えた。
「スミス…じゃないよな、あれ」
カザマの目には、雪玉をもって固まったグティの視線の先の血まみれの人間をそう見えたらしい。
「こんなことしてらんねぇ。グティ行くぞ!」
「おう!」
カザマは再びブルーサファイアを起こすとペダルに足をつけ全速力でこぎ始めた。雪のせいで一見平らに見える雪でも、普通の自転車のタイヤには大きな牙をむく。せわしく回り続けるタイヤにはじかれていく雪がブルーサファイアのスピードを分かりやすく表していた。
「確か、次の電灯あたりの柵が破れてた気がする。そこから乗り込もう」
「よし来た!」
グティの助言にカザマはさらにギアを上げると、校舎のおよそ三階のところから一棟に向けて飛び出した。
「うああああああ」
二人の叫び声と共に一棟の窓ガラスが見事に割れ、二人は校舎の中に侵入することに成功した。
「な、何者⁈」
二階の廊下には銃を構える赤色の男たちが、うじゃうじゃと二人の行く手を阻んでいた。
が、二人もこんな所で止まっている暇はあるはずも無く、二人の乗るブルーサファイアは二階の廊下を大声を上げながら颯爽と走り抜けていった。
「邪魔だぁあああ!お前らあああ」

          To be continued… 第35話・赤の進軍
始まったパターソンの作戦。その本当の意図とは… 2023年4月23日(日)投稿予定!!
出来損ないたちの結束!是非お見逃しなく!お楽しみ!!


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