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連載小説【正義屋グティ】    第21話・本当の


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前話はコチラ→【第20話・標的】

21.本当の

一度弱まった雨は再び勢いを増し、あたり一帯は白い霧に包まれた。雲は隙間なく、その厚い層は空一帯を包囲する。地上で赤く燃え盛った爆発はいつしか黒い灰へと姿を変え、人々は荒廃したビルの下で身を寄せ合う。そんな様子を横目に、ガスマスク男はただひたすら何かから逃げようと走り続けていた。
「はぁはぁはぁ」
嗚咽交じりの吐息を吐きながら、ガスマスク男は空を見つめ膝まづいた。
「俺のせいなのか? 俺は自分の正義と引き換えに、この国に惨劇をもたらしたのか…」
叫びたい気分だった。だが、瞳の中に写り込んできた鬼の形相をした『それ』が男を絶句させた。
「なんだよ、あれ。青い……狼?」
ガスマスク男は幻覚だと信じ、目を強めにこすった。が、目を開けると、おぼろげだったその光景が、より鮮明に見えてしまった。
「う、うわぁぁあああ」
ガスマスク男が怯え後ずさりする頃には、狼はもう目と鼻の先にいた。獲物を見つけた狼が標的を逃すはずもなく、ガスマスク男の顔を勢いよく刻んでいった。
「ああぁぁああ」
ザッと血の気の引くような音と同時にガスマスク男は声を上げた。雨に混ざったガスマスク男の血はとめどなくアスファルトの道路へと滴り、額にできた傷口を両手で押さえた後、その手をまじまじと見つめ男は思わず身震いした。だが青い狼はそんな男の様子には一瞥もくれず、返り血で濡れた顔を空に向かって突き上げると、
「ワォーーーーーン」
と、盛大な雄たけびを上げた。空には満月が異様に光り輝いていた。再び命の危機を感じたガスマスク男はゆっくりと後ずさりを試みる。だが、それを見つけた狼は鋭くとがった牙を標的に向け再び走りし、ガスマスク男の首根を左手でがっしり掴むと、その上に馬乗りになり大きく口を開けた。
「おい、待ってくれ! 何なんだお前は、俺の話も聞いてくれよ!」
命乞いのつもりか、ガスマスク男は顔に目に大粒の涙を浮かべ、もがき続けた。その光景を口が張り裂けるような笑顔で眺める狼は、ゆっくりと牙を獲物の顔に近づけていく。
「やめろ、やめてくれ! 俺がお前に何をしたっていうんだよ!」
ガスマスク男がそんな言葉を発すると、青い狼は動きをピタッと止め、悲しげな表情を浮かべた。そしてさらに強まっていく夜の雨音に耳を支配されてしまうほどに、時間がゆっくりと過ぎていく感じがした。そんな不思議な状態がしばらくの間続いた。狼は一度口を閉じて喉を湿らせると、今度は小さく口を開け、ドスの利いた声でこう言った。
「『俺が何をした』…だと?」
ガスマスク男は突然狼が喋り出したこと以上に、その内容に思わず固唾を飲み込む。そして恐怖でこわばった形相で、小さく反抗した。
「人間の言葉がわかるなら話が早い。俺はお前に何もしていない。人違いだ! だからこんな真似はやめ……」
ザッ
ガスマスク男が話し終わる前に、狼は再び鋭い爪を男の頬を目掛けて振りかざした。
「うあああああああ。だからなんで……?! 」
「いいことを教えてやる。僕はお前が四年前、そしてついさっきも殺し損ねたグティレス・ヒカルだ。僕はお前に絶望という苦く辛く切ない物を埋め込まれた。だからお前に全く同じものをプレゼントしてやるんだ!」
狼はどこか寂しそうな表情を残しつつも怒りに満ちた感情を牙に込め、ガスマスク男の顔に噛みつこうとした。
「殺さないでくれ。俺はただの操り人形だ!」
男は思いっきり叫び、命乞いをした。グティの牙はそのガスマスクを貫いたが、ガスマスク男に直接触れることはなかった。牙に食い込んだガスマスクを外し遠くへと投げ捨てると、狼は、
「はぁ?」
と不機嫌な声を漏らした。するとガスマスク男は何かを決心したような顔で、雨雲を見つめ語り始めた。
「俺の知っていることは今からすべて話すよ。俺たちはホーク大国の政府に雇われたただの一般人だ。俺はホーク大国でアンノーン星についての研究者をやっていて、この星の歴史などを主に調べているんだ。そこで俺は60年前の『世紀大戦』でホーク大国がカルム国に戦争で負けたことを突き止めた」
「戦争?」
狼は不思議そうに首をかしげる。
「そうか。君はまだ若い。正義屋養成所に入っているならいつか習うから、その時に詳しく聞いてくれ。話を戻すとその戦争で敗戦国となったホーク大国は、国際的な地位を失い路頭に迷っていた。そしてつい最近その打開策か知らんが、俺は母国が極秘で未知のウイルスを製造していることを知ったんだ。そこで俺は同時に製造されているワクチンと交換条件にこの任務を遂行した。それでこの先ホーク大国がどんな事を起こしても、俺と俺の家族だけはこのウイルスから身を守ろうと思っていたんだ。だから役を引き受けた」
ガスマスク男は腕を顔の上に乗せ、子供のように泣け叫ぶ。そんな光景を見ていた狼は少しばかり心が痛んだのか、自然と牙や爪が消え、グティの姿に徐々にもどり始めていた。
「どんな理由があろうが俺はお前を許さない。だけどカルム国のスパイとして僕らに協力するなら、生かしといてもいいと思うんだけど、どう?」
グティは冷たい目をしながら問いかけた。一瞬迷ったそぶりを見せるも、男はグティの方を向き、大きくうなずいた。
「よし、じゃあ決まりね。名前はなんていうの?」
グティは血に濡れた自分の手に驚きながら、ガスマスク男に手を差し伸べた。
「ショーンだ。早速だが、君に忠告したいことがある」
「何?」
「君たちには目指すべき本当の敵を見誤ってほしくないんだ。やつは人間を操り人形のように巧みに動かし、俺のような悪者をたくさん生み出しては自分には被害がないように立ち回っている」
ショーンは強い意志の宿った目でグティに訴えかける。雨はいつしか止み、雨の残り香に町中が包まれていた。そんな中でグティはショーンに詰め寄り、強い口調で尋問を続ける。
「何を濁している? つまり誰なんだそいつは?」
その迫力に押され決意したショーンは、背筋伸ばし重い口を開き始めた。
「本当の敵は… ホーク大国の、オ…」
ショーンが話し始めてすぐ、どこかで電話の着信音が鳴った。次の瞬間、ショーンの腰から強烈な光が放たれると、その直後に凄まじい音を立てて爆発が起こった。
ドーーーーーン
グティは宙を舞うようにその場からはじき出され、破壊された道路に体を打ち付けた。
「うあぁぁあぁあああああ」
グティはその場でもがき苦しみ、その痛さを紛らわそうと、地面を拳で打ち付け始めた。その時、遠くの方から排ガス臭を垂れ流しながら1台の車が近づいてきて、突然185㎝を超える巨体が車から姿を現した。
「大きくなったな少年。早く乗るぞ」
そう言うと、男は慣れた手つきでグティを車に投げ込みハンドルを握った。
「あなたは誰?」
「命の恩人を忘れたのか。まぁいいさ今は急ぐよ」
男はアクセル全開でボロボロの道路を走り回った。そんな時、遠くの方から バンッ と生々しい音がした。
「うわっ!」
男は素早くドアを開け車を降りてタイヤを掴む。
「くそ、撃ちぬかれたか」
そう呟くと、トランクに入った物騒な武器を肩に担ぎ、発砲されたビルに向けて太い引き金を引いた。
バーーーーーーン
その武器はいわゆるロケットランチャーだったらしく、放物線を描きながら敵がいるであろう場所で爆発をした。
「ヒット!」
男は嬉しそうに再びハンドルを握ると、何事もなかったかのように運転を再開した。何者なんだ。グティの頭はこの疑問で一杯で、しばし痛みを忘れていた。

上空


「テツヤ、あそこの灰色の車見えるか」
「あぁ。だからどうしたんだよ」
「あの中には俺の憎き男がいる。さっきのロケットランチャーで分かった」
ラスは操縦かんを握りながらそう呟くと、ロボバリエンテのモニターに映る灰色の車をじっと見つめた。
「行くぞ、ランゲラックを潰しに」
こうしてロボバリエンテ33号は、グティ達が乗っている車に向け飛び出していった。

  To be continued... 第22話・あぶないよ
ラスと謎の男の間には一体何があったのか...? 2022年10月23日(日)午後9時投稿予定! お楽しみに!!

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