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連載小説【正義屋グティ】   第37話・おにごっこ

あらすじ・相関図・登場人物はコチラ→【総合案内所】
前話はコチラ→【第36話・共倒れ】
重要参考話→【第28話・華の所長】
物語の始まり→【1話・スノーボールアース】

~前回までのあらすじ~
新入生歓迎会の最中に突如として現れた小型ミサイルと戦闘機が正義屋養成所を襲う。戦闘機から出てきた赤の服をまとう武装集団により、一棟にいたスミスと新入生は捕らえられ、何とか姿をくらませたパターソンと新入生のサムは救助を呼ぶべくアレグロに電話を掛ける。しかし、アレグロは自分の受けている使命と異なるからと要求を拒み、パターソンの考案した作戦によりグティとカザマを一棟に助けに呼んだ。何とか一棟二階の武装集団を倒した二人と加勢したパターソンによって場はしのがれた。そしてその直後正義屋養成所内に大量の火災報知器が声を上げる…。


37.おにごっこ

同刻 二棟二階

冷え冷えとした廊下の中に足音が二つ。その足音は早い感覚で廊下の地面と音を奏で、荒い息とともに颯爽と過ぎ去っていく。足音の主の一人は太陽ちゃんことノヴァ・ジェニー。相変わらずスカート丈は短くしており、黒のセーラー服の上には薄橙色のカーディガンを羽織っている。一年生の頃75キロあった体重は今では60キロになったらしく、廊下を駆け抜ける姿も心なしか身軽に見える。ジェニーは三階へと続く階段を勢いよく上ると並走しているデンたんの顔をふと見上げてみることにした。
「ねぇデンたん!本当にパターソンがそんなことを?」
「本当だって!本当に走りながら火災報知機をたくさん押してって言われたんだよ」
もう一つの足音の主であるデンたんことオーリー・デンハウスは、頭に巻いた包帯を押さえながらいたって真面目にジェニーの質問に対応する。その答えが気に食わないのかジェニーは小声で
「あの優等生もバグるんだなぁ」
と呟き、手際よく空き教室だらけの間に設置された赤いボタンを次々に押して行った。
『二棟三階で火災警報が…』
そんな放送と共に耳の痛くなるほどのサイレンが、後を追う赤の武装集団の緊張感を高めていた。
「まもなく三階に到着する。何者か見当がつかないからみな気を引き締めてかかるように!」
武装集団のリーダーらしき男は二階から三階へと続く階段の踊り場に隊員を20人ほど待機させ指揮を執る。その中には息を荒げながらも何とか到着したノアも含まれたいた。
これはガキどもの仕組んだもののはずだ。
ほとんど確信していたノアだったが、パターソンの少年らしからぬ言動と覇気に封じ込まれその言葉があともう少しのところで出てこなかった。いやそんな事言う必要がなかったのだ。正義屋養成所の二棟は三階建てであり、三階にいる人間が逃げ出すためには今ノアたちのいる階段を下りるほかないから。
「進めー!」
慣れない寒波に脅かされ、身体を震わす隊員はその掛け声とともに一斉に三階へとなだれ込んだ。

「ジェニー。なんか二階で変な音聞こえない?」
「変な音?何言ってんの、その頭の傷まだ治ってないんじゃね?」
「そういう事ね。さっすがっジェニー」
三階の廊下の端っこには、ひとしきり運動をした二人が背中を合わせて座り込み休憩していた。デンたんたちの笑い声とは裏腹に二階からは、どんな敵が待ち受けているのかと身震いさせながら突き進む武装集団が、物凄い形相で姿を現したのだ。
「見つけたぞ!まずは二人目標を確認!けが人と少女のようです」
「報告はいらん。例え敵が子供だとしてもかまわん。撃破せよ」
バンッ
目をつむり幸せそうに笑っている二人のわずか隣を弾丸が通った。二人は同じタイミングで笑うのをやめ、ゆっくりと音のする方に目をやると大人数の赤い服を着た集団が自分たちに銃口を向けているではないか。
「デンたん。もしかしてさ、これ」
「やばいね」
二人の心が通じた次の瞬間。その集団は今度は一斉に発砲を始めた。
バンッバンッバンッ
という乾ききった冷たい銃声の他に
パリンパリン
と窓ガラスが割れていく音。そしてその穴から激しく流れ入る吹雪の
ゴーゴー
という音はまるでこの世の終わりのようで、15歳のジェニーには刺激の強すぎる絵であった。足をすくませ動けなくなっているジェニーをデンたんは自らの身体と共に隣の空き教室に押し込んだ。
「ジェニー、けがはない?」
デンたんは、座り込んでいるジェニーの肩を持ち
「大丈夫。サンキューね」
という返答を待つと何を思ったのか、ジェニーの手を強く握り強まっていく吹雪の世界へと飛び出して行ったのだ。
パリン
もちろん二人のいるのは校舎の三階。ガラスの破片がデンたんの体に刺さると二人の身体は下にへと落ちて行った。
「デンたん!」
何が起きたのか理解が追いついていないジェニーはひたすらデンたんの大きい手を握るほかなかった。が、いくらデンたんでも無策で飛び出したのではない。白い雪たちに視野を狭められながらも何とか二階の窓枠にデンたんの手が触れ、止まった。
「ぐわぁ!」
デンたんは二人分の全体重を片手で受け、衝撃を吸収したのだ。
「デンたん、大丈夫⁈」
ジェニーはデンたんの行動に思わず涙を流し、心配をしたがデンたんは
「大丈夫。サンキューね」
と言いきり、窓枠から手を離した。
バタンと痛々しい音を想像していた二人の予想は外れ、結果的に二階からの落下に加え降り積もった雪に身を投げ出されたため、痛みはほとんど感じなかった。
「デンたん、歩ける?」
「うん、ゆっくりなら」
雪まみれになったジェニーは大柄のデンたんに優しく肩を貸し、何とか武装集団から身を隠すことに成功した。

「どこにもいません!おそらく窓から逃げ出したのだと」
「逃げ出した、だと?ここは三階だ!くまなく探し回れ」
そんな報告が出回った時、誰もがまだ三階に潜んでいると信じ教室などをくまなく探し回った。が、ノアにとってはそんな事よりもパターソン達のいる一棟に残した少ない隊員の安否が心配でならなかった。

一棟一階
「…あの写真の出来事は本当のようだな」
「本当だ。今さっきグティ達を狙っていった武装集団はこの下にいる。少量の兵ではあるが後にグティの脅威になることは間違いないだろう。頼めるか?」
パターソンは携帯に映し出された一枚の写真を再度見せ、目を見つめた。拳銃を持ち、怖い顔をしたその相手とは、先ほど自分の使命とは関係ないと姿を消したアレグロであった。

     To be continued…       第38話・司令官
敵を遠くに集中させた。パターソンの策は着実に進んでいた。2022年6月4日(日)投稿予定!!アレグロの再登場!この戦いも遂にクライマックスへ。お楽しみに!!!

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