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連載小説【正義屋グティ】   第12話・緑眼

12.緑眼


3014年・現代 カルム大国総合病院
 
「相変わらずでかいなー。ちょっと写真を撮っていいかな?パターソン」
「グティ。面会の時間は決まっているんだよ」
グティとパターソンはカルム大国最大級の総合病院にやってきた。その大きさは駐車場一面に大きな影を作り出し、その影の中で鬼ごっこを始める地元の子供たちが大量に発生するくらいだった。グティはパターソンの忠告を右から左に聞き流し、カバンから出した小さなデジカメで入るはずもない位大きな全体像をのけぞりながら写真を撮った。
「グティ!早くして!」
それに気づいたパターソンは分かりやすく不機嫌な顔でグティを睨んだ。が、グティは反省の色を全く見せず
「はいよー」
と、返事をしてパターソンのもとに急いだ。
 
総合病院・15階
グティとパターソンは静まり返ったホテルのように美しい廊下をゆっくりと歩いていると、後ろの方からコソコソ話し声が聞こえてきた。
「ねぇ、ドリス。あれグティじゃない」
「まじ?パターソンもいるじゃん!おーい!久しぶり」
話していた女子は二人ともグティ達と同じ総合分校の出身で、グティ達はそれに気づいていた。
「グティ、返事しないの?」
パターソンはグティの肩にそっと手を添え、そう問うた。
「しない。だってあいつらソフィアの事をいじめてた奴らじゃないか。それに正義屋養成所の学生って言ったら、自分たちは看護師の養成所生とか言ってマウント取られるだけだ」
一年前のグティの口からは出ないような、すっぱく、少し捻くれた答えに、パターソンは動揺し何も言い返せなくなった。
「ねー、何で無視するの?」
ドリスは不思議そうに呟き、怒りを覚えたもう一方の女子がグティに嫌味を投げつける。
「どうせソフィアの事で怒ってるんでしょ。ソフィア好きめっちゃキモイよ」
その言葉を聞いてしまったグティは一瞬足を止めた。先ほどよりも明らかに険しくなっているグティの顔をみたパターソンは、昨年の出来事を思い出さずにはいられなかった。辺りは変わらず静かで、エアコンの冷たい空気がグティ達の体にまとう。
「グティ。行こう。あんな奴らほって行こう」
パターソンの囁きによって何とか感情をコントロールしたグティは、再び目的の部屋を目指し歩き始めた。 

ガラガラガラ
養成所とは違い、建付けの良いドアを横にゆっくり開けると、そこには暗い部屋の中で大量の管を体につけられ、ベットにくくり付けられているナタリーの姿があった。
「ナタリー...」
変わり果てたクラスメイトの姿に、二人は絶句した。ナタリーはニコルに撃たれた直後、グティによって発見されたため、早い段階で救助され何とか一命をとりとめていた。だが、未だに昏睡状態で、今のアンノーン星の技術だと目を覚ますことはほぼできないという。本来ならば、起き上がらないと決まった時点で死亡判定になるらしいが、スミスの家族からの莫大な値段のお金が寄付されたらしく、総合病院で看病をすることになった。
「もしも、あの時グティが異変に気づいていなかったら、今ここにナタリーはいないんだね」
パターソンが少し涙ぐんで眼鏡をはずした美しい顔のナタリーを見つめる。
「実はさ、異変に気づいたのは僕じゃなくて、当時五年生、だからもう今は正義屋の職員の男の人なんだ」
「名前は?」
「分からない。でも何故か僕の名前を知っていて、僕らの代に知り合いがいるんだって」
グティが一通り話し終えると、パターソンは謎めいた顔で丸い椅子に腰かけた。その後もお互い無言の時間が続き、病室の中には忙しなく鳴り続ける一定のリズムを刻んだ機械音が響き渡った。
「あ!」
すると、突然グティが何かを思い出したかのように大きな声を出し立ち上がった。
「どうしたの?!」
「その人の特徴を思い出した。暗くて良く見えなかったけど、その人は世界的にも珍しい『緑眼』の人だった」
「緑眼って緑色の目ってこと?」
パターソンが自信なさそうに、尋ねるとグティは頭を勢いよく上下に振り、すっきりした顔で椅子に腰かけた。そして、また『緑眼の先輩』に会いたいと強く思った。
 
 数時間後

 
辺りはすっかり暗くなり一日中外で遊んでいたグティとパターソンは、せっかくだからと町の大きなデパートを目指して歩いていた。
「あとちょっとだな、パターソン。暑いし、走って行かないかい?」
「えー。歩こうよ」
二人がたわいのない話を繰り広げていると、デパートの駐車場から何やらおじさんの怒鳴り声が聞こえてきた。
「なーにやってんだよ!早く入れやがれ小僧!」
グティ達は何事だと、先ほどまで走るのを拒んでいたパターソンも興味本位で駐車場に向かって走り出した。
「ごめんねー。今、上が渋滞してるからそんな騒がずにちょっと待っててよ」
グティ達が向かうと、車から怒鳴るおじさんに対して一人の青年がなだめているというなかなかカオスな状況だった。
「ねぇグティ。あれって」
パターソンが目を丸くしてグティの裾を引っ張り、青年を指さした。その青年は髪色こそ違うものの去年、グティが助言をもらいナタリーの命を間接的に救った『緑眼の先輩』だった。


To be continued...  第13話・デパートの惨劇
4年前のデパート事件が関係するのか…2022年7月3日(日)午後8時投稿予定!お楽しみに!
   


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