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連載小説【正義屋グティ】   第29話・血の正体



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前話はコチラ→【第28話・華の所長】
重要関連話→【第18話・紫電】
物語の始まり→【1話・スノーボールアース】

29.血の正体

半年前 赤レンガデパート

「誰だ!」
身体の制御が効きにくくなり、意識が少しずつ遠のいていくデューンの耳にそんな騒がしい声が聞えた。それから絶え間なくバンッバンッと聞きなれた発砲音が響くと、間髪を入れず、
「ぐぁあああああ!」
という叫び声までもが朦朧としているデューンの意識へと飛びついた。
「グティ?」
デューンはそう口ずさむと目をつむり意識を閉ざした。
次にデューンが目を覚ましたのはそれから10分ほど経った頃だった。ゆっくりと動くようになった体をゆっくりと起こし、暗闇の中でここがドアの向こうの駐車場だという事に気が付いた。
「くそっ、俺がしくじっただと?」
「しくじったのは俺の方だったようだぞ、少年」
デューンの声にかぶせるようにそう呟いたのは、ガスマスク男ことショーンだった。ショーンは闇の中からゆっくりとその姿を現し、車のドアに手をかけた。
「悪いが、君には興味ない。見なかったことにしてやるからさっさとどけよ」
「あ?」
ショーンはデューンの顔を蔑むような眼で見下した後、車に乗り込もうとした。
「待て」
が、デューンは閉まろうドアを思いっきり引き、中に座っているショーンに向けて拳銃を向けた。
「なっ!なんでこんなガキが拳銃を」
ショーンは目を丸くし逃げ場のない車内にもかかわらず後ずさりをするそぶりを見せた。その小さな動きを見逃さなかったデューンは口元を緩ませ、ショーンの首根っこを両手で掴み締め付ける。
「な、にするんだ、お前は!」
「何って、見ての通り正義屋の養成所生として…いや、一ベルヴァ隊員としてお前をブチ殺そうとしているだけだ」
デューンは相変わらず冷酷で恐ろしい目をショーンに浴びせ続けると、首に巻き付いていた手の力を徐々に強めて行った。
「ベルヴァだと…。そういう事か」
ショーンの顔は青ざめ、心なしか顔色も悪くなっていたような気がした。ショーンは助けを求めるようなその目で初めてデューンの顔を見つめ、口を開いた。
「わ、分かった。降参だ。俺は何をすればいい?」
ショーンの細々とした声を聞いたデューンは満足したのか、満面な笑顔を浮かべ交渉を始めた。
「話の分かる奴は好きだぜ。気に入った。早速最初の仕事をやろう」
デューンはそう言うと白い壁に寄りかかり左腕を上げた。
「ここを撃て」
「え?」
ショーンはデューンが何を言っているのかが分からなかった。正確に言えば言葉は分かっても、その意図が読めずに混乱していた。
「なんだ?ホーク大国の極悪人はピストルも持たせてもらえねぇのかよ」
デューンは再び冷たい眼差しでショーンを刺すと、ショーンは自然と拳銃をポケットから取り出しデューンの腕に照準を合わせた。
「目的は何だ?」
「簡単な話だ。俺はお前らの国の組織に興味がある。そして詳しくは知らないがお前はただのホーク大国の雇われであって、あの国を良く思っていないらしいな。だから俺に重傷を負わせ、お前の偉い奴のところに行かせろ。安心しろ、俺がお前らの腐った国を壊してやるからよ」
デューンが話し終えると、ショーンは納得したのか小刻みに震える手を押さえながら引き金を引いた。
バンッ
その弾は注文通りデューンの左腕を貫通させた。
「よし。いい感じに血が出てるな」
デューンは血みどろになった左腕をぶらぶらとさせ、真っ直ぐ車に向かっていった。
「お前、痛くないのかよ!」
ショーンは、ケロッとしたデューンの顔に唖然としつい問いかけた。するとデューンは撃たれた傷口から溢れ出る血を顔に塗り込みながら、
「俺、痛みを感じない身体なんだ」
と言い切った。その言葉に更なる恐怖を感じたショーンはその場で硬直してしまった。
「おい、何やってんだ。早く車を出せよ」
「お、おう」
窓から血だらけの腕を出しながら催促を迫るデューンに堪らずショーンは急いで車に飛び乗った。
ブロロロロロ
ショーンの乗る黒い車はいかついエンジン音を吹き出すと、勢いよく外へと走り出した。
「ん?あれは、人?」
ショーンは暗闇の中に薄っすらと浮かび上がる人影に思わずブレーキを踏み込む。
「誰かわかるか?」
「…赤髪の兄ちゃんと、グティレスもいるぞ!」
「何⁈」
ショーンの言葉に息をひそめていたデューンは思わず顔を上げそうになった。
「何でもいいから、追い払え」
デューンの命令にショーンは素直に従い窓を開け、機嫌の悪そうな顔を作って対応をする。
「どきな、兄ちゃん。こっちは今忙しいんだ」
外ではショーンとラスが口論になっている中、左腕に穴の開いたデューンの意識は再び朦朧としていた。
「くッ、血を…流し過ぎた」

それから数時間が経ち、デューンは知らない男の図太い声で目を覚ました。
「よくも俺の部下を壊してくれたな、小僧」
「う、あぁ」
デューンはか細い声を出し、目をゆっくりと開ける。その先には髭を顔全体にはやし、眼鏡をかけた太った男が立っていた。
「あのショーンが腕を撃ってまで持ち帰りたかった捕虜か、仕方ないから俺が預かってやるよ」
太った男は雨の中、車内でうずくまっているデューンを軽々しく持ち上げどこかへ歩き出した。雨のしずくがデューンの頬に落ちたのを始めに、傷だらけのデューンに次々と落ちてゆく。
「はぁ、はぁ、はぁ」
外の騒音が気になったデューンは荒い息を立てながら目を大きく開けるように努力した。
「これは…」
デューンは目を丸くした。そこにはほぼ全壊している建物を下敷きにして二機のロボバリエンテが戦っているという、何とも恐ろしい光景が広がっていた。
「愚かだよな。同じ国同士でつぶし合っているんだぜ、標的はここにしかいねぇっていうのによ」
「てめぇ…」
デューンは拳を強く握り、太った男に抗う覚悟を決めた。が、もうそんな力がデューンに残っているはずも無く、デューンはただただこの男に連れて行かれるほかなかった。

「着いたぞ。これからのお前の家だ」
次に目が覚めると、赤錆にまみれ今にも壊れそうな廃工場がデューンの前に堂々と立っていた。そこから半年間も日の光を見ずにこの太った男と生活するなど知らずに…

      To be continued…          第30話・檻と銃口
檻の中のデューン。どう抗い、どう共に生きる?2023年2月5日(日)午後8時ごろ投稿予定!次回は遂に30話、お楽しみに!!
 

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