見出し画像

連載小説【正義屋グティ】    第24話・残痕

あらすじ・相関図・登場人物はコチラ→【総合案内所】
前話はコチラ→【第23話・ヒーローレスキュー】

24.残痕

正義屋養成所(首都校)二年生棟
悲惨な戦いが今もなお繰り広げられる首都・カタルシスの中心部から少し離れた正義屋養成所。その馴染みのある施設のある教室からは未だに淡い光が漏れていた。
「あ、今寝たろ。エアコンもう一度下げるぞー」
味気ない長袖、長ズボンを着て、エアコンのリモコンを片手に居残りイベントを実施しているのはグティ達の五年間共通担任であるネビィー・ウォーカー先生だ。自分にはとことん甘いくせに、生徒に対しては爆弾さえも探させることから陰では【サイコパス教師】と呼ばれているのは有名な話でだ。そして今まさにその餌食となっているのが、グティ達と同期のノヴァ・ジェニーだ。身長175㎝という女子にしてはなかなかの巨体で、おまけにガタイの良い。男と間違えられても文句は言えないような奴だ。そんなジェニーは、ニヤニヤしながらエアコンの温度を下げていくウォーカー先生の手元を見つめ勢い良く立ち上がった。
「はぁ?寝てないってば!ってか冬じゃないんだから、こっちは夏服のセーラーだよ」
「うるさいぞ。お前の試験の点数が上がれば、今すぐにでも帰してやるよ。こっちだってボーナス出ねぇし」
ウォーカー先生はブツブツと御託を並べながら、教卓に布団を敷き始める。
冗談でしょ。その場にいたジェニーはそんな言葉が頭に浮かんだが、これ以上凍えるのは勘弁だからと、重い憤りをと飲み込んだ。
リリリリリリ
昔ながらの携帯の着信音が鳴ると、ウォーカー先生はすぐさま耳にそれを付け一言
「分かった」
と言葉をこぼした。
「今の誰なの…ですか?」
ジェニーの問いにウォーカー先生はすぐに返事をくれなかった。ウォーカー先生は何も言わずせかせかと、荷物をまとめジェニーに一言
「座ってばっかじゃつまらんだろ。野外学習だ」
「野外学習?居残りで?」
ジェニーは分かりやすく戸惑いの色を見せたが、ウォーカー先生は気にせず廊下へと歩いて行った。ジェニーも最低限の荷物まとめるとその後を急いで追いかけた。

数十分後
グティは地下駐車場から数時間前までサングラス男と戦っていた非常階段を駆け上り、五階の扉を開けた。
「嘘だろ」
グティはその場で固まってしまった。そこには暗闇の中でよく見えないが、50人を超える子供と戦いに負けて痛々しく横たわる同期の姿があった。灯りや信号が消えたことによる交通整備や、ショーンの探索などに正義屋の職員が回されデパートに取り残された人々の対応が遅れているらしい。
「ウォーカー先生、遅いな。」
携帯の小さな明かりを頼りに一歩一歩進むグティはそう呟いた。そして、あたかもそれを聞いていたかのように遠くの方から青いロボヴァリエンテがデパートに猛スピードで近づき、大きな破壊音を出しながら強化ガラスに大穴を開けた。
「きゃあああああ」
無邪気に寝ていた子供たちも流石に起き上がり、血を流し横たわっている養成所生を数人がかりで遠くへと運んだ。
「ウォーカー先生、いくら何でも危険ですよ!」
グティが大声を上げ𠮟責した。すると機体の真ん中のドアからゆっくりした足取りでウォーカー先生と、その後ろからジェニーが飛び跳ねながら降りてきた。
「え、太陽ちゃんも一緒なの?」
ジェニーはどんな時でも明るく、暑苦しいので男子の中からはよく『太陽ちゃん』と呼ばれていた。グティは目を丸くしてジェニーを指差すと、ウォーカー先生はゲラゲラ笑いながら
「こいつバカだから、連れてきた」
と言い切った。ジェニーは分かりやすくウォーカー先生を睨みつけ、すぐさま足から血を流しもがき続けているチュイの所へと向かった。
「チュイ、大丈夫?」
「うん、何とかね。それより、デンたんを早く病院に連れて行ってあげて」
チュイは赤の血しぶきのかかった色鮮やかな青の髪を研ぎながら、子供たちの集まっている方向を見つめた。ジェニーはその場へと急ぎ人込みをかき分けて中心部に入ると、そこには白目をむき全く動かないデンたんの姿があった。近くには凶器であろう消火器の破片が散乱し、デンたんの頭には血で染まった大量の子供たちのハンカチが乗っかっていた。
「デンたん!聞こえる?生きてるよね?」
ジェニーはデンたんの肩を揺すり脈を測ろうとした。
「…生きてるよ」
すると周りとは一回り大きい10歳の子供が静かにそう教えてくれた。
「え?」
ジェニーは驚いて離した手を再びデンたんの首元に持って行った。確かに生きている。ジェニーは目を丸くして声のした方向を見据えるが、そこには先ほどと変わらない五歳前後の幼児が束になって泣き叫んでいた。茫然としたジェニーだったが、再び動き出したロボバリエンテに意識を引き戻された。
「太陽ちゃん、子供たちを誘導して」
遠くの方からグティの声が聞こえる。ジェニーが何の事か分からずあたふたしていると、ウォーカー先生が運転しているであろう青い訓練用のロボヴァリエンテは勢いよく六階へと続くエスカレーターホールのシャッターに激突した。
ガシャーン
頑丈な鉄で作られたシャッターでも、ロボヴァリエンテの前では意味をなさず耳を壊すような巨大な音と共にシャッター全体を粉々に破壊した。
「ヤバいじゃん!あのサイコパス何やってんの?!」
ジェニーは開いたっきりの口に思わず手を入れた。しかし、ジェニーの予想とは裏腹にシャッターの奥からは約10時間ぶりに外に出て奇声を上げているグリルと、それを止めようと追いかけるパターソンの姿があった。
「早く乗れ、養成所生は帰るぞ」
ウォーカー先生は荒れ果てたデパートの内部を細い目で見渡してそう叫んだ。
「えー僕らは?」
「お姉さんたちだけずるい!出来損ないのくせに!」
「どういうことだよー」
もちろんそれには批判の声が出て、子供たちは我先にとロボヴァリエンテ目掛けて猛ダッシュをはじめ場は混乱状態となった。
「黙れ、クソガキども。しょうがないから本部に連絡してやる。お前らは助けが来るのを待ってればいいさ。それ以上近づいてみろ、全員撃ち殺してやるよ」
そのウォーカー先生の狂気じみた言葉に子供たちは後ずさりをはじめ、カザマの様子を見てくると残ったグティ以外は安全地帯へと飛び立った。助けが来る。そんな甘い言葉を信じた子供たちにとって、激化し始めたラスとランゲラックの戦いは恐怖でしかなかった。
 
 
      To be continued… 第25話・串刺し
遂に迎えた二人の戦い。人、街、心の被害はどうなってしまうのか...。第二章も残り2話! 2022年12月19日(月)午後8時投稿予定!壮絶なクライマックスをお楽しみに!!!

この記事が参加している募集

スキしてみて

眠れない夜に

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?