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『TICK,TICK……VOOM!!』感想


実在のミュージカル作家、ジョナサン・ラーソンの同名ミュージカル舞台を映画化したもの。

これを読んでいる方は、恐らく観た後でしょうから、敢えてあらすじは省略しましょう。
観ていらっしゃらない方は、以下の拙文で、もしご興味抱かれましたら是非ご覧下さいませ。

⚠時代背景や構成の技術力など、専門的な知識を織りまぜた高尚な感想は書けません。
ゆるりと、1人の映画好きの戯言をお楽しみください。



◆本文

観終わったあと、僕は非常に疲れました。そして、泣きたくなりました。
主人公のジョナサンが持つ焦りや悩み、情熱は、恐らく創作をする人なら痛く共感できるのでは。
認められたい。
とにかく何かしないと。
ジョナサンは、常にこういった切羽詰まった感情に突き動かされてミュージカルを書いていました。
他の、大成した人達は自分の歳にはもう大きなことを成し遂げている、自分は完全に乗り遅れている。30歳までに、今のミュージカルを書き終えて何かしらの成果を上げないといけない。でも、進まない。
うーん、なんだか共感できる慌てぶり。
「みんなハッピーバースデーと歌うけど、僕は泣きたくなる。29歳に留まれない?」
明るく歌い上げられるこの歌詞に、なんとも心が痛みます。ジョナサンの焦りは、足掻いても消えることがないとわかるのです。
僕も、今こうして感想文や独り言、詩のようなものを書く、創作者(の、端っこに辛うじて座ってる透明人間のようなもの)です。
だから、ジョナサンの気持ちはよくわかるような。まぁ、完全ではなくても。
やりたいことが大きすぎて、身の回りのことが小さくなってしまう。それ故に、友人や恋人と距離ができてしまう。夢を追いかけてさ迷っている人間には、ありがちですね。ジョナサンも、ご多分にもれず。
その後、なんとか持ち直しますが。
そこのすれ違いが、完全には解かれないあたりが、この作品が全くのフィクションでないことを物語っているかと。
映画を観ていると、ジョナサンは生きている内に大きく成功を収めてはいないようで。もがきながら作品を生み出して、その報酬はお預けのまま亡くなった感じが、陳腐な言い方ですが切ない。
割り切ってしまえば、亡くなった後だとしても作品が評価を受け、こうして語り継がれるのは名誉であり美談になるでしょう。けれども、僕は虚しさを感じてしまいました。
ジョナサンは、何のためにあんなにも苦しんだのだろうか、と。勿論、富と名声の為ではないでしょうが。それにしたって、もう少し報われたって誰も文句は言わんでしょうに。
暖かくも、淋しいラストでした。

故ジョナサン・ラーソンへ敬意を表して。

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