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【書評】『14歳で”おっちゃん”と出会ってから、15年考えつづけてやっと見つけた「働く意味」』


〇本書について

本書は、ホームレス支援及びホームレスを生み出さない社会を目指す活動をしている、認定NPO法人 Homedoorの理事長である川口加奈氏が、中学生の頃に釜ヶ崎を訪れてから、Homedoorを設立し、2018年に個室宿泊施設「アンドセンター」を設立するまでの軌跡を綴った一書である。

何より驚かされるのは筆者のバイタリティだ。

14歳でホームレス問題に出会ってから、夜回り等のボランティア活動を継続。

何か自分にできることはと、まず自身の通う学校での啓発活動を開始した。
高校時代には米国ボランティア親善大使に選ばれるまでの活動を行いながらも、参加した国際会議で、他国の学生から
「あなたの活動でホームレス問題にどんな変化があったのか?」
と問われたことを機に、大学では学生起業。

試行錯誤の末、実際にホームレス当事者の雇用を生み出すビジネスや、路上脱出の機会を提供できる居場所の拠点となる宿泊施設を設立するまでに至る。

筆者の出会うたくさんの「おっちゃんたち」とのふれあい、語られる言葉は、ホームレスは自己責任では片づけられない、社会の問題であることを伝えてくれている。

そして、実際の雇用を生み出し「失敗しても安心して立ち直れる社会をつくる」をミッションとした活動を展開しているHome doorの活動は、自分には何ができるか?を振り返る機会を与えてくれる。

〇私が釜ヶ崎を知ったきっかけ


私もいわゆる「生きづらさ」を感じて生きている一人であった。
今も、そうだと思う。

幼い頃から、いろいろ必死に頑張っていたけど、最初に大きな挫折を経験したのは高校生の時に不登校になったことだった。

目指していた夢が閉ざされ、進路に暗雲が立ち込めた。
周囲に置いていかれ、自分だけが取り残されている感覚。

そんな私に、「今いる世界だけでなく、いろんな世界を見よう」と、
ライフワークにされている活動にたくさん連れて行ってくれた先輩がいた。

ハンセン病の療養所。
東日本大震災の被災地。
そして、大阪市西成区にある、釜ヶ崎での炊き出しや、学習支援のボランティア等のフィールドワーク。

釜ヶ崎は日本でも有数の日雇い労働者の街。
周辺にはドヤと呼ばれる簡易宿泊所が軒を連ねる。

もちろん当時私にもどこか「怖い」というイメージはあった。
でも先輩は、日雇い労働者の方々は誰より働き者であること。
そして、釜ヶ崎は日本の社会情勢を反映していて、例えば炭鉱が閉鎖されれば炭鉱労働者がやってくるなど、その人の自己責任では片づけられない、
社会の問題があるんだということを丁寧に教えてくれた。

そうした経緯で私は釜ヶ崎の町を知り、日本の貧困問題について関心を持つこととなった。

〇我がこととして

反貧困ネットワークの事務局長や内閣府参与などを務め、現在NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ 理事長である社会運動家の湯浅誠氏は、
貧困に陥る状態を「’溜め’がない状態」と表現した。
溜め池に水が満ちていれば、雨が少なくてもたちまち田畑が干上がることはない。
しかし、水がなければ、すぐに深刻なダメージとなってしまう。
それと同じで、人も、貯金、家族、友人などの’溜め’があると、何かアクシデントがあってもたちまち貧困に陥ることはないが、それらがない場合、たちまち貧困に陥ってしまうのだという。


かつて不登校で挫折した時、私は社会から転がり落ちたような感覚に陥った。
けれど、たまたま、家族もいて、その後大学に進学し、紆余曲折は経たものの、最終的に就職することができた。
不登校で挫折した自分と、溜めがないがゆえに貧困に陥った人々との差になんら差はないように感じる。

きれいごとのようなことしか言えないが、すぐに筆者のような社会活動ができるわけではない。
ただ、我がこととして関心を持ちつづけることだけは、やめないでおこうと思う。
それを改めて思い起こし、決意させてくれた一書であった。

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