見出し画像

【書評】『信じ切る力~生き方で運をコントロールする50の心がけ~』/栗山英樹



2023年に開催されたWBCにおいて、侍ジャパンが優勝し、世界一の栄冠を手にしたことは記憶に新しい。

メジャーリーグで活躍する大谷翔平らスター選手を率い、チームを優勝に導いたのが本書の著者、栗山英樹監督である。

本書は栗山監督が大切にしてきた「信じ切る力」を、WBCや日本ハムファイターズでの監督経験、自身のヤクルトでの選手時代のエピソードを交え、50のエッセンスとして紹介している。

私はもともと野球が好きで、第1回のWBC大会の時には会場に足を運んでいたほど。

栗山監督のことも、日ハム時代から応援していた。
WBCでの名将ぶりや、人格者としての振る舞いに何度も感銘を受けていた。

そして本書に編集協力として携わっているのは著名なブックライター、上阪徹氏。

上阪徹氏がブックライティングを手掛けた作品を一度読んでみたいと思っていたこともあり、今回本書を手に取った。

私は、いわゆる自己啓発本の類は、実は苦手である。
苦手というと語弊はあるが、いわゆる自己啓発本の中には、

「成功者となる一握りの人間が、凡人にはできない特別な努力をして成功を掴む」

といったものも少なくない。

そうした文章を読むと、私は現在の自分との乖離を感じ、何もできていない自分を突き付けられているような気がして落ち込んでしまうことが多いのだ。

しかし、栗山監督の言葉にはそれがない。

侍ジャパンを世界の頂点に導く原動力となったた「信じ切る力」には、強い精神力を伴うことは容易に想像できる。

だが、栗山監督が語る心がけには、やみくもでストイックな追い込みは感じられない。

ひとえに、人と比べず自分と向き合うこと、自分のできることをただ愚直に行っていくことの大切さが、一貫して綴られているように感じる。


そのためか、本書は読後に温かで優しい気持ちが広がる。

もっともそれを感じたのは、下記の文章を読んだ時だ。

「できていないことがあると、しんどいかも知れません。
例えば、学校に行くと決めたのに行けない。
でも、自分を傷つけないでほしいと思います。
いつか、時は来るからです。
今は来ていないだけで、そのタイミングは必ずやってくる。
だから、それまで自分を大事にしてあげてほしい。
できることを、すればいいのです」

「本人の問題ではない場合もあります。
例えば、お母さんが病気で、学校が終わったら面倒を見ないといけない。
自分のやりたいことはできない。
クラブ活動もできない。
では、どうしたらいいのか。(中略)
誰かのためになれることこそ、人が生きるということだと僕は思っています。
もちろん、やりたいことができないことは辛いかもしれない。
でも、それはとても素晴らしい生き方だし、そこには大きな意味がある。
それをぜひ知ってほしいのです。
世の中には必ず見ている人がいる。
いずれ必ず、何らかのチャンスが来る。
必ずチャンスが来ると思っていてほしいのです。」


世界の頂点に立った栗山監督が、地道に生きる人に思いをはせ、目の前に必死に生きる人のことを肯定している。

アスリートとして頂点を目指して血のにじむような努力をすることと、目の前の自身や家族の課題に向き合う人を、優劣をつけず、同等に扱っている。

頂点を極めた人間であれば、
「環境のせいにせず、高い目標に向かって努力しなさい」と言っても、おかしくない。

しかし、目立たず、華々しくもない、でも苦境にあって踏ん張る人の、それを丸ごと受け入れ、信じる。

ここに栗山監督の強さ、優しさ、温かさが集約されていると感じた。

どこまでも謙虚で温か。
それでいて逆境にあっても希望を捨てず、食らいついていく忍耐強さ。
監督の人柄が感じられる50の心がけは、どんな環境にある人にも支えになるものであると感じた。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?