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トレバー・ノアのお笑いに衝撃を受ける。

イギリスに10年も住んでいれば、もう英語なんて問題ないでしょーと思われるかもしれないが、やっぱり今でも英語は苦手だ。同僚たちと話していても、私だけ一人冗談が理解できていないことは未だに起きる。昔はそういう自分を恥ずかしいと思ったりしていたけど、最近は日本で友達と話していても私だけ最近の日本のお笑い事情がわからないため私だけがついていけないこともよくあるので、どっちでも変わらないなぁと思うようになった。

でも長く住んでいると、イギリスも含め英語圏の社会事情に少し明るくなってきているので、以前よりも英語のジョークについていけるようになったのかもしれない。しかも最近のNetflixやYoutubeは英語字幕もつけてくれるので、気晴らしのつもりで短い動画を見ることも多くなった。

あるとき、Netflixでトレバー・ノアのStand-upコメディ(約50分)を見た。トレバー・ノアは、スイス人(白人)の父とアフリカ系の母の間に人種差別政策(アパルトヘイト)があった南アフリカで生まれ。一人で様々なキャラクターを演じ分ける細かい芸は、まるで古典落語の名人かと思えるほどで、まさに度肝を抜かれてしまった。なぜ彼がそんなに面白いのか、ちょっと考えてみた。


1. モノマネ芸が最高にうまい。

トレバーの得意な芸は、英語のアクセントを含めた人の話し方を真似るのがうまいこと。アメリカ英語は地域別や人種別で、イギリス英語はスコットランド訛りから上流階級アクセント、そしてインド人、フランス人、ドイツ人、ロシア人、そしてアフリカ系の人が話す訛りのある英語の話し方を網羅しているように思える。ときどきドイツ語やロシア語など外国語を話しているところを披露したりするのだが、その内容は分からずとも、あまりにもそれらしいので、つい笑ってしまう。一時期タモリさんも日本のお茶の間でよく外国語を話す人を披露していたが、トレバーの外国人の声帯模写は、タモリさんと肩を並べるぐらいおもしろい。

2. モノマネはネタを語るための道具。

モノマネがうまいと言っても、ただそのモノマネをして終わるのではなく、彼の場合モノマネで一人二役から三役の人物が交差するネタを自作している。一人二役でネルソン・マンデラがバラク・オバマに政治家としての話し方を伝授するネタや、スコットランドでインド料理レストランに行って、自慢のインド人訛りのマネで注文したら店員さんはバリバリのスコットランド系訛りしか話せず、理解してもらえないというネタは、傍観者のイギリスのエリート層出身の男性も含めて一人三役。この話術はまさに柳沢慎吾さん並だなぁと彼の『一人甲子園』を思い出していたら、トレバーも『バスケットボールの国際試合でアメリカ対カナダ戦が始まるところ』というネタを持っていた。

3. 海外移住者や旅行者が共感できるネタが多い。

トレバーは南アフリカ人だから英語のネイティブスピーカーなのだけれど、同じ英語でもアメリカ英語に慣れるまでの過程についてのネタもあったりで、英語圏に移住した人にとっては、トレバーのお笑いには共感できるところがたくさんある。彼がアメリカに来て初めてタコスをテイクアウトで買ったときのネタは最高だった。残念ながらトレバーのお笑いに登場するアジア人はインド人止まりで日本人も中国人も韓国人も出てこないのだが、異国の文化と接したときそこでちょっとした失敗をしてしまうのは、万国共通でどんな国の人も共感できるのではないかと思う。

4. トレバーのネタの根底にあるもの

それは、「白人男性が中心となって作り上げてきた近現代社会って面白いよね、笑えるよね」という視点だ。私はトレバーのお笑いを見ることで、こんなにも『白人国家』である欧米諸国が、自分たちの正当性を示すために己の主張を論理立てさらにそれを国際社会で豪語することで、世界史が成り立ってきた一面があるということを学んだ。そのいい例が『グレート・ブリテン対グレート・インド』というネタで、自分たちのことを自分でGreat(偉大)と名付けてしまうとんでもなく自信過剰なイギリスをすっぱりと切ってしまうトレバーには脱帽で、それをこれまで特に不思議とさえ思わず今でも普通に"Great Britain"という呼び名が定着している現状に笑わずにはいられなかった。

5. 最後に

トレバーがこうした独自の視点でお笑いを作れるのには、南アフリカという新興国の出身であることに関係しているように思うが、私はトレバーのお笑いを見るまで、地球上に占める一番大きな大陸であるアフリカのことをほとんど忘れていたというか、ないものに等しいものとして社会情勢などに接していた自分に気が付き、それをとても恥ずかしく思っている。世界はとてつもなく広くて、トレバーの視点で新しい世界地図が見えてくる。そんなお笑いに出会えたことにとても感謝したい。

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