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BRIDGE②~アルフレッド~

<ペローマの箱庭>から外に出たアルフレッド、バート、そしてプリメラ高司祭。

3人は、エクナのペローマ神殿の入口扉の前に立っていた。

バートが念の為、もう一度神殿の扉を開けてみる。

が、中は何の変哲もない、街の小さな図書館そのものだった。

「なるほどね」

納得して扉を閉めるバート。

「で、アルフはこれから、プリメラ師匠に修業をつけて貰うんスよね?」

「ああ。そのつもりだ」

バートの確認に頷くアルフレッド。

「だったらオイラは、ここから別行動を取っても良いスか?」

「え!!!?」

バートの突然の提案。

「別行動って……何処かに行ってしまうのかい?」

「そんな顔しないでくださいよアルフ。ただオイラも今一度己を鍛え直さなきゃなと思っただけなんスから。そのためのアテはあるんスよ」

決意を秘めたバートの言葉。

「…………判った。お互い強くなって再会しよう」

「はいっス!!」

アルフレッドがエクナ諸島群に航って来てから、これまでただの一度も離れたことの無かった戦友であり親友、バート。

ふたりはこれまでの旅の記憶に想いを馳せながら、再会への決意を込めた固い握手を交わすのだったーーーー。

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バートが頭の後ろで両手を組み、口笛を吹きながら港の方へ歩いて行くのを見送った後ーーーー。

「師匠、私達はこれからどうしましょうか?」

とのアルフレッドの問に対し。

「まずはお主のこれまでの冒険譚を語って聴かせな」

シャストア信者らしい答が返って来た。

「判りました。まずはーーーー」

そうしてアルフレッド、シスターンを離れ、ベルリオース島へ航った後の冒険について、叙事詩風に謳って聴かせた。

「ーーーーそうした経緯を経て、現在私はシャストア高司祭位と、ガヤン高司祭位を取得するに至りました。それと未だ粗いですが、【幻想刺突】の真似事が出来るようになりました」

アルフレッド、これまでの旅路を語り終える。

「なるほどな。良く判った。ではこれから、ガヤン中央神殿へ向かうぞ」

「ガヤン中央神殿……ですか? 一体何をしに?」

「あそこには設備の整った戦技道場や演習場がたくさんある。そこを借り受けて、修業に使うのさ」

「ガヤンの道場を……ですか!? ですが私達のような余所者が突然伺って、借りられるものなのでしょうか?」

アルフレッドが心配するも。

「何云ってるんだい? お主、ガヤン高司祭じゃろうが?」

「あ……! そうでした!」

アルフレッドの地位なら、たとえ余所者であっても優先的に使用できる。

「ほれ。とっとと行くよ」

「あ……、はい!」

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エクナのガヤン中央神殿の別館。神殿附属の演習場の一室。

「さて。まずは【幻想刺突】を独力で会得したそうだね。おめでとうと云っておこうか」

プリメラ高司祭の言葉にアルフレッドは。

「ありがとうございます。師匠の残してくださったヒントのお蔭です。……ですが、確かに【幻想刺突】は初見殺しの技ではありますが、たとえば側面から見られたら仕掛けが丸判りだったり、一度見せてしまった相手には仕掛けがバレて通用しないと云った弱点もあります。そうした弱点をどのように戦闘で補っていったら良いのか……」

と、懊悩を打ち明ける。

するとアルフレッドの言葉を聞いたプリメラ。

「何云ってるんだい? ……なるほど。お主はシャストア幻術の本質と云ったものをまだ理解していなかったようだね」

「幻術の本質……ですか?」

「ああ。良いかい? シャストア幻術の最大の利点。それはタネがバレても、そのことがいささかも不利益につながらない、と云う点にある」

「ど、どう云うことですか!? 幻であることがバレても構わないと!?」

「そうさ。……たとえば小僧。一度【幻想刺突】を見せたことがある相手に再び【幻想刺突】を仕掛ける。すると敵はどう出ると思う?」

「それは……一撃めが幻影であると判っている訳ですから。一撃めは無視して二撃めの攻撃に備えるでしょう?」

「そうだね。そこでお主は前に実体を、後ろに幻覚を配置する。それならどうなる?」

「あ……!!」

アルフレッド、ようやくプリメラ高司祭の云いたいことを理解する。

「しかも同じ敵と更にもう一度対峙した際。敵は前と後ろのどちらが実体か、二択を迫られることになる。両方を防御するのは不可能なタイミングだからね」

「そう云うことか……! この技のタネそのものが、敵に迷いを生じさせる手段、と云うことですか!?」

「そうだ。そして更に幻術の精度と技術を向上させ、2体の幻覚を同時に操作出来るようになってごらん? 敵は常に三択を迫られるようになる」

「なるほど……。タネがバレても不利益につながらない、とはそう云う意味でしたか……。私が幻術を使う、と云う情報そのものが敵に迷いを生じさせる罠となる」

「それに折角わざわざガヤン神殿で修業させて貰ってるんだ。小僧、ガヤンの剣術と投極術も、シャストア細剣術と同じくらい習熟しておきな」

「ガヤン流の武術を……ですか? それは一体……?」

「【幻想刺突】は何もシャストア細剣術でしか使えない訳じゃない。他の攻撃手段でも応用が利くんだ。となれば攻撃手段を出来るだけ増やしておいた方が、応用の振り幅はそれだけ大きくなる」

「そうか……!!」

原理は同じ、と云うことか。

「これからは、幻術、細剣術、ガヤン流剣術、投極術を同じ割合で修業しな。そして休息の時間をじゅうぶんに確保すること。訓練過剰(オーバーワーク)は完全に逆効果しか生まないからね」

「はい!!」

ーーーーこうして、アルフレッドの濃密な修業の日々が始まった。

修業を開始してすぐ、プリメラは挨拶に行くと云って席を外した。

ガヤン中央神殿の長は諸島群に於けるガヤンの最高司祭でもある。最高司祭仲間の縁で、アルフレッドがガヤン信者の訓練課程の正式な指導を受けられるよう口利きをしてくれた、とのことだった。有難い話だ。

そしてアルフレッドはプリメラから幻術と細剣術の、ガヤン中央神殿の教導官からガヤン流剣術と投極術の指導を受け、来る日も来る日も厳しい修業を繰り返し過ごした。とりわけ基礎訓練に、特に重点を置いた。

そうして気が付けば、プリメラとの修業開始から3年の月日が経過していたーーーー。

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ある日。いつものようにアルフレッドがガヤン神殿演習場にて早朝の自主訓練に精を出していると、演習場入口の扉が開き、いつものようにプリメラ高司祭が入室し、そしていつもと違う言葉を口にした。

「ーーーー始まったよ」

その言葉を耳にした途端、アルフレッドは自主訓練を辞め、身に着けていた訓練用の道着を脱衣して汗を拭う。

そして綺麗に洗濯され、暫く身に着けていなかった冒険用の着衣に着替えると、革鎧(ヘビー・レザー)を着用し、高品質の細刀(サーベル)と広刃の剣(ブロード・ソード)を腰帯(ベルト)に差し、最後に老マハノチの革製のシャストアのマントを纏う。

久々に冒険者の装備を身に纏ったアルフレッド。プリメラ高司祭の前で片膝を突くと。

「3年もの長い間、本当にお世話になりました。本当に、ありがとうございます!」

心からのアルフレッドの謝辞。プリメラ高司祭が頷くと、アルフレッドは立ち上がり。

「では、行って参ります」

「ああ。行っといで」

こうしてアルフレッドは、3年もの長きに亘り拠点としていたガヤン中央神殿の門をくぐり、友と敵と、そして運命が待つ外の世界に向け、歩み出すのだったーーーー。

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