アスリートは翻訳家であれ - 前編:アスリートが翻訳をすべき2つの理由 -
先日、とある大手アスリートマネジメント会社の方から「契約選手に対してセカンドキャリアに関するサポートをしたいのだけど、何をすべきでしょうか?」と質問を受けました。
私は「資産運用や社会で活きるスキルを学ぶことも重要だけど~」と前置きをした上で「競技を通して得た学びや気付きを、競技以外のコトに翻訳できるようになることが重要」と答えました。
このnoteは前編後編に分かれており、前編はアスリートが翻訳をすべき理由について。そして後編では、翻訳によってアスリートが得られるメリットについてまとめています。
翻訳とは
"翻訳" の辞書的な意味はこちらです。
1. ある言語で表された文章を他の言語に置き換えて表すこと。
2. 符号やわかりにくい言葉、特殊な言葉などを一般的な言葉に直すこと。
翻訳とは「置き換えること」そして「一般的な言葉に直すこと」を意味する行為と言えます。
突然ですが、この文字列の意味は何でしょう。
・・-- ・--- --・-・ -・ ・--・- ・-・・ ・・ ・--・- -・・・ ・--・- ・--・- ・-・-- ・・ ・--- --・-・ ・-・--
1837年にアメリカで発明されたモールス信号です。もちろん読めません。過去、モールス信号は電信機で情報を伝達することを目的に活用されてきました。
上記のモールス信号を翻訳サイトに通すと、
白熱の攻防戦を制したアーセナルがホーム9連勝! マンUはスールシャール体制でプレミア初黒星を喫して5位後退。
と、意味を理解することができます。上記の事象では、難解なモールス信号を翻訳サイトが媒介となって日本語に置き換えています。
つまり翻訳とは、受信者が理解できない言語や概念を、翻訳機能を持つ媒介を通すことで理解できる言語や概念に変換する工程のことを表します。
私たちに馴染みが深い”翻訳”は、google翻訳を始めとした言語翻訳ですが、今回このnoteで取り上げる"翻訳"は、経験に関する翻訳です。
アスリート=突き抜け人材である
アスリートはトップ選手であればある程、競技を通して希少な経験を沢山しています。幼い頃から自分の身体ひとつで名を上げ、大勢いる同世代選手の中から選抜チームに選ばれ、世代別日本代表として国際舞台を経験し、プロ契約を結ぶ。Jリーガーになれるサッカー少年は1000人に1人と言われていて、倍率1000倍の狭き門を潜り抜けた超エリートです。
彼らは、才能・恵まれた身体能力・環境・指導者・良きライバル・運・努力・コネクション 等、様々な要素が重なり合い倍率1000倍の狭き門を突破してきた訳ですが、そこには「絶対にJリーガーになれる方法!」のような体系化された教材は存在しません。正解のない競争環境下で誰より実践し続けてきたからこそ、Jリーガーは突き抜けた人材になることができる。
突き抜ける人材を育てるには、というテーマで執筆された『新・五輪書』の中には「アスリートは"とりあえずやること"と"工夫してやること"が抜群に上手い」という記述があります。
一見つまらなそうなタスクでも、自ら目標を設定するなど工夫することで、それを楽しむことができるようになる。しかも、そのことが結果的に上達にもつながるのだ。実は、トップアスリートはこうした日々の目標を決めるのが抜群にうまい。そのことが長期にわたって向上し続け、最終的に突き抜けた存在になることにつながっているのである。何か一つの領域で突き抜けるというのは、決して大きな努力を要するものではない。必要なのは、誰にでもできる日々の小さな努力だ。それを誰もできないくらいに続け、改善していった人だけが突き抜けることができる。-『新五輪書』より抜粋-
【小さな目標設定→実践→改善→小さな目標設定→・・・ 】のサイクルを習慣化し、誰でもないくらいに続けた人が突き抜け人材=アスリートになれる。そして超難関大学の合格者や優秀なビジネスパーソン、有名アーティストなどの突き抜け人材は、例外なくこのサイクルを習慣化して地道に回し続けています。
アスリートが自身の経験を翻訳すべき2つの理由
それでは、突き抜け人材であるアスリートはなぜ自身の経験を翻訳する必要があるのでしょうか。
その理由は次の2つです。
① 必ず現役引退が訪れるから
言わずもがな、ですが身体活動を伴う競技のアスリートは引退から逃れることができません。つまり、選手とは違う仕事や生き方を見つけなければならない時が必ずやってくるのです。
これを【分野×スキルの4象限】で整理します。
この4象限にアスリートを当てはめます。
アスリートは選手として左上①の領域で突き抜けた人材です。しかし、引退と同時に職業上は①に居られなくなり、②③④のどこかに進まなければなりません。
つまり、①【スキル:同じ × 分野:同じ】から②【スキル:違う × 分野:同じ】や③【スキル:同じ × 分野:違う】へ移行する為には、スキルor分野を翻訳する必要がある訳です。
上図の矢印が引退後の進路だとすれば、競技を通して培ってきた経験を、②③④に翻訳・転用できないアスリートが「セカンドキャリア問題」に直面しています。「競技以外にできることがみつからない」「競技以外で情熱を燃やせるものが見つからない」、といった具合に。
また、このnoteの趣旨からは逸れますが、予防医学博士の石川善樹さんは「最も人が成長するキャリア選択は④【スキル:違う× 分野:違う】の領域に飛び込んで、必死こいてモノにすることだ。アスリートで言えば投資銀行とか。」と仰っていました。(納得ですが、難易度高め。。)
② 理論を持たない超実践型の選手が多いから
アスリートは超実践型人材である。
これは為末大さんの言葉で、"超実践型人材"というワードは良い側面と悪い側面の両方を併せ持っています。良い側面は、日々の実践の中で誰より結果を残し続けてきた点。ある領域で突き抜ける、成長する、地位を築く、技術を身に付ける、チームをマネジメントする、ということに関してアスリートは超一流と言えます。
対して悪い側面は、実践に理論が伴っていないケースが多いこと。理論とは実践の対義語であり、それぞれの事象を抽象化して体系的に理解することです。
【理論】
個々ばらばらの事柄を法則的・統一的に説明するため、また認識を発展させるために、筋道をつけて組み立てたもの。
私はアスリートの持つ理論には3段階あると考えています。
この①②③のフレームワークを図解すると、こんなイメージです。
このフレームワークを使ってサッカー選手について考えてみます。
①の選手は、競技を通して自らが経験し、学んだことをバラバラの事象として捉えている選手。②の選手は、サッカーという競技の範囲内であれば物事を理論立てて考えることが出来る選手。そして、③の選手は、サッカーで得た理論を、サッカーを越えて他の分野にも転用できる選手。
アスリートは②の段階までは到達出来ている選手がほとんど(でなければ、プロにはなれません)。しかし、競技を越えた次元で理論を持っている選手は一握りです。
本来、アスリートは超実践的な日々の中で、一般人には得難い量と質の経験をしてきています。変化の速い現代社会においては、答えのない日々を走り続けてきたアスリートの雄姿や思想は多くの人に勇気を与えます。だからこそ、その「経験」をアスリートの中だけに留めておくのは非常にもったいない。
トップアスリートの言葉には人の記憶に強く刻まれる名言が多く存在し、先日のイチロー選手の引退記者会見には日本中が釘付けになりました。競技を突き詰める過程で到達した物事の本質や真理を、世の中に伝わる形で翻訳できるアスリートは稀有な存在だと考えています。
また、③の段階まで到達することが出来れば、前述の【分野×スキルの4象限】で違う領域に移行しようとする際に、自分は何が好きで・何が得意で・何が嫌いなのかを競技を越えて考えることができます。
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と長くなりましたが、この続きは後編「翻訳によってアスリートが得られる2つのメリット」にまとめたいと思います。最後までお読みいただきありがとうございました!
fin.
五勝出拳一[ごかつでけんいち]
広告屋 ← 東京学芸大学蹴球部&全日本大学サッカー選抜 主務|サッカー選手育成アカデミー神村学園淡路島キャリアアドバイザー|アスリートの価値を世の中に還元する|COYG|日本に40人の苗字、ゴカツデです。
いつも読んでいただきありがとうござます:)