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【MMT×中国】"中国経済崩壊論 "の誤りを暴く④(終):MMT学派の経済学者の見方(2023年11月21日)

欧米の学者たちは、現金給付で消費を刺激することを提案しており、中国でも実際に消費券を導入している地域もあるが、現金給付は消費を刺激する方法としては、持続可能ではなく効果的でもない。

本文より

 前記事に引き続き、ヤン・リアン教授による寄稿「"中国経済崩壊論 "の誤りを暴く」(11月21日付『中国社会科学報』)のその④(最終回)をお届けする。(〔〕は訳註。)
 リアン教授は、個人消費を長期的に促進するには、一時的な現金給付よりも民間の雇用創出と賃上げの奨励、公共の就業保証プログラムが必要であると提案し、ほか中央政府から地方財政への財政移転を増やすべきであると主張する。そして欧米の見方とは異なり、中国経済は堅調に推移しており、今後も経済発展の成熟へ向けて現実主義的なアプローチを取るだろうと結論する。
(前回リンク:その①その②その③


長期的視野に立った個人消費の促進

 習近平国家主席は、人々が安定した収入のもとで消費し、安心して消費する勇気を持ち、恵まれた消費環境のもとで強い達成感を持って消費する意欲を持てるよう、長期的な消費拡大メカニズムを確立・整備することが重要だと指摘している。欧米の学者たちは、現金給付で消費を刺激することを提案しており、中国でも実際に消費券を導入している地域もあるが、現金給付は消費を刺激する方法としては、持続可能ではなく効果的でもない。なぜなら、消費者の信頼と所得を高めることができなければ、一時的に支給された現金は緊急の必要のために貯蓄される可能性が高く、また、支給された現金が枯渇すれば、消費者は直ちに消費を減らすからである。従って、個人消費を促進するには長期的な視点が必要である。

 第一に、民間部門が一層多くの雇用を創出し、賃金を引き上げることを奨励し、そのための条件を提供することである。2023年7月に発表された「民間経済の発展と強化の促進に関する中国共産党中央委員会および国務院の意見」には、8つの分野で合計31の取り組みが盛り込まれており、起業を奨励し、より多くの雇用と所得の増加の機会を創出するのに役立つ。加えて、労働者(特にプラットフォーム経済関係者)〔日本でいうUberやYoutube等オンラインプラットフォームに従事する労働者〕を保護し、賃金水準を引き上げる政策も、所得と消費の成長に恩恵をもたらすだろう。

 第二に、中央政府は、地方レベルでの雇用創出のために、中央政府が資金を拠出する包括的な就業保証プログラム(JGP)を導入することができる。こうした仕事は、民間企業にとっては「採算が合わない」かもしれないが、若年層、特に大学新卒者を雇用し、職業スキルを身につけ、実務経験を増やすための訓練を提供することで、適切な民間企業の仕事が見つかったときに民間企業への移行を支援するという社会的価値がある。包括的な就業保証は、人的資本のフル活用と社会的価値の創造を促進するだけでなく、就業、所得、消費の好循環を生み出す。包括的なJGPの資本コストは、実際のところ現金給付に比べて低い。さらに、必要なターゲットに定めることができるため、包括的な就業保証に対する財政支出は一層効率的になる。2022年12月に開催された中央経済工作会議では、積極的な財政政策と慎重な金融政策の継続が指摘された。さらに、包括的JGPは、失業保険給付や助成金、低所得者層への補助金などの福祉支出の必要性を間接的に減少させ、財政に対する正味の需要は見かけよりもさらに低くなっている。最後に、公共雇用の機会は社会が必要とする商品やサービスを生み出し、供給の増加はインフレ圧力を弱める。要するに、中央政府には包括的なJGPに資金を供給する十分な財政スペースがある。

 第三に、地方財政支出は、安定的で健全な経済発展を促進し、人々の生活を守る上で重要な役割を果たす。中央政府は、地方政府の反景気循環的支出や債務支払いの能力を高めるため、地方政府への財政移転を増やすことを検討してもよい。中央政府による地方政府の債務調整は、実現可能であるだけでなく、政府全体の債務構造の改善にも資する。もちろん、地方政府は規制を厳守して財政責任を果たし、歳入と歳出のバランスをとり、債務を効果的に管理しなければならない。地方政府の債務(隠れ債務であるかを問わず)と地方政府職員の業績評価との関連性を厳格に実施することは、一定の規制と牽制の役割を果たすことになる。

 まとめると、中国経済は安定しつつある。課題はあるものの、中国経済全体は堅調を維持しており、政府は経済発展を誘導・支援する十分な政策手段を有している。国際通貨基金(IMF)と世界銀行の予測では、2023年の中国のGDP成長率はそれぞれ5.4%と5.1%で、中国経済の年間成長率5%という予想目標に一致している。このように、根拠ある観察と研究がすべて中国経済の見通しに対する自信につながっており、欧米のメディアやシンクタンクによるセンセーショナルな「中国経済崩壊論」とまったく異なることは明らかである。中国は、開放的で、包摂的で、質の高い、持続可能で現代化された経済を発展させるために、断固とした現実主義を貫いていくだろう。
(終)

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