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【MMT×中国】"中国経済崩壊論 "の誤りを暴く③:MMT学派の経済学者の見方(2023年11月21日)

しかし、消費者マインドに影響を与えた新型コロナウイルスの流行と防疫措置、資産効果を弱めた不動産市場の調整によって、消費者需要は試練にさらされている。したがって、住民の消費を支える効果的な経済政策の導入が急務である。

本文より

 前記事に引き続き、ヤン・リアン教授による寄稿「"中国経済崩壊論 "の誤りを暴く」(11月21日付『中国社会科学報』)のその③をお届けする。(〔〕は訳註。)

 ここでは、リアン教授が、不動産部門の低迷に伴う金融危機論に対して様々なエビデンスをもとに反論しつつ、問題は民間消費にあると論じている。

(前回リンク:その①その②


不動産の緩やかな安定化と新たな成長エンジン

 欧米の評論家の中には、中国は「不動産バブル崩壊」によって「金融メルトダウンの危機」に瀕していると言う人もいる。この解釈は間違っている。不動産部門を鎮静化し、需給バランスを回復させなければならないのは事実であり、中国はこの点で「投機なき住宅」という位置づけと「3本のレッドライン」政策を打ち出している。現在の不動産部門の減速は、深思熟慮を経ての選択である。不動産部門は調整過程にあり、この間不動産デベロッパーは未完成のプロジェクトを完了させ、デレバレッジを進め、業界を再編する必要がある。

 これは、一部の投資家や債権者には、経済的利益上のショックを与えるかもしれないが、システミックな金融リスクの抑制には役立つだろう。その理由は、第一に、不動産デベロッパーに対する銀行からの直接融資が銀行融資残高に占める割合はわずかであること、第二に、中国では住宅購入者は通常、頭金の一定割合を納入しており、容易に貸し倒れを起こさないこと、第三に、かつての日本とは異なり、中国企業は不動産を担保に広範で大規模な融資を受けることはないこと、第四に、2008年の米国のサブプライム危機とは異なり、中国では不動産部門の大規模な金融化や債券化が行われていないこと、第五に、不動産部門の債務は主に国内債務であり、中国人民銀行と国有資産管理公司はいつでも銀行に必要な流動性と資本支援を提供する能力を持っていることである。

 こうした様々な証拠が示唆しているのは、中国の不動産部門が巨額の損失を被ったり、広範な金融危機に発展したりする可能性は極めて低いということだ。不動産部門は今後、供給側と需要側の両方の政策によって徐々に安定化するだろう。供給面では、前述のように、未完成の住宅プロジェクトを完成させるために、不動産デベロッパーへの融資が引き続き行われる。また、社会保障型住宅(中国の公営低価格賃貸住宅)建設や都市内の村落(発展した都市に吸収された村落)の改修計画も不動産部門の供給に弾みをつけるだろう。需要面では、頭金比率要件の緩和、住宅ローン金利の引き下げ、住宅購入に対する不動産取得税免除の新規定といった最近の政策が、住宅需要を後押しするだろう。もちろん、都市化と人口増加の鈍化により、不動産部門がピーク時の規模に戻るのは難しいだろう。中国経済の今後の大きな課題は、不動産部門への巨額の投資に代わる成長エンジンを見つけることだ。そうした成長エンジンは、2つの分野に焦点を当てるべきである。

 第一に、習近平国家主席と中国政府が長年強調してきたように、中国はイノベーション駆動型の高度生産性主導の発展を推進しなければならない。近年、中国の研究開発投資は比較的急速な伸びを維持しており、2022年の全国研究・実験開発投資総額は3兆782億9000万元で、GDPの2.54%を占める。「中国製造2025」(製造強国を目指す中期計画)戦略に牽引され、政府の投資誘導ファンドと民間の投資ファンドに支えられて、中国の科学技術開発への投資と生産は発展を続けている。中国は現在、人工知能、5G通信技術、量子コンピューティングなどの戦略的技術のリーダーとなっている。中国はまた、「製造業」から「スマート製造業」への飛躍的なシフトを加速させている。近年、不動産開発への投資が減少したため、金融リソースは工業部門により多く振り向けられるようになり、工業生産とイノベーションへの支援が続けられている。加えて、5Gのような新たなインフラ整備に対する中央・地方政府による公共投資は、ハイテク産業の発展を引き続き推進し、科学技術イノベーションへの民間投資を誘導し、クラウドインしていくだろう。

 プライベート・エクイティ(私募形式で発行される株式等)やプライベート・クレジット(ファンドなどによる企業向け融資)も、ハイテク産業への投資を誘導し、融資を提供する上で重要な役割を果たす。ハイテク産業向け債券の発行を促進し、プライベート・エクイティ投資ファンドやベンチャー・キャピタルの健全な発展を促進するための監督管理を整備するなど、科学技術への融資に対する現在の政策支援は、民間資本がハイテク産業に参入するインセンティブを高めるのに役立つだろう。また、外国直接投資(FDI)の全体的な成長傾向が鈍化しているにもかかわらず、ハイテク産業の資本誘致は2023年上半期に7.9%、ハイテク製造業の資本誘致は28.8%の伸びを示したが、これはプッシュ要因とプル要因が組み合わさった結果である。一方では、外国人投資家は中国の科学技術発展の見通しを楽観視しており、有利なリターンのある投資機会を求める意欲に燃えている。他方、中国は外国からの投資を歓迎する声明や政策を打ち出している。例えば、国務院は「外国投資環境のさらなる最適化と外国投資誘致努力の強化に関する意見」を発表し、望ましい投資方向や分野に外国投資家を引き続き誘致するため、6つの分野で24の政策と措置を提案している。FDIは資本を提供するだけでなく、より重要なこととして、技術移転と波及効果ももたらし、中国の科学技術イノベーションの発展において有益かつ補完的な役割を果たすことができる。

 第2に、2010年以降、中国経済は需要のリバランシング(再平衡)に着手している。固定資産投資は依然として需要の重要な構成要素であるが、投資が供給能力を高めることを考えると、家計消費、政府消費、純輸出など、何らかの最終需要によってバランスを取る必要がある。中国の人々がより豊かになるにつれて、外需の低迷と相まって、中国には国内の消費需要を拡大する必要性が高まっている。実際、2010年から2021年にかけて、中国の家計消費はGDP成長率を上回るペースで伸びており、GDP成長率への寄与率は平均57%を超えている(これに対し、投資は平均約42%、純輸出は1%)。しかし、消費者マインドに影響を与えた新型コロナウイルスの流行と防疫措置、資産効果を弱めた不動産市場の調整によって、消費者需要は試練にさらされている。したがって、住民の消費を支える効果的な経済政策の導入が急務である。

(④に続く。)

【MMT×中国:関連リンク】

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【MMT×中国】"中国経済崩壊論 "の誤りを暴く②(ヤン・リアン ウィラメット大学教授、 2023年11月21日)

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中国の地方政府債務問題について。

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「MMTと中国のマクロ経済政策立案に対する重要な意義」(賈根良・中国人民大学教授、2022年6月17日)

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