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群青

YOASOBI(ヨアソビ)の「群青」を聴いていたら、心臓を鷲掴みにしたまま、過去が私に照準を合わせた。


この曲、お菓子のアルフォートのCMソングにもなっているけれど、マンガの「ブルーピリオド」の曲。

そうとは知らずにJ-WAVEで流れていて「なに?なんかドキドキする!」と調べたところ、そうだと知って「ブルーピリオド」を読んでいるので、改めて歌詞をじっくり聴いてみると。

ああ。

わかる。私もその感覚、知ってる。


私は長いこと芝居をしていた。

今はほとんどやらなくなったけど、若い頃は年に2本〜多い時には4本舞台に出ていて、週5のフルタイムで働いていたから、基本フラフラ。

体はキツイし、演技が上手くなくてもどかしくても、芝居が好きで楽しくて仕方なかった。

あのギリギリで命削ってる感じ。

役者もスタッフも、全員が最善を尽くしてがんばっているのに、本番の幕が開けたら何が起こるかわからないし、毎回違うし、そこがおもしろいけど、怖いところでもあった。

舞台上でセリフを忘れてしまう、というのは、あってはならないけれど、ある。

人間だもの。


私はその時、舞台上にいた。

その時、舞台上にいたのは3人。

若い男の子のセリフが出てこなかった。

舞台上にいるもう一人の男性をサッと見ると、目を伏せて小さく首を振っている。

若い男の子のセリフの後の私のセリフを言ってしまうと意味が通じない。

たぶん、彼が沈黙してから5秒くらいだったと思うが、セリフが出なくて舞台上にいる5秒は永遠のように思えただろう。

私はアドリブが得意ではないけれど、もう私がこの場をなんとかするしか、生き延びる道はないと思った。

「・・・んもー!!そんなこと言ったって、こっちだって困るのよー!!」とブチ切れて、その男の子の腕をグイッと引っ張って舞台袖に退場した。

間違いなく、観ているお客さんは意味不明でポカーンとしたと思う。

話、全然繋がってないし、突然、私はブチ切れるし。

舞台袖で私は恐怖で脚がガクガクして、思考が停止して倒れそうだった。

若い男の子は震えながら(舞台袖だし)消え入るような声で「ごめんなさい。ごめんなさい」と謝っていた。

私は「いいから。気持ち切り替えて次のシーン、行くよ」と小さい声でその子に言った。

あとで団長が「あの時、俺が舞台上に走って行って、あいつ(若い男の子)を抱きしめてやりたかった」と言っていた。

・・・いや、気持ちはわからなくはないけど、それやったら、私がブチ切れて退場したより、結果がヤバいと思うんだけど。


他の役者にも聞いてみると、みんな「あるある」と言う。

今でも、ままならない舞台の、芝居の夢を見る。

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