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石垣島「やえやまファーム」に学ぶ、地域での事業の作り方

2023年9月に始まった「LOCAL START-UP・GATE」。世界観ファーストでの事業づくりをコンセプトに、秋田、鹿児島、石垣島で開催。3拠点合計20人ほどの参加者とともに、プログラムが進行中です。

過去の様子はこちらから>

さて、「LOCAL START-UP・GATE」の特徴の1つが、3拠点それぞれで開催する「フィールドワーク」です。その地域ですでに事業を立ち上げている起業家と共に地域を回りながら話を聞きます。

今回は、10月末に石垣島で開催したフィールドワークの様子をお届けします。


石垣島で6次産業化を進める「やえやまファーム」代表の中家さんと巡る

今回のフィールドワークの案内役が、有限会社やえやまファーム代表の中家勝則(なかいえ・かつのり)さんです。

やえやまファームはロート製薬の子会社で、堆肥や飼料をできる限り自社内で生産し、廃棄物を出さない循環型6次産業を実践。泡盛粕を用いた石垣牛やオーガニックパインの生産、パインの発酵飼料を用いた南ぬ豚(ぱいぬぶた)など、さまざまな食品ブランドを展開しています。

やえやまファームに着くと、中家さんが事務所で使う机を自作している最中でした。飾らない様子で、出迎えてくれます。

まずは事務所で中家さんの世界観を聞きつつ、参加者との対話を深めました。

自身と会社の世界観についてはなす中家さん。やえやまファームの事務所にて

フィールドワークの参加者から出た質問と回答を、いくつか抜粋して取り上げます。


Q:商品のストーリーをどのように顧客に伝えているか?

A:ひとつひとつの商品パッケージを工夫したりはもちろん、単なるお土産で終わらせず農業全体を盛り上げられるように、6次産業化に向けた活動を続け、発信する努力をしている。

農業の収益環境が厳しい中、生産だけでも手いっぱいの小規模農家が、流通まで含めた6次産業化を推進するのは非常にハードルが高い。だからこそ、我々のように大企業資本のある会社が主導して、地域の農家や流通業者を巻き込んで6次産業化に取り組む意義があると考えている。そうした発信を強化できれば、結果として石垣島における農業自体にブランド価値がつき、農業全体が盛り上がっていく。

Q:さまざまな食品ブランドを展開しているが、どういった基準で広げているのか?

A:社会性や収益性はもちろん考えるが、結局は誰がやるのか、やれるのかが大事。社会的に良いことであっても、ビジネスとして持続可能な形で考えて動ける人を確保できるかが重要だと思う。

Q:スケールさせることが大事だと考えているが、どう取り組んでいるか?

A:やえやまファームの場合、「会社からお金をもらうこと」を意識している。独立起業で数億円のお金を投資してもらうのはなかなかハードルが高いが、会社の中の話であれば、価値さえ明確にできれば予算をつけてもらえる可能性は全然ある。

だから個人的には、社内起業する人をもっと増やしたいと考えている。そのために、子会社で経営を学んでもらう機会を増やしたり、外部の起業家を社内に招き入れたりといった取り組みを検討している。


日本唯一のオーガニックパイン生産、8年間の研究成果

事務所を出て、実際に、やえやまファームのパイン畑を訪問しました。

「パイン王子」こと山中広久さん(農産部部長)が丁寧に、案内してくれました。

やえやまファームのパイン農園。見晴らしの良い高台にある。写真左が山中さん

やえやまファームでは、日本で唯一、農薬を使わないオーガニックパインの生産を進めています。前例のない挑戦に向けて、これまで8年間にわたり実験を繰り返してきました。その間、パインの結実率が7%から50%まで向上するなど、着実に実験の成果が現れ始めているそうです。

やえやまファームで生産している南ぬ豚のフンから肥料を作り、その肥料で育った牧草が石垣牛の食料になり、牛のフンからできた堆肥がオーガニックパインを生産する土壌になり——といった具合に、生産が循環しています。

泡盛の製造過程で生じる泡盛麹を土壌に撒くことで、肥料になるとともに防草にもなるなど、研究を通じてさまざまな工夫がなされています。

泡盛麹は独特のお酒の優しい香りがします
農園ではネズミの被害を抑えるために、猫が飼われている

南国の石垣島は、農業をする上では過酷な環境です。その中でも、研究を繰り返しながら地道に事業に取り組んでいる様子は、一朝一夕では実らないストーリー性を感じられるもので、学びの多い時間でした。

石垣牛の生産牧場にて

続いては、石垣牛と南ぬ豚を育てている牧場見学。説明用のボードを持った、畜産部の島田洋平さん(​部長兼牧場長​)が出迎えてくれました。

やえやまファームの循環型畜産業について説明してくださる島田さん

パイン畑で使う堆肥の製造所や、豚や牛を飼育している牧舎などを回りながら、事業のこだわりなどを教えてもらいました。

たとえば、以前は輸入に頼り切っていた石垣牛の飼料を、近隣地域で生産したものへと変えようとした際には、安定して味の良い肉を作りやすい輸入飼料を使いたい生産者や職人と、丁寧な意見交換が必要だったそうです。現場で働く皆さんだからこその貴重なお話を聞くことができました。

見学に伺った際には、産まれたての子牛が初めて立とうと頑張っていました

前述の通り、やえやまファームでは研究や実験にも積極的です。最近では、泡盛粕を牛の飼料に混ぜることで、地球温暖化の一因である牛のゲップ(メタンの発生量)を抑えられることを証明するなど、さまざまな角度から循環型農業の価値向上に取り組んでいる様子が伝わります。

牛を愛でる中家さん

今回やえやまファームを見学する中で印象的だったのが、働く皆さんによる、あまりにもわかりやすい説明でした。

後で中家さんに聞いたところ、「農場や牧場など生産場所での取り組みについて理解してもらうには、実際に見てもらい、本当に現場で作業している人から話を聞いてもらうのがよい」という考えのもと、社員皆が、顧客へ自分たちの事業を説明する努力をしているのだそうです。

オンラインでの見学会も実施するなど、じわじわと価値が伝わっている実感があるとのことでした。

ロート製薬は「薬に頼らない製薬会社を目指す。そのために食から健康を」を掲げています。壮大な世界感を実現するために、企業として足元の地道な活動がいかに大切かを肌で感じられる1日でした。

参加者からも「個人では想像できない規模での動きについて知れて良かった」「世界観の実現を前に進めつつ、同時に共感してくれる人の世界観をも応援する形が見られて良かった」といった声があがっていました。

協力してくれた中家さん、やえやまファームの皆さん、改めてありがとうございました。

同じく秋田でのフィールドワークの開催レポート>

鹿児島でのフィールドワークの開催レポート>