TOCの知識体系 - 「どんな対立も解消できる」…とは限らない
こんにちは、ゴール・システム・コンサルティング&リ・デザイン研究所です。2021年7月より私たちの会社のCCSO(チーフ・カスタマーサクセス・オフィサー)に就任した渡辺薫による連載コラムの第10回をお届けします。
毎週火曜日更新です。
これまでの連載は、以下のマガジンからご覧いただけます。
「どんな対立も解消できる」…とは限りません。
「課題解決のための基本姿勢」としては、とても重要だと思います。 でも「どんな対立も解消できる」には重要な前提条件があります。それは「最も重要な目標・目的を共有している限りにおいて…」です。すなわち「重要な目標・目的を共有していない場合は、対立が解消できるとは限らない」ということです。
さて、わたしたちがビジネスの現場において対立を解消しようとする際、本当に「重要な目標・目的を共有している」ということを前提にして良いでしょうか? 私たちがビジネスの現場においてクラウドを使ってジレンマを明確にし、対立を解消しようとする話し合いにおいて、以下のような経験をされた方も少なくないのではないかと思います。
✔ 「重要な目標・目的」を話し合うこと自身が難しい
✔ 実は「重要な目標・目的を共有していなかった」ことに気がついた
✔ 改めて「重要な目標・目的」を共有したはずなのに、対立を解消する行動に至らない
このような現象の理由として考えられる要因の一つは「同じ組織に属しているのだから、重要な目標・目的を共有しているはず」という思い込みです。この思い込みのために「重要な目標・目的」について話し合う機会が少なく、その結果、お互いに「私が重要と思っている目標・目的はこうだから、相手もそう考えているはず」と考えて、それを前提として話を進めてしまう、とうことです。
もう一つの要因は、「組織にとって重要な目標・目的」と「個人にとって重要な目標・目的」は別の話だ、ということです。特に難しいのが「個人にとっての重要な目標・目的が『組織の中での相対優位』の場合」です。相対優位というのは、組織(もしくは集団)の中で共有している重要な目標・目的のために一致協力していくべき相手よりも「自分の地位、権力、収入などが上回る」ことが自分にとって重要である、という意味です。たとえば、
✔ 次の選挙に勝って、議員であり続けることが重要である
✔ 大臣であり続けることが重要である
✔ 部長に昇進することが重要である
これは非常に取り扱いにくい問題です。まず「相対優位」という目標の達成には、競争相手が劣位になる必要があります。すなわち、目標そのものが「Win-Lose」であるということです。また「私にとって、私の(相対優位の)目標・目的は、組織(全体)の目標・目的より大切である」と発言することは、事実上不可能です。そんな発言をすれば「炎上したり、非難されたりしてしまうので、口に出すわけにはいかない」ということです。
「組織(全体)の目標・目的の実現のため」と言いながら「自分の相対優位のための行動」をとる人を見聞する機会は少なくないと思います。昨年秋のアメリカ大統領選挙後の、共和党議員の行動を振り返ってみましょう。多くの共和党議員が「次の選挙で勝つこと、議員であり続けることが最優先であると考えていた」と想定しないと、彼らの行動の理由が理解できないと思います。公には「国家、国民のため」と言いながら、「次の選挙で勝つため」の行動をとっていたとしか考えられない、ということです。
組織にとって重要な目標・目的を共有し、対立(ジレンマ)を解消して、行動計画を作ろうという際に、誰かの「自分の相対優位が大切」という要望が(当然ですが)考慮されることはありません。そうすると、その誰かは、「組織の目標・目的達成のための行動」と「自分の相対優位のための行動」が対立する場合に、「自分の相対優位のための行動」をとってしまう可能性があるということです。
こうした可能性を認識せず、また「最も重要な目標・目的を共有している限りにおいて…」という前提条件を明確にせずに、「どんな対立も解消できる」とだけ言い切るのは適切ではないと思います。上司から部下に対して「どんな対立も解消できる」と言うのは、パワハラにもなりかねませんし、場合によっては責任追及と受け取られる可能性もあると思います。
対立解消をあきらめるとか、妥協しようと言っているわけではありません。クラウドを使って対立を解決しようとする際には、ここに書いたリアリティを十分に理解した上で、
✔ 話し合いや実行がうまく進まなくても、自分を責めないように
✔ うまく進まなくても心が折れたり、あきらめたりしないように
✔ いろいろな人がいることを想定し、柔軟に行動できるように
✔ 話し合ったことと違うことをした人がいても、その人を責めないように
行動し、一歩でもゴールに近づくために日々努力を継続する。そういう姿勢で取り組むことがTOC思考プロセスを使う上では大切だ、私はそう主張したいと思います。
「自分の子供が大切」というのは個人の要望ではありますが、組織・集団のなかでの相対優位を求めているわけではありません。また「自分の子供が大切」の実現に敗者(Loser)は不要です。「自分の子供が大切」という要望と「仕事が大切」を両立する対立解消は十分に可能だと思います。吉田裕美子さんとこの課題に取り組んだ事例を、どこかで紹介させていただきます。
渡辺 薫 (わたなべ かおる)
ゴール・システム・コンサルティング株式会社
チーフ・カスタマーサクセス・オフィサー(CCSO)
プロフィール
ハイテク企業でR&D、経営企画、マーケティング等を経験したのち、90年代のデジタルマーケティングの黎明期にはエバンジェリスト&コンサルタントとして活動。その後、外資系ITサービス企業等でITサービスのマーケティング、コンサルティング等に従事し、2010年日立製作所に入社。超上流工程のコンサルティング手法の開発と指導にあたるとともに、日立グループ内でのTOC活用に尽力。2018年からは日立製作所社会イノベーション事業推進本部エグゼクティブSIBストラテジストとして、日立グループのデジタルトランスフォーメーションの戦略策定・実行のサポートと人財育成に注力し2021年3月に退任。
TOCICO認定Jonah(思考プロセス)
TOCICIOからThe TOC Company of the Year を受賞(2018年)
TOCICO理事(2018年~)
日本TOC推進協議会顧問(2018年から2021まで理事長を務める)
(TOCICO=Theory of Constraints International Certificate Organization)
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