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同じ日本語でやりとりしていても、相手の言っていることは意外と理解できていない(明瞭性のロジックチェック)

こんにちは。ゴール・システム・コンサルティングの但田(たじた)です。前回お話した通り、これから言葉で意思疎通するための「7つのCLR(※)」についてご紹介していきます。これからの連載では、7つのCLRそれぞれと、その3つのレベル、そして最後に、実際に使う上での、私なりの注意点を、順番にお話していきます。

特に、今日ご紹介する「明瞭性のCLR」は、この1つだけでも押さえておくとだいぶ日々がラクになる即効性があるCLRで、私も毎日お世話になっています。TOC好きの方にも、そうでない方にもお勧めです。

CLR(シーエルアール)とは…「Categories of Legitimate Reservations」という英語の略称で「言っていることが妥当で、筋が通っているかどうか」を検証するための7種類のチェックポイントのことです。
詳しくは連載1回目をご覧ください。

CLR①明瞭性についての懸念 (clarity reservation)

賛成か反対か考える前に「理解できているか」を考える

CLRのひとつめは「明瞭性(clarity)についての懸念」です(※ここからは「明瞭性のCLR」と記述します)。
「明瞭性のCLR」は、書いてあることや言われたことについて「意味がよくわからない」時に使います。また、ロジックツリーのチェックで使う時は、全体のつながりが分からない時にも使います。

誰かと会話している時に、相手の話を聞いてすぐに「この人の言っていることおかしい」とか「私はそう思わないんだけどな…」など、頭の中で反論や否定が思い浮かぶことはありませんか?

「明瞭性のCLR」は、言われていることの論理関係(因果関係など)をチェックする前に、そもそも、言われていることや書いてあることに「よく分からない点がないか?」をチェックするものです。

つまり、相手が言っていることの是非を判断する前に、まずは「相手が言おうとしていることを、本当に理解できているかをよく考える」のが、「明瞭性のCLR」です。

「明瞭性のCLR」の観点を持っておくと、相手が何を伝えようとしているかわからない時に、理解できているか確認したり、自分が伝えたいことを相手に理解してもらえない時や、自分の意図をしっかり伝えたい時のセルフチェックするために役立ちます。

「明瞭性のCLR」の質問の例:どういう意味?

明瞭性のCLRの質問の例 (筆者作成)

「明瞭性のCLR」について、相手に質問する時は「どういう意味ですか?」などと聞きます。ただし、相手にいきなり「どういう意味ですか?」と問い詰めるのは失礼にもなりかねません。実際は、その場の会話のニュアンスに合わせた表現調整が必要になることが多いです。

たとえば、デザインについての打合せで、お客さんが「スマートなイメージにして欲しいんだよね」と言ったとします。これに対して、「いま仰った“スマートなイメージ”って、色で言うと何色に近いですか?また、○○さんのスマートなイメージに近い、他のWebサイトがもし合ったら教えてもらえませんか?」など、あの手この手で、相手の意図をしっかり理解しようとうするのが、「明瞭性のCLR」の現実的な使い方になります。

「明瞭性のCLR」でチェックする項目:ビッグワードなどに注意!

「明瞭性のCLR」では、相手が話していることや、記述内容によくわからない点がないかをチェックします。ここでチェックする項目としては、主に以下のものがあります。

✔ 使われている単語の意味
日本人同士で、日本語でコミュニケーションしていても、多くの言葉は多義的です。「イケてる」「紳士的」など、解釈の幅が広い言葉については、相手がどのような意図で使っているかを理解しないと、大きな認識違いにつながります。

例えば、IT系の友人から「デフォルト」という言葉の紛らわしさについて教わったことがあります。「デフォルト」という言葉から、IT系の方は「初期設定」という理解をすることが自然ですが、金融系の方であれば「債務不履行」を思い浮かべます。

このように、使う人の背景によって、単語の意味は異なる可能性がありますので、ちゃんと理解するためには「いま仰っているデフォルトとは、初期設定のことだという理解で良いですか?」などと確認する必要があります。

「プロジェクト力」など、「○○力」といった言葉も、各人それぞれのニュアンスで曖昧に使っていることが多いので要注意です。(私も、つい使ってしまうことがありますが…)

✔ 3文字英語や略称が示すもの

単語の一環ではありますが、ビジネス上でよく見かける「3文字英語」やカッコいい略称についても、各人の理解が異なることが多いです。いま毎日のように見かける「DX」もそのひとつで、驚くほど幅広い場面で「DX」という冠が付けられているのを見掛けます。

こういった3文字英語など、抽象度が高いビッグワードは、プロジェクトや事業の目的に含まれていることも多いですが、そこに参画する人の多くが、その言葉が、具体的にどんな成果物を指しているのかなどが曖昧なままであることもよくあります。プロジェクトのスタート時点などは、手探り状態でも仕方ありませんが、時間が経過して期日が迫ってくるなかで、各人の認識が違ったままだと、大きなトラブルにつながりかねません。

✔ 代名詞

これ・それ・あれ・どれ、のような代名詞も、認識違いを招くことが多いです。「昨日言ったアレ、やっておいてね」などと言われた時には、「明瞭性のCLR」をした方が安全です。

余談ですが、私は家族との会話で、代名詞のCLRから口喧嘩になったことがあります。「明瞭性のCLR」を習得したからと言って、「それじゃ意味がわかんないよ」など、相手の非を指摘するニュアンスで指摘をすると、人間関係に波風が立つことがありますので、使い方には気を付けたいところです。

✔ 主体についての想定違い

これは日本語特有の事象ですが、日本語は「主語」がなくても会話が成り立ってしまうため、「誰の」あるいは「何についての」話をしているかが曖昧になることがよくあります。ここを放置すると、後になってから「え?やってくれてないの?あなたがやってくれるんじゃなかったの?」といったトラブルにつながってしまいます。

✔ 紛らわしい句読点の打ち方

「Aさんはコーヒーを飲みながらネット検索をしているBさんに話しかけた」など、句読点が紛らわしい文章もあります。この場合は、コーヒーを飲んでいるのがAさんなのかBさんなのか、読点(、)がないと判断できません。

「明瞭性のCLR」の、ビジネスでの活用:意図を取り違えないように…

口頭で会話している時は、文章のやり取り以上に、曖昧な表現でのやり取りが頻発しています。下の図は『頭のいい人の思考プロセス』という書籍の72ページで説明されている「明瞭性のCLR」の使用例です。

明瞭性のCLRで、表現を精査した例
(リサ・J・シェインコフ著『頭のいい人の思考プロセス』72ページの記述を参照し、筆者作成)

もしも、打合せ中の相手が「売上が問題だ」と言ったとしたら、それだけでは、私たちは相手が言いたいことを理解できません。「売上」という単語だけでは情報が足りないからです。相手の意図を理解するためには、もう少し詳しく教えてもらう必要があります。

そこで、「明瞭性のCLR」の質問をすると、相手は「問題は売上が多すぎることだ」と答えます。これでもまだ、私たちは相手の意図を理解できません。一般的に「売上が多い」ことは良いことだからです。そこで、さらに詳しく教えてもらうことで、ようやく「私たちは、新たな売上全部に対応するためのキャパシティが不足している」という、相手の状況を理解できるようになります。

一般的に、売上は多い方が好ましいものです。ですから、「売上が問題だ」という最初の話だけで推測するとなると、多くの人は「この人の会社は売上が少ないのだな」と考えることでしょう。

ここで、もしも「売上が問題だ」という、最初の言葉を受け取っただけで「売上が少ない会社なんだな」などと思いながら会話を続けていたら、私たちは、相手の意図を全然理解しないまま話を進めてしまうことになります。

このようなケースは、私たちの日常のビジネスシーンでも、頻繁に起きているのではないでしょうか。そして、このような会話をしてしまうと、相手の困りごとやニーズを把握することもできませんので、結果的に、大事なビジネスチャンスを逃してしまうことにもなりかねません。

「判断する前に、ちゃんと理解できているかをチェックする」という、「明瞭性のCLR」の姿勢は、ビジネスの基本スキルのひとつと言っても良いくらい重要なことだと、私は思っています。

「明瞭性のCLR」の私なりの使い方:「理解を確認させてもらう」

最後に、私の個人的な活用方法をご紹介しておきます。
私の勤め先では、全員がCLRを知っていて、共通言語となっています。

では、CLRを知っているから、全員が常に明瞭な表現をするかというと、決してそんなことはありません、笑。忙しい時などは、ざっくりした指示や伝達になることもありますし、相手が知っていると思って省略した背景を、受け手が知らない時もあります。

とはいえ、社内にCLRという共通言語があるおかげで、当社内では相手に対するCLRがやりやすいです。この「CLRが共通言語になっている間柄」は、とても便利です。

私の直属の上司とのエピソードですが、転職したての頃、私は上司の指示が理解できないことが多いので、とても苦労しました。上司は私から見ると、頭の回転がとても速く、それ故に、私にとっては、理解が追い付かない指示や説明が多く感じられたのです。

そこで、上司と私の間では「理解の確認」というプロセスを入れるようになりました。上司が指示したことについて、私の理解が曖昧なことがある時は、私の方で、理解した内容をチャットに書いて、上司に確認するということをやっているのです。例えば、以下のような感じです。

以下3点、理解を確認させてください。
1.「それ」というのは、昨日XXさんと会話した○○のことで合ってますか?
2.△△のタスクですが、私は、Aという目的のために、BとCという成果物を作ろうと考えています。それで齟齬はないですか?
3.そんなに急ぎではないということで、Dの仕事を終えてから、〇月×日までにやろうと思いますが、問題ないですか?

一見、細かすぎて面倒臭いやり取りに見えるかもしれません、笑。ですが、上司と私の間では、このようなやりとりをすることが定着しているので、上司からも普通に、「1と3はOK、2は、Bじゃなくて~ということです」などと、明瞭なフィードバックを返してもらえます。

結果として、私がストレスを感じなくなっただけでなく、その後の業務を進めること自体がスムーズになり、手戻りも減ったので、上司と私の双方に良い効果が得られています。

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ここまでご覧いただきありがとうございました!「明瞭性のCLR」が好きすぎて、今回も長くなってしまってすみません。次回は「エンエティティの存在についてのCLR」を取り上げます。
引き続きよろしくお願いいたします。

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