見出し画像

問題解決の糸口は「ジレンマ」の理解 ~ストーリーで学ぶ、ビジネスに役立つ問題解決プロセス④~

こんにちは。ゴール・システム・コンサルティング(GSC)の但田(たじた)です。今回の「ストーリーで学ぶ、ビジネスに役立つ問題プロセス」シリーズでは、私たちがコンサルティングの場面で行っている会話のリアルイメージをお伝えし、「問題解決に向けたアプローチ」の実際をご紹介していきます。


イントロダクション

「ジレンマ」が無かったら問題じゃない?!

私たちは、日々の仕事のなかでたくさんの「問題」に直面しては、解決しています。小さな問題が起きても、すぐに解決できるならばさっさと片付けて次に進みます。

たとえば、私が先月の経費申請を忘れていて、経理担当から督促されたとします。そんな時は「あ、忘れてた!」ということで、すぐに処理をすればOKです。こんな風に、すぐに解決できることなら「問題」と思うほどでもないでしょう。

私たちが「問題」に直面し、解決に悩む時、背後にあるのが「ジレンマ」です。

経費申請の例でもう少し考えてみましょう。私が先月、出張続きで経費申請がたくさん溜まっているとします。一方、お客様からは急ぎの問合せが入っていて、そちらにも対応しなければいけません。それなのに、経費申請の事務処理はとても煩雑で時間がかかるとしたらどうでしょう?

社内のことも、お客様のことも、どちらも必要で急がなければなりません。こういう時には、限られた時間を、顧客対応に使うのか?社内業務に使うのか?というジレンマがある、と考えられます。

私たちを悩ませる「気になっているけれどなかなか解決できない問題」の背後には、このようにジレンマが隠れているはずです。そして、このジレンマを把握することが、問題解決の糸口になります。

「問題」と、背後にあるジレンマの構造を理解する

私たちがすぐに問題を解決できないのは「あちらを立てれば、こちらが立たず」というジレンマがあるからです。お客様の要望にはやく応えなくてはならない、でも、社内事務も〆切に間に合わせなくてはならない…どちらもやりたいけれど、時間が足りない…。こんな状況は簡単には解決できず、とりあえず残業でカバーする、といった対応になりがちです。

仕事をしていると忙しいので、多くの場合、こういった問題構造をきちんと把握しないまま、とりあえず目先の対処を続けることになり、同じような問題が繰り返し発生することになってしまいます。

そこで、問題の構造をちゃんと理解するためにとても便利なのが、「クラウド」あるいは「対立解消図」と呼ばれるフレームワークです。

問題とジレンマの構造の例(クラウド/対立解消図と呼ばれるフレームワークの簡易版)

クラウド(対立解消図)では、問題(いま起きている悪いこと)と、その背後にある行動を構造化しています。

この例では、組織の目的を実現するためには、「いま守らないといけないこと」と「本当は実現したいこと」のどちらも大切です。けれども、「いま守らなければいけないことのために、やむを得ず取っている行動」と、「本当は実現したいことのために、できることならとりたい行動」が対立してしまっている、という構造を示しています。

たとえば、先ほどの経費申請のジレンマもクラウド(対立解消図)で表現することができます。このように、クラウドを使って問題と、その背後にあるジレンマを構造化することで、目の前の対立だけに囚われずに、視点を広げて考えることができるようになります。

クラウドの例(筆者作成)

※クラウド(対立解消図)は、TOC思考プロセスのロジックツールのひとつです。クラウドの作り方などを具体的に知りたい場合は、定期的にGSCで無料セミナーを行っていますので、ぜひそちらにご参加ください。
ここでは、対立構造図をおおまかに理解して先に進むことにします。

ストーリーで学ぶ問題解決プロセス④改革実行の阻害要因を〝ジレンマ”から見付ける

さて、いつもながら前置きが長くなりましたが、ここからは前回の続き、ストーリー仕立てでお伝えします。このストーリーは、GSCの渡辺薫が作成しています。ちょっと間が空いてしまいましたが、前回の記事が気になる方は、こちらからご覧いただけます。

ストーリーの登場人物とあらすじ

■登場人物(仮名)
✔ ワタナベ(以下、ワタナ)…BtoB(法人向け)製造業の営業本部長。営業パイプライン管理のデジタルソリューションを導入したい。
✔ タジタ(以下、タジ)…ワタナと同じ会社の経営企画室に所属し、様々な改革活動でファシリテーションを手伝っている。
■あらすじ
ワタナは営業力強化のために、営業パイプライン管理のデジタルソリューションを導入しようと考えています。が、なかなか根回しがうまくいかず、一人で考えていても展望が開けません。そこで、社内の改革活動で活躍していて、趣味のサークルの仲間でもあるタジに相談することにしました。
■ストーリーのポイント
今回のお話は「DX」を題材にしています。DXとは「デジタル技術を活用してビジネスを改革すること」です。ビジネスを改革することが目的で、デジタル技術はそのための手段です。ですが、改革を検討するなかで、いつのまにかデジタル技術を導入することがゴールになってしまう「手段の目的化」が起きてしまうことがあります。問題解決アプローチを使うことで、手段の目的化に陥らずに、関係者の合意が得られる変革の道筋を描くことができます。

ストーリー作成 GSC 渡辺薫

1.前回のおさらい:UROの視点はどんな風に変革の役に立つのか?

ワタナ:この前はありがとう。営業本部のミーティングにURO(※)の考え方を使ったことで、商談のシナリオやプロセス、マイルストーンの設計がスムーズに進んだし、参加した営業メンバー全員が深く納得した。これは期待をはるか上回る成果だったと思う。UROのなかでも「売れるソリューションは、お客様の何らかのジレンマを解消している」っていう視点は本当に役に立ったよ。

※UROについて詳しく知りたい方は、前回の連載をご覧ください。

当社の新製品の技術的なポイントは、ソフトウェアデファインド(多くの機能をソフトウェアで実現していること)と、コネクテッド(インターネットに接続している)、この2つなんだ。でも、技術的な特徴をいくら訴求してもお客様に響かなくて、多くの営業メンバーが悩んでいたんだ。

よく考えれば当たり前のことなんだけど、うまく言語化できなかったのが、お客様のジレンマの視点で考えたら一気にブレークスルーできた。

タジ:お客様は「多機能で高機能な製品」を欲しいと思っているけれども、多機能で高機能な製品ほど、使い方が難しいし、保守やメンテナンスも難しいと感じている。つまり多機能さと、使いやすさのジレンマですね。
 
ワタナ:そう。多機能かつ高機能なのに、使いやすくて、保守メンテナンスも簡単。それを実現したのが当社のソフトウェアデファインド、コネクテッド技術なんだ。ね、この説明で良かったのよ。

成績の良い営業メンバーは、以前からそういう説明をしていたみたいなんだけど、今回、みんながその訴求ポイントに納得して、みんなで「この説明で行こう」と盛り上がったのが嬉しかったな。
 
タジ:そこからは、「抵抗の6階層」を意識したシナリオの検討も一気に進みましたね。どんな問題の存在に合意してもらうか、どんなソリューションの方向性に合意してもらうか…、次々にクリアになっていきましたね。

ワタナ:実際に「抵抗の6階層」を活用するにあたっては、その手前のゼロ階層の抵抗があるんじゃないかって話が出たのも面白かったよ。つまり「お客様は、我々と、問題やソリューションの議論をすることに合意していない」ということについても、最初に突破する大事なポイントだという結論になったのも良い発見だった。

この考え方に沿って、優秀なメンバーを集めたタスクフォースを発足させたので、来月には、プレゼンテーションとトークシナリオの第一版ができる予定だ。これでデジタルソリューションを導入する準備が整ったと思う。この段階で、やっておきべきこととか、気になることって、まだあるかな?

2.「何を変えるか?」「何に変えるか?」「どうやって変えるか?」の順番で考える

 タジ:はい、あります。私たちが使っているTOC(制約理論)では、改革を進める際には、「何を変えるか」「何に変えるか」「どうやって変えるか」の3つを順番に考えて行くことを基本にしています。ここまでで「何を変えるか」「何に変えるか」については、明確になってきましたが、「どうやって変えるか」については、ほとんど話ができていません。

ワタナ:「どうやって変える」って、だから、そのためにデジタルソリューションを導入するって言ってる」じゃない。

 タジ:確かにデジタルソリューション導入は「どうやって変えるか」の最も重要な要素です。でも、ここまでの成果をもとにソリューションを導入したら、営業メンバー全員が、新しい売り方でガンガン新規のお客様を獲得し続けられるって、思います?

ワタナ:そういわれると、まだ心配だな。 

タジ:実は私は、これまでのワークショップで気になってることがあって…。どうも多くの営業メンバーが、新規を敬遠してるんじゃないか、既存顧客への営業を優先しているんじゃないかと、というように見えるんです。

ワタナ:確かに、そういう傾向があるかもしれないね。

3. クラウド(対立解消図)を使って、営業メンバーのジレンマを整理する

タジ:そこで、営業メンバーのジレンマをクラウドにしてみました。

営業メンバーのジレンマ

ちょっと読み上げてみますね。
「私たちには業績を伸ばすという大きな目標がある。業績を伸ばすためには、既存顧客からの受注を持続的に増やす必要がある。既存顧客からの受注を持続的に増やすためには、既存顧客への営業に注力する行動が必要である。
一方では、業績を上げるためには、新規顧客からの新たな受注を獲得する必要がある。新規顧客からの新たな受注を獲得するためには、見込顧客への営業に注力する行動が必要である。」
ここまでは合ってますか?

ワタナ:うん、大丈夫だよ。

タジ:ワークショップでの印象なんですが、既存顧客からの受注を持続的に増やすことと、新規顧客からの新たな受注の獲得の両方が大事なことは分かっているけれども、どうも、既存顧客向けの営業ばっかりやっている、そういう印象を受けました。渡辺さん、そんな感じしませんか?

ワタナ:いわれてみたら、その通りだ。苦手意識をもっているというか、できればやりたくない、とか、そういう雰囲気は感じる。

タジ:それでも、営業のメンバーは全員、既存も新規も両方大事だということは理解されていますよね。

ワタナ:うん、理解はできているはずだよ。

4. ジレンマの背後にある「なぜならば(理由)」を明らかにする

タジ:既存と新規の両方大事だってわかっているのに、新規の方をやりたくないと思っているとか、避けて通っているとしたら、何か理由があるはずです。その理由を明らかにして手を打たないと、せっかくソリューションを導入しても、ソリューションが使われない、結果として改革が進まないってことになりかねないんじゃないですか?

ワタナ:確かにそうだな。実は自分でも、これで本当に大丈夫なのかなと思っていたところが、これでスッキリした。多くの営業メンバーが、なぜ新規の方を避けているのか、そこをクリアにしないと、改革は進まない。
ワークショップでみんなが言っていたことがヒントになりそうだけど…。

タジ:ここまでのワークショップで出てきた、気になる発言をメモしておいたのが役に立ちそうです。これを見て、あとは渡辺さんがご経験と照らし合わせて考えてください。まず、ワークショップのなかでは、「新規の営業って、どうやって良いか分からないんだよね」っていう発言がたびたびありました。

ワークショップでの営業メンバーの発言メモ

ワタナ:「やり方がわからないから、やりたくない」っていう気持ちはよくわかる。実際、ここまでのワークショップで、多くの営業メンバーが新規の営業のやり方を知らない、ってことがはっきりした。でも、ここは解決済とはいえないけれども、先が見えてきたよね。UROを使って、みんなで使える売り方の開発を進めている。他にも気になることがあった?

タジ:あとは「営業って、結局数字だから」みたいな発言も時々あって、それが、どうも新規を敬遠する理由になっているようなニュアンスだったんですけど、これは私にはよくわからなかったんです。

ワタナ:ああ、そうか。それは営業の経験がないと分かりにくいね。営業は数字で、受注した金額だけで評価されるっていう意味。当社の場合だと、月次の受注金額、毎月どれだけ受注したかで評価される。数字で褒められたり、叱られたりする、っていうこと。

新規獲得って時間がかかるし、いいとこまで行ってもダメになることもある。今のところ、こうした新規獲得のための頑張りは、評価されないというか、評価のしようがなかったんだよね。

そうか…。だから数字が読みやすい、比較的短期で数字につながる既存顧客に通う方が有利だし、結果的に、新規を敬遠しがちになる。改革を進めるためには、ここも何か考えるほうが良いかもしれないな。

タジ:なるほど、それだと私も良く理解できます、っていうか、自分だって同じように、評価されやすい行動を優先すると思います。それから「新規だと上司がサポートしてくれない」っていうの声もありました。

ワタナ:うーむ、確かにそんな発言もあったな。その時は単なる愚痴くらいに思って気に留めていなかったけれど、改めて言われると、気になってきた。本当にそれが問題というか、改革を進めるうえでの障害になりそうなのか、営業マネージャーにも聞いてみることにするよ。

タジ:最後に、もう1つだけ。営業メンバーの多くが、営業日報と月次の会議資料作成がすごく大変だ。本当はもっとお客さんのところにいきたいのに時間がない、みたいなことを言っていました。新規だけの話ではないと思いますが、時間がないと、やりやすいほうを優先しがちになるので、気になっています。

ワタナ:その問題は前から意識していて、実はパイプライン管理ソリューションを入れる目的の1つでもあるんだ。外出先からスマホで登録することで日報の代わりにしたり、会議資料をシステムで自動的に作るみたいなことも想定している。

タジ:そうなんですね!でも、そのメリットって、営業メンバーの方はちゃんと理解されていましたか?

ワタナ:そういえば、あまりキチンと話していなかったかもしれないな。TOCを使って考えるっていうのは、こうして先回りして改革の阻害要因とか障害とかも考えるってことなんだな。今までやってきた改革でも、こういう進め方をしたら、もう少しスムーズに結果を出せたかもしれない。
で、ここからどうしたら良い?

5. ジレンマの背後にある「なぜならば(理由)」をヒントに、改革の阻害要因を見付けて乗り越える

タジ:まず改革を進めるにあたって、ここで話題になった阻害要因をおさらいしておきます。この4つでしたね。

ワークショップでの営業メンバーの発言を、阻害要因として整理したメモ

ワタナ:そうそう、こうやって整理してみると、改革を成功させるためには、こういう阻害要因を認知して置いて、あらかじめ手を打っておかないといけない、ということがはっきりしたな。

タジ:もう少しです、がんばりましょう。次のミーティングでは、こうした阻害要因を乗り越える、改革を成功に導くためのシナリオを描く施策を、体系的に整理していきたいと思います。今日は、もう長くなりましたし、この考え方は、次回のミーティングで紹介します。それで、渡辺さんには、また宿題があります。

ワタナ:はい、いつもの宿題ね。

タジ:宿題は2つあります。ひとつめの宿題。
ここで整理した4つの阻害要因について、どんな対策が可能か考えてきてください。対策に関しては条件があります。「組織的な施策」であること、つまり、できるかどうかを個人の努力に依存するようなものにしないこと。そして「実現可能」であることです。

2つめの宿題は、この4つの阻害要因に対してパイプライン管理のデジタルソリューションは、どのように役に立つか、もしくは立たないかを、考えることです。

ワタナ:了解。4つの阻害要因なんだけど、このソリューションをすでに導入した会社で、同じような経験をした可能性がありそうだよね。ってことは、ソリューションベンダーの人に聞いてみたら、事例とか経験談とか、参考になりそうな情報が出てきそうな気もするんだけど、そういう風に情報収集しても良いの?

タジ: もちろんです!どんな課題解決や改革でも、自分の頭だけで考えることには限界があります。使えるものは何でも使う、できる限り情報を集めて、そのうえで、自社にとって何が良いか考える。TOCでも、こういう進め方を推奨しています。是非、情報収集も並行してお願いします。

ワタナ:わかった。また2週間後、同じ曜日の同じ時間で、よろしくね。

今回のまとめ

今回は、改革を進めるにあたって「どうやって変えるか?」を掘り下げるために、組織のジレンマを構造化し、そのジレンマの背後にある理由「なぜならば」を明らかにすることで、改革実行の阻害要因を洗い出すプロセスを見ていきました。

「クラウド(対立解消図)」というと、解決するということに注意が向きやすいですが、まずは問題の構造をきちんと理解する。そして、その問題構造の背後にある「なぜならば」をしっかり掘り下げる、このプロセスがとても大切です。一般論や抽象的な表現に留まらず、現場のリアルな実情を「なぜならば」のところでしっかりと抽出できるかどうかが、その先の対策を考えるためのポイントになります。

なお、今回お伝えしたクラウドを活用した組織改革の考え方は、以前の連載「制約を科学するシリーズ」でも詳しくご説明していますので、ご興味がある方はぜひあわせてご覧ください(以下のマガジンからまとめてご覧いただけます)。

次回、最終回では、改革のシナリオの描き方、施策をどのように体系化、構造化していくかをお伝えします。どうぞ引き続きお楽しみください!

ここまでご覧いただきありがとうございました!GSCでは、最新のセミナー情報など、仕事に役立つ情報を週に1回お届けしています。登録無料・いつでも配信停止可能です。GSCのニュースを見逃したくない方は、ぜひご登録ください!

▼2024/7/30 開催間近!GSC無料ウェビナー

▼記事に関するコメントは、お気軽にコメント欄にご投稿ください。また、当社へのお問合せ等は、以下の問合せフォームよりご連絡ください。

▼ゴール・システム・コンサルティングは、ただいまYouTubeも隔週月曜公開中です!今回のストーリーは、YouTubeでもご覧いただけます。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?