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博士がゆく 第37話「はじめての学会発表-スライド作成編⑤」

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(前回のつづきから)

指導教員がオフィスに戻ったと同時に細胞くんが息を吹き返した。

「はぁ。はぁ。リストレストにするなんてヒドいじゃないかひろし君!」

「すまん。だけどああしないと、オレが変な人形としゃべっていると思われるだろ」

「リストレストにしなくてもバレなかったよね!?」

「間違いないな」

そう言って博士(ひろし)は笑ったが細胞くんはまだ不満そうだ。

指導教員には「1ヶ月前にしては上出来」との評価をもらった。その後にまとめるべき実験データ、けずるべき実験データ、スライドごとのタイトルや文字とデータの配置方法について詳しく説明してもらえた。

「あんなに詳しく指導してくれるとは思わなかったな」

「先生として働いている人は数えきれないほど研究発表をこなしているからね。みんな自分のスライドへのこだわりがあるんだよ。そのこだわりを吸収して自分のプレゼンに生かしていくんだ」

「そうだな。早速先生に言われたとおりに少しずつ直していくか」

「それがいい。じゃあ僕はそろそろ行くよ」

ここだ。このあと細胞くんは大きな声を出して博士の視線を誘導したのちに、いつのまにかいなくなっている。今日は騙されない。

「アッ!!!!」

細胞くんはいつものように博士の背後を指さす。博士は一瞬そちらに視線を移すふりをしてすぐに細胞くんへと視線を戻した。

いない。

やられた。

一瞬でも目をそらすと消えてしまうのか…。そう博士が落ち込んでいると、なにか小さいものが走っている音がする。

音のする方に目を向けると細胞くんが、指導教員が開け放しにした学生室の扉に向かって一生懸命走っていた。

意外とアナログな消え方をしているんだな…。博士はそれを口に出さず、その懸命に走る小さな生き物を静かに見送ることにした。

(つづく)

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