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若者(ユース)のセルフアドボカシー(本人主体の権利擁護)

日本の社会保障制度は、疾病、障がい、高齢、失業、などの社会的課題に対して「公的に助け合うしくみ」になっています。18歳までの子どもについては児童福祉法などによる支援がありますが、若者期の社会保障は薄く、若者のニーズとマッチしていないのが現状です。

生きづらさや困難をかかえる若者にとって社会保障制度がセーフティーネットの機能を果たすためには、ニーズに届くための取り組みが必要です。

若者の意見を反映した若者政策が日本で実施されるためには、どのような取り組みが必要なのか、今回は、カナダの例を見ながら考えていきたいと思います。


1.若者をめぐる国の社会保障制度

(1)社会保障の不足と届きにくい支援


子ども若者の権利と政策4「若者の権利と若者政策」の中で、筆者は「若者期のセーフティーネットはきちんと就職することによって、または家族の状況によって保障される限定されたもの」であると語っています。コロナ禍でアルバイト勤務が減少し、経済的に困窮した若者が多かったこと、また社会保険に加入できない労働状況で、国民健康保険の保険料を支払えないケースなど、困難に陥ったのは若者だったと言います。

養護施設で育ったり、家族との関係が悪化している場合は、家族からの支援も受けることができず、深刻な状況に陥ってしまいます。

日本の社会保障制度は、申請主義をとっており、世帯状況が重視される現状があります。また、児童福祉法で守られる18歳以降の若者への支援は非常に限られています。

さらに、地域でのつながりが希薄になっていることが、課題のある若者がうもれてしまう原因の一つになっています。居場所づくり、地域のネットワーク等の中で支援につながることが必要となってきているのです。若者のニーズに見合う、また支援が届きやすいシステムが求められています。

(2)若者への居住支援

単に住まいに困窮しているだけでなく、就労、家族関係、心身の健康課題などの困難を抱える若者が増えている中で、スタッフの生活相談、サポートが受けられるアパートやシェアハウスも増えています。養護施設など社会的養護を経験した若者向け、また公営住宅の空き家を活用した取り組みも行われています。こうした若者同士の交流、また、地域のつながりを得られるよう、地域のだれもが利用できるコミュニティースペースが用意されていたり、イベントを行ったりしています。

(3)性、ジェンダーと若者支援

家庭にも学校にも居場所のない若者、特に女性がトラブルに巻き込まれるケースが相次いでいます。SNSでつながり、性被害や性搾取に巻き込まれることが増えているのです。性被害はトラウマとなることも多く、その後の人生にも長く、大きな影響を及ぼしていきます。医療・心理面の心のケアとともに、生活の支援が必要になります。

性的マイノリティの若者についても、LGBTQの若者を想定した支援がないなど、当事者のニーズがいかされていない現状があります。また支援の仕組みづくりとともに、支援する側の当事者理解を進めていくことが急がれます。

2.カナダの当事者によるセルフアドボカシーの例

(1)養護施設など社会的養護を経験した若者のプロジェクト

日本に先立つ取り組みの例として、カナダの社会的養護の経験者の若者のセルフアドボカシー(本人主体の権利擁護)の例を見ていきたいと思います。

1980年代前半から、政府機関であるアドボカシー事務所は、主に個別の権利アドボカシーを行っていました。2007年に法律が変わり、アドボカシー事務所が政府から独立し、法律や制度を変える「システマティックアドボカシー」は大きく動き始めます。

その後、若者の生活経験の実態を集め、州政府の公聴会で訴える「自立する当事者のプロジェクト(Our Voice Our Turn)が立ち上がります。ここでまとめられた報告書をもとに、カナダオンタリオ州政府は児童福祉の現場で働く専門家によるワーキンググループを立ち上げ、政策改革のための具体的な提案をするよう求めたのでした。

(2)マイノリティーの子どもたちのプロジェクト

カナダオンタリオ州のユースアドボカシー事務所では、若者たちによる、以下のような様々なプロジェクトも展開されました。

★先住民の子ども、若者のプロジェクト
★アフリカ系カナダ人の子ども、若者によるプロジェクト
★障がいがある子ども、若者、そのきょうだいによるプロジェクト
★LGBTQなど性的マイノリティの子ども、若者によるプロジェクト

このように、マイノリティの子ども、若者が声をあげ、課題の解決に向けて前進することができれば、自分たちは、社会を変えていくことができるのだという大きな自信になり、将来への希望につながっていくに違いありません。

順調だった活動ですが、政権交代があり、2019年にアドボカシー事務所が閉鎖に追い込まれてしまいます。しかし、その後も非営利団体によってアドボカシー活動は継続されました。

(3)年齢指標ベースから準備指標ベースを取り入れた支援へ

人生の時間軸が個人個人で異なるにもかかわらず、18歳で支援を区切るのはおかしいと社会的養護経験者の若者が声をあげ、オンタリオ州政府はこれまでの「年齢ベース」の制度から、自立の準備ができていることを指標で判断する「準備指標ベース」に変えることを決定しました。「準備指標ベース」の制度では、以下の条件が示されています。

・子どもは自分が自立の準備ができているかどうかを自身で判断する
・社会的養護機関は、子どもがケアを受ける早い段階で、子どもとパートナーシップを組み、指標の達成を見据えてケア計画を立てる
・児童福祉制度は、子どもの人生に影響を与える仕事にしっかりと責任を持つようにする
・子どもがケアを受けている間も出た後も、よりよい人生が送れるような福祉制度にする。

「準備指標ベース」の指標となる基準と測り方、制度の策定、試験的施行などの準備が、当事者の若者とともに進められています

3.日本の現状と課題

日本でも厚労省が、18歳で養護施設などの社会的養護を出た後の若者につぃて生活実態のアンケート調査をしました。国内では、社会的養護経験者の若者の団体がすでに活動を行っており、今後はこうした若者の話を直接聞く機会を持ち、こうした若者とパートナーシップを組んでワーキンググループを立ち上げる等の取り組みが必要になります。

2024年4月施行の改正児童福祉法により、児童養護施設や里親家庭で育つ若者の自立支援に関し、原則18歳(最長22歳)までとなっている年齢上限が撤廃されます。

また、施設の入所、変更、対処にあたって必ず子どもや入所者の意向を聴取すること、子どもの意見表明権を支援する仕組みを構築することを定めました。

今後は、具体的な取り組みに当事者の若者の声がきちんと反映され、広く子ども、若者に情報が届くことが望まれます。

※参考文献は以下になります。


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