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しば漬け由来の乳酸菌から見える「しあわせ未来図」が展示会で大反響【ぐるなび 食の価値創成共同研究#03】

ぐるなびは2016年より東京工業大学と共同で、「ぐるなび 食の価値創成共同研究」を立ち上げ、日本食の新たな価値を見出すための調査・研究を行っています。
先日、発酵食品、醸造食品にスポットをあてた日本でただひとつの専門展「第3回国際発酵・醸造食品産業展」が東京ビックサイトで開催され、当社イノベーション事業部 澤田和典が「発酵アカデミックフォーラム」セミナー講演に登壇。東京工業大学との共同研究で発見した乳酸菌「KY5-ES5株」がもたらす明るい未来図を描き、来場者たちの耳目を集めました。今回は、その現場リポートをご紹介します。

東京都心で最高35・6度を計測した猛暑の7月31日。国内最大規模の国際展示場である東京ビックサイトで開かれた「国際発酵・醸造食品産業展」3日間の中日で、平日の金曜日でしたが、国内外から計550社がブースを出展、計約36,000人が来場とあって会場は夏の陽ざしに負けずとも劣らない熱気に包まれていました。

午後3時からのセミナー開始がアナウンスされると、食品メーカーや飲食店関係者らが続々と集まり、席を埋めていきました。そんななか登壇したのは、ぐるなびイノベーション事業部 新規事業推進室の澤田和典。「ぐるなび 食の価値創成共同研究」で、東京工業大学の精鋭たちと共に研究の第一線に立つ研究員です。

「写真を撮られるのも、人前で話すのも、慣れていないので」と少し緊張した面持ちでしたが、マイクを握ると、こう挨拶しました。

「まず『ぐるなび』と聞いて、意外に思った方もいらっしゃると思いますが、ぐるなびは『日本の食文化を守り育てる』という創業からつなぐ想いのもと、様々な事業を展開しています。『食の価値創成共同研究』もこの想いに沿って展開している事業のひとつ。2016年からの8年で、学術論文6本、登録特許5件ございまして、食品メーカーとの共同商品開発なども行ってきました。今日は皆さまが抱えていらっしゃる課題に解決策をご提供できるかもしれない、というお話です。」

セミナーのテーマは「Lactiplantibacillus plantarum KY5-ES5株による粘性発酵物の可能性と展望」。発酵物にとろみ(粘性)を与える乳酸菌「Lactiplantibacillus plantarum」のうち、京都の伝統的な発酵漬物しば漬けから見つけた「KY5-ES5株」を研究することによって、新商品開発への応用や食文化への寄与が見えてきたというのです。

「具体的にどんな課題なのか。たとえば増粘剤をつかうことなく、発酵食品の粘土を高めたいというとき。また、なるべく原材料や添加物を減らし、消費者にとって分かりやすく安全なヘルシー食品を求めるクリーンラベル志向に対応していこうというとき。さらに食べ応えのある商品を開発したい、嚥下が困難な高齢者に対応できる食品を開発したいというときなどに、新たな選択肢を提供できるのではないかと思うのです」と、澤田研究員。

通常、こうした乳酸菌はタンパク質を含む原料に付着することで粘性をつくり出し、タンパク質がないところでは粘性を出さないところ、この「KY5-ES5株」はタンパク質がなくても、とろみや糸引き性を付与できるのが特徴。タンパク質が多いと粘度は強まり、原料にタンパク質を加えて発酵させると、つきたてのモチほどの強い粘性が認められたのだとか。

ではこの乳酸菌によって、どんな新商品の開発が見込めるのでしょうか。澤田研究員の説明が続きます。

「ごく普通の無調整豆乳がとろ~り滑らかな豆乳ヨーグルト風になり、牛乳もヨーグルト風になります。食べてみると市販のヨーグルトとは少し違うのですが、動物性の原料も発酵させることができるのです。昨今ブームのプラントベースフードの一角、ココナツミルクも発酵させると錬成がでます。乳酸菌の酸っぱさと、ココナツの甘味と風味が相まって、スイーツにも活用できるのではないかとの声もでています」

スタッフらで試食した感想からも、

「こってり感、クリーミーさがおいしいヨーグルト」
「酸味が抑えられて、食べやすい」
「かき混ぜると錬成がでてくるところが、たのしい。ソースやバター、ドレッシングとしてもつかえそう」
「甘くしたらスイーツになるかも」
「韓国からブームがきた、ギリシャヨーグルトみたい」

といった反応があったといいます。

セミナー最後には、こうした試作を自社でもつかってみたいという要望をぐるなびで受け付け、バックアップし共に取り組んでいく方針を聴衆に伝えていました。

広い展示会場では、「ぐるなび 食の価値創成共同研究」としてもブース出展し、東京工業大学生命理工学院の山田研究室メンバーが「発酵物に粘性を与える漬物由来の乳酸菌!」と掲げて、引きも切らぬ来場者への対応を続けていました。

そこへ講演を終えた澤田研究員が姿を見せると、待っていましたとばかりに質問が寄せられていました。

山田研究室は生命理工学系で、大腸などに常在する菌の群集構造解にあたる山田拓司准教授が陣頭指揮を執っています。メンバーのひとりで、山田准教授の秘書でもある渡辺夕紀子さんはこう言って、笑顔を見せてくれました。

「なにか世界に貢献するようなことをしていこう。山田先生はいつもそう語っていまして、今回はそれを実践できる機会だと思っています。なにか新商品が生まれ、広く皆さんに喜んでもらえるようになったらいいですね」

試食のために用意した1日50食の「KY5-ES5株」豆乳ヨーグルトは瞬く間に終了。試食された皆さまからのアンケートによると、評価は5点満点で、3.9点。感想では「なめらか」「クリーミー」と食感や、「健康的」と素材を評価する声が上位3つを占めました。豆乳ヨーグルトの喫食習慣は「ほとんどない」が半数を超えましたが、今回の研究が実を結び新商品として世の中に出たら、手を取ってくださる可能性はあるとみていいのではないでしょうか。

澤田研究員には、セミナーなどの手ごたえを聞いてみました。

「プレゼンの内容だけでなく、興味を持っていただける方がたくさんいて、珍しいねといった感想を直接もらうことができました。試食品もおいしいと言ってくださり、新商品などの可能性あるよと背中を押してもらえ、本当に次につながるかも知れないと思うことができました。こうした出展は初めてで、手探りでしたが、大手のメーカーさんや上層部の方なども見えられて、やってよかったと思いました」

澤田研究員は北海道大学大学院卒の農学博士。グルタミン発酵などを研究し、在学中にアメリカの名門マサチューセッツ工科大学の化学工学部に留学。専門の代謝・発酵工学を活かし、化学メーカーでのバイオエタノール研究などを経て、2016年からぐるなびで日本食の新たな価値を見出すための調査・研究に従事しています。

「最初は総合政策室への配属で、純粋に化学に向き合ってきましたが、イノベーション事業部の所属になってからは、それらを事業に直結させることを目指し研究に努めています。とりわけ今回の『KY5-ES5株』は飲食関係をはじめ、いろんな方に幅広く使ってもらいたいなと思うんですね。植物由来の原料を使ったプラントベースフードは、食糧生産の観点からも、食のバリエーションを増やすという意味でも注目されています。豆乳だけじゃなく、発酵食品として、違うあらたな食品をつくることができる。これからの食をもっと皆さんにたのしんでもらうことを目標にしています。『日本の食文化を守り育てる』というところは本当に大事にしたいなと思っていまして、サイエンスの切り口から、実業化へ向けて研究結果を盛り上げていけたらというのが私たちの願い。今回は京都のしば漬けという日本の伝統食品由来の乳酸菌ですから、そうしたイメージを世界に発信して、世界中の人たちに広まっていけたら最高ですね」

そして最近の飲食店で、漬物など発酵食品をつくる店も増えていることを挙げ、

「自家製の発酵食品をつくるような流れもできていったら、そんな出口もあったらいいなあって思うんです」

などと構想を語り、目を細めました。このようにして、ぐるなびで研究にあたって8年。

「発酵の技術のアドバンテージを活かせるのは食なんですね。食の分野は、口にいれるものなので、微生物のもともと持っている力がダイレクトに伝わる商品開発、モノづくりができる、それがいいなあと思っています」と語ってくれました。

ぐるなび公式noteでも、【食の価値創成共同研究】のタイトルで澤田研究員はこれまで2回にわたって、熱い言葉で研究への思いを綴っています。

是非ともお目通しをお願いします!そして今後も「ぐるなび 食の価値創成共同研究」の未来にご期待ください。


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