見出し画像

日本の食文化を守り育てるために、科学ができること【ぐるなび 食の価値創成共同研究#01】

ぐるなびは2016年より東京工業大学と共同で、「ぐるなび 食の価値創成共同研究」を立ち上げ、日本食の新たな価値を見出すための調査・研究を行っており、これまでに論文5報、特許4件を取得し、食品メーカーとの共同商品開発なども行ってきました。
今回は、本共同研究の第一線で取り組む当社イノベーション事業部 澤田和典より、立ち上げの経緯や展望についてお伝えします。

発酵は和食文化の礎

みなさんの大好きな和食のお料理は何でしょうか?
思い浮かべられたものは千差万別だと思いますが、きっと何かしらの発酵食品が使われたお料理がたくさん含まれているのではないでしょうか。例えば、和食の味の基本となる醤油や味噌に、豊かな風味とうま味をもたらす鰹節。さらには酢やみりん、日本酒のほか納豆や漬物などなど。今挙げたものは全て“発酵”という微生物の力を利用して作られたものです。

こうしてみると、“発酵”は私たちの日々の食生活と強い結びつきを持ち、和食文化の形成に大きな役割を果たしている重要な技術であることに気が付きます。

南北に長く、多様な気候を持つ日本列島では、その土地々々の風土に根差した食文化が育まれています。和食文化は日本各地に存在する多彩な食文化の集合体であり、それを支える発酵技術もまた地域ごとに異なる気候風土を上手に利用した様々な知識と知恵の結晶と言えます。近年日本の食が世界から注目を集める所以は、こうした自然に寄り添いながら、幾多の工夫を積み重ね発展を遂げたてきた点にあるのではないでしょうか。

ぐるなびは「日本の食文化を守り育てる」という“創業からつなぐ想い”を礎に多岐にわたる活動に取り組んでいます。この東京工業大学との共同研究も“発酵技術”の研究を通じて、まだ明らかになっていない和食に秘められた新たな価値を見出し高めることで、日本の食文化のさらなる発展の一助になることを目指しています。

研究テーマが決まるまで

和食文化を支える麹菌・乳酸菌・酵母菌

本共同研究では、発酵をもたらす微生物の中でも麹菌と乳酸菌に焦点を当てて研究を進めています。また研究活動だけでなく、日本全国の特徴的な食文化の調査も行ってきました。

ここではまず、「なぜ『麹菌・乳酸菌・食文化調査』が活動テーマとなったか?」についてご紹介します。

本共同研究が始まったのは2016年6月。(ちなみにこの時点では私はまだぐるなびに入社しておらず、化学メーカーで発酵による化学品生産の研究をしていました。)開始当初に決まっていたのは、「和食の未来のために、微生物を科学しよう!」ということだけだったそうです。自由度が高すぎると逆に決められないというのは世の常ですが、実際に本共同研究も半年くらいかけてテーマを決めるという方針でスタートしたと聞いています。

私が参加した2016年9月には、おおむね「麹菌」と「乳酸菌」にテーマが絞られていました。理由は単純で、和食の根幹をなす“うま味”を生み出す微生物の代表格が麹菌、酵母菌、乳酸菌であったからです。もちろんこの3種類の微生物以外にも納豆菌や酢酸菌など多くの微生物が活躍していますが、味噌・醤油醸造に使われる麹菌は日本の国菌に認定されるほどであり、酵母菌はアルコール発酵に不可欠。そして、乳酸菌は日本酒醸造では「火落ち菌」と呼ばれ腐造の原因となる一方、ワイン醸造ではまろやかな酸味をもたらすマロラクテック発酵で働きをみせるほか伝統的な発酵漬物の製造にはなくてはならない微生物である等、この3種はいわば菌界の御三家なのです。そして議論の末、アルコール醸造に偏っている酵母菌を外し、麹菌と乳酸菌が研究対象となりました。

麹菌を培養したところ。緑色に見えるのが麹の「種」(分生子)です


“発酵”の研究を進めると同時に、日本の食文化そのものを自分たち自身で調べることにしました。日本各地にはそれぞれの気候風土に合わせた人々の営みがあり、受け継がれてきた文化や技術があるわけですが、同じ都道府県にも関わらず 異なる特徴の文化が共存するケースが多々ある点に非常に興味を持ちました。(例えば私の出身の静岡県は富士川と天竜川が文化的境界になっているような気がしています。 ※個人の感想です。)
そこで、食文化を調査するにあたり、文化の継承単位が江戸時代の「藩」と一致しているのではないかという仮説のもと調査計画を立てることにしました。つまり47都道府県を調査するのではなく、その6倍以上の300藩を調査するというかなり意欲的かつ挑戦的なプロジェクトを始めたのでした。もちろん、全て調べるのはさすがに無理だろうとメンバー全員がわりと早い段階で察していたようですが...

このような検討を踏まえて、東京工業大学と私たちの共同研究活動は始まりました。
それぞれの研究や調査でわかったことや活動のエピソードについては、今後順次ご紹介していく予定です。

文化を守り育てるということは、技術を守り育てるということ

国内の人口が減少していく中、地域文化を継承していくことは容易ではありません。食に至っては、文化の担い手不足に加え、現代人の嗜好の変化も継承を難しくする要因であると言われています。端的に言えば、「売れなければ消えてしまう。」ということです。経済的な理由に文化継承が左右されるというのは歯がゆいですが、ただ現代において食文化は外食産業をはじめとする様々な産業と切っても切り離させない関係にあることから、商業的な成果があがらない食材や料理については、その存続が危ぶまれるのが現実です。そのうえ残念なことに、文化継承が途絶えることは、それを支え共に進歩してきた技術もまた同時に失われることを意味します。

私たち“ぐるなび”は和食文化を支える技術を知り、理解し、さらに新たな価値を見つけ、発信することで日本の食文化を守り育てる一翼を担いたいと考えています。
ぜひ、東京工業大学とぐるなびの今後の活動にご注目・ご期待ください!

【書いた人】
イノベーション事業部 澤田和典 / 博士(農学)
大学卒業後ウェブエンジニアになったものの、生命科学への興味が抑えきれずもう一度大学生をやり直す。在学中にマサチューセッツ工科大学(MIT)化学工学部 (Chemical Engineering) に留学。前職の化学メーカーでは発酵による化学品(バイオエタノール・コハク酸)生産の研究に従事。2016年9月ぐるなび入社。専門は代謝工学・発酵工学。

漬物から取り出した乳酸菌を育てて、能力を評価している様子


この記事が参加している募集

自己紹介

企業のnote

with note pro

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!