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ついに人工呼吸器まで…ガンか骨髄の異常か?ありとあらゆる可能性を探る検査【総合病院E-ICU9日目】

「最悪のケース」を妄想の中で体験した金曜日。つくづく思い込みが過ぎる自分が嫌になるが、メンタル急降下を引きずって週末はどん底の気分だった。目の前に見えている「父の状態」に一喜一憂し疲れ切っているのがわかった。身体が怠く足に力が入らない。

「あぁ…メンタルやられてるなぁ」と思ったけど、冷静に考えて疲れから体調を崩しかけていることに気づいた。体調を崩せば父に面会できない。週末は風邪薬と1000円もする栄養ドリンクを飲み、12時間以上一度も目を覚ますことなく泥のように眠った。おかげで「面会できないかもしれない危機」を無事に乗り切れた。

気持ちを落ち着けるために、私と妹は一人暮らしの父の家を隅から隅まで掃除することに決めていた。排水溝は合計3回、4本のパイプユニッシュを使い切った。お風呂のカビ汚れ、天井や壁のホコリ、ガスコンロや換気扇の油汚れ、そして「トイレのDIY」まで手をつけはじめる始末。

長年積もった落とせない汚れがついたトイレの壁。どうするか散々迷った挙句「塗ってしまえ」ということにした。水性塗料の色選び、珪藻土が入った塗料もあるけど…など集中している時は余計なことを考えずに済んだ。しっかり養生して床材と同系のブルーグレーの塗料を塗っている間、ただ「父が退院してこの家に帰ってくること」だけをイメージしていた。

少しずつキレイになっていく部屋をスマホカメラで撮影し、都度父に見せた。「絶対に、家に帰る」父にそう強く思って欲しかった。気力が萎えてしまうことが何よりも気がかりだからと言い訳をつけて、本当は自分が一番そう信じたかったのだと思う。

幸い父の状態は週末に少し持ち直し、苦しがっていた酸素マスクが外れ、鼻からの酸素に変わっていた。マスクがないだけでずいぶんと楽になったらしく、金曜日の状態が嘘のようにいろいろ喋ってくれていた。

週明けにはいろいろな検査をすると説明があった。PET-CT、脊髄からの骨髄穿刺(あれだけ苦しい思いをした胸からの穿刺で思うように取れなかったため再度)、それとリンパ節生検。父の場合、鼠径部を切開してリンパ節を取り出すのに形成外科の先生による局所麻酔の手術をすることになった。

また、PETの準備のため、金曜日には注射で薬を入れていた。この薬が全身に行き渡るとCTで撮影した時に「悪い箇所」に色がつくらしい。その箇所が今回の基礎疾患かもしれないという可能性を検査する。

金曜日の悪夢を経験していたから、週明けの検査後、父の状態がどんなに悪そうに見えても大丈夫だと思った。なんといっても「事前に知っている」というだけで心構えが全然違う。実は金曜日の看護師さんのことちょっと根に持っていたんだよね「直前に大掛かりな検査をしたことをなぜ面会前に教えてくれなかった?」と。

とはいえ、本人は大丈夫だろうか?父は意外と痛みに弱いタイプなのだ。現に、お腹が痛くなるのが嫌で「水を飲むの怖い」と言うし。30代の頃に神経を抜く歯の治療をして以来30年、1日3回きっちりと歯磨きを欠かさない。どこに行くにも歯ブラシを持ち歩き外食先でも歯を磨く、まるでOLなのだ。歯医者が相当痛かったんだなと思う。

入院が初めてならば、手術室も初めてだ。まして局所麻酔なら意識もあるだろう。骨髄を取るとか切開をするとか想像を絶する世界だ。弱った父の身体や精神もクタクタになるに違いない。

『週末で体力を温存しなくちゃね』私と妹はそう行って父を励ましていたつもりだけど、父にとってはもしかしたら脅しのように感じていたかもしれない。

そして週が明けて入院9日目。この日は午前中から病院で待機してくださいと言われていた。局所麻酔とはいえ手術室に入るから、ということだった。11時に一度父の顔を見て、形成外科の先生から手術の説明を受け、その後父は手術室へ。全ての検査が終了したのは16時半。

検査が終わって父の顔を見に行くと、今までに見たことのない大きな酸素マスクが付けられていた。ひとみ先生によるとそれは人工呼吸器だということだった。透析や点滴、輸血の管などを合わせると「THE重症患者」の様相。予想通りヘトヘトになっていたが金曜日ほどのショックはなかった。やっぱり事前の心構えって大事よね。「本当にお疲れさまでした!」と父に明るく声をかけられた自分を褒めたい。

その後すぐに主治医であるグレイ先生から検査の説明を受けた。リンパ節や骨髄は検査結果が出るまでに時間がかかるがCTはすぐにわかる、と。ところが予想を裏切り、有効な所見は見つからないという結果が出たとのことだった。

ヘトヘトの父にゆっくり休むよう声をかけて、早々に病院を後にした。

その夜「もしかして血液のガンなのかな?」なんとなく妹とそんな話をしていた。まったく根拠はなかったが、のちにこの予感が当たらずも遠からずだったことを知ることになる。


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