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デザインのつくり手に報いる事業モデル:Galapagos Supporters Book②(前編)

シリーズAで累計13億円の資金を調達したAIR Designのガラパゴス。
そこには株主や顧問、社外取締役という形でガラパゴスを支える、たくさんの支援者の存在があります。
ガラパゴス・サポーターズブックでは、そのような外部の支援者と、ガラパゴス代表・中平の対談を通して、ガラパゴスとAIR Designの魅力をお伝えしていきます。

第二弾は今回のシリーズAからガラパゴスに株主としてご参画いただいた、THE FUNDを運営するシニフィアンの小林さんです。

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■小林賢治 プロフィール
シニフィアン | 共同代表
兵庫県加古川市出身。東京大学大学院 人文社会系研究科 美学藝術学にて「西洋音楽における演奏」を研究。在学中にオーケストラを創設し、自らもフルート奏者として活動。卒業後、株式会社コーポレイトディレクションに入社し経営コンサルティングに従事。その後、株式会社ディー・エヌ・エーに入社し、取締役・執行役員としてソーシャルゲーム事業、海外展開、人事、経営企画・IRなど、事業部門からコーポレートまで幅広い領域を統括。2017年7月にシニフィアン株式会社を設立。

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サイエンスに長けた人間が、デザイン業界にメスを入れる

ーー小林さんと中平さんは、以前から知り合いだったと聞いています。

小林:ICC KYOTO のランチでご一緒したのがきっかけですね。8人くらいでしたが、中平さん以外は全員知り合いで。普通そういう場面ってちょっと気遅れすると思うんですが、中平さんグイグイ来るなと。面白そうな人だなっていう第一印象をよく覚えています。

中平:あれでも気遅れしてたんですよ(笑)。ラクスルの永見さん、レノバの森さん、Dofの斎藤さん、琴坂先生とか。みんな仲良しで有名人で。でもここで爪痕残さないと社会変えられないだろうと思って斬り込みました。その翌朝、朝食のビュッフェでお見かけして。

小林:やたら宿泊者少なくて、すぐ分かりましたよね。

中平:10秒くらい悩んだあと、食後のコーヒーくらいのタイミングを見計らってお声がけしました。色々と質問をぶつけて、タクシーにも一緒に乗ったので、たぶん1時間くらいお話ししましたよね。

小林:めちゃ盛り上がりましたね。一見地味な産業だけど、従事している人たちがたくさんいて、それが半ば放置されているデザイン業界。そこにメスを入れるというのがまず面白い。

インクス(現SOLIZE、製造業コンサル)出身というのもピンときました。僕はDeNA時代にインクスの人を二桁人くらい採用しているんですよ。2009年の民事再生のタイミングで優秀な人材がたくさん出てきて、彼らを採用できたのはDeNAの成長にとって、めちゃくちゃ大きかった。プロセスを因数分解してサイエンスして、生産性を上げていくところにすごく長けていて。そういう人が業界にメスを入れるということにワクワクしたわけです。ケイパビリティとやろうとしていることが合致しているんじゃないかと。

中平:振り返ってみると、けっこう再現性のない出会いですね。

小林:そうですね。でも案外、そういうことなのかもしれないです。

これがきっかけで今回のラウンドが始まった時に、またご連絡をいただいて、かなりディスカッションしましたよね。僕はこの時、この事業はいけると思ったんです。一見すごく労働集約的なのに、テクノロジーで生産性を上げて、そもそものプロセス設計をサイエンスすることで全然違うビジネスにできるっていうアイディアが、すでに数字に現れつつありました。

中平:あの日のディスカッションでは、マーケットの取り方のところで新しい視点をいただきました。僕らのお客様はSMB(中堅・中小企業)だという話をしたときに、エンタープライズ(大企業)も可能性あるよねと。SaaSなどの世界ではWinner Takes All(勝者総取り)と言われるけど、エンプラの広告の世界では常に複数の業者が比較検討されるので、負けてもリベンジの機会が来る。勝率を高めて繰り返し選択肢に入り続ければ、マーケットシェアを薄く広く取れる。目から鱗で、興奮しましたね。

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「つくる人に報いる」ビジネスモデルの大切さ

ーー小林さんがガラパゴスを評価したポイントを教えていただけますか?

小林:業界の「つくり手の闇」を変えるポテンシャルですね。私がDeNAにいた頃にひとつ確実に成し遂げたことがありまして、ソーシャルゲーム業界に入るクリエイターやエンジニア、デザイナーの給料をめちゃくちゃ上げたんです。2-3年で100-200万円くらいかな。

それまでは良いものを作っても、つくり手のリターンには関係ありませんでした。映画がどれだけヒットしても、製作委員会だけが儲かって、制作会社は定められた予算で作る構造と同じです。レベニューシェアではなかったんですね。

ゲームはレベニューシェアだったので、立った売上の6割くらいを作り手に返していました。当たるとドカンと入ってくるので、次の制作のためにより多くのクリエイターが必要になり、採用競争が始まります。DeNAやGREEやデベロッパーがどんどん給与水準を上げていった結果、採用できるクリエイターの質も全然変わりました。

昔のアニメ制作会社から大量のクリエイターが流れてきたんですが、話を聞いてみると休みはないし給料は低いしで、そんなにキツイ環境なんだと驚きました。当時のこの実情は統計の数字にも出ているんですが、ここを変えていかなきゃならないという思いがありましたね。事業者が、つくる人に報いるってことをサボっちゃいけないんじゃないかと。

だからガラパゴスが、デザイナーの稼働率を上げるだけではなくて、きちんと報いるんです、と明確に打ち出していたことが刺さりました。ガムシャラに働けということではなく、稼働率を高める一方で、きちんとそれを働く人に返すことって、企業の考え方の根幹としてとても大事だと感じて。これは業界にとってすごく良い存在になって、業界を本当に変えるんじゃないかと期待しています。

中平:周りの会社から見ると「ズルイ会社」になろうと思っています。従業員の給料が高くてみんな嬉しい、お客様がとても喜んでくださっている、かつ利益率が高い。なんかもうズルイ、みたいな。プロセスとテクノロジーでこれを成し遂げると決めています。今のデザイン産業の給与構造は、40代で平均388万円。これを1.5倍くらいまで引き上げます。まずは僕らがそれを実現して見せて、周りがついてくるって構造を作れば、つくる人がちゃんと報われる社会になると思っています。

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小林:なるほど。これは日本の経営に大きく欠けていたことだと思っています。ある研究によれば、日本はこの数十年間、企業の収益性を見た目上ではなんとか一定に保つ一方で、労働分配率を大きく下げてきたんです。つまり、給料を抑え続けた。だから先進国の中で相対的に比較すると、他国の所得が倍増しているのに、日本はずっと横ばい。長期の低成長に悩んだ原因はここにあるという考え方で、労働分配率を上げながら利益を出すという根幹の思想を放棄してきたんですよ。

中平:労働分配率は一定でも良いと思うんですけど、その分配率において原価工数率を下げることで、時給を上げるという考え方ですね、僕らは。単位時間あたりの価値を徹底的に高めれば、事業者とお客様とつくり手の「三方よし」が成立すると思っています。

小林:まさにGAFAはそれを積極的に実現したことによって、非常に高い生産性と収益性、イノベーションを手に入れたわけですが、労働集約的な業界ほどこれをやれていないことが多いじゃないですか。一つひとつの規模が小さいことが多くて、プロセスとテクノロジーなんて言う暇あったらとりあえずLP作れ、みたいな。だからこそ、ガラパゴスのようなプレイヤーのユニークさが際立つんですよね。

中平:デザイン会社って全国で8,200箇所あって、従業員は平均4.5人。すごく分散化されたマーケットなんです。僕自身、10年間デザイン制作会社をやってきて、悶々としてきました。規模を大きくできない、給料を上げることができない。これは生産効率もあるんですけど、もうひとつ重要な課題があったんです。

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請負からサブスクへ、業界モデルの大転換

中平:その課題は、「請け負い」の商習慣=ビジネスモデルです。デザインの仕事は基本的に請負契約なんです。仕様の決まった製品ではない、いわば無形のデザインを請負でやると、たいてい納期が延びるんです。納期が延びると実質的な時給が下がります。これを変えるために、サブスクリプションへのビジネスモデルの転換が必要でした。サブスクリプションで時間単価を一定にして、労働分配率をある程度引き上げた上で、生産効率を高めていければ、給料は上げられるし利益率も高められる。そして未来予測もできるようになるので、つくり手をどんどん採用できるモデルになるんです。

小林:なるほど。お話を伺っていて、本当に面白いなと思うのが、じゃあこの話を聞いた誰かが真似をしようと思ったとしても、やりきれないだろうことですね。これはガラパゴス の説明資料を見ながら感じていたことなんですが、KPIをはじめ普段トラックしている情報の量と質が、ほとんど偏執狂ですよね(笑)。この規模と粒度で見てるのか、この解像度とかここまでやらないだろ、みたいな。インクス出身者のこだわりの深さと言いますか。ここまでやらないと、このレベルでの生産性は改善しない。ちょっと頭の良い人が集まって1年くらい頑張りました、程度では全然追いつけないなと感じたので、僕はこれが一番プリミティブな意味でのガラパゴス のMOAT(競合優位性)だと思います。

中平:まさにそうなんですが、まだまだ解像度が不十分だと思っています。昨日の社内会議でも4つくらい指摘しましたから。もうちょっと詰めて行こうぜって。

小林:心強いですね。クリエイティブ制作の領域において、生産性・効率性は常に、ガラパゴスが世界一細かく見ています、という。それを自負できる集団であるし、絶対に最先端だと言える状態であろうとしている。経営メンバーが心の底からそう思っていると、個別のインタビューを通して強く感じました。

中平:ガラパゴス の参入障壁ってそこにあると思っています。僕と島田と細羽(ガラパゴス の共同創業3名)が出会って、このテーマに行き着いたこと。製造業のことを分かっていて、デザインの会社を10年やっていて、AIテクノロジーを研究していること。さらに時間が経てば経つほどデータが溜まり、生産効率をどんどん高めていくので、他が追いつけない。そこは自信を持っています。

小林:素晴らしいですね。まさにその通りだと思います。

後編に続く

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▲小林さんの趣味は登山。欧州アルプス最高峰のモンブランをバックに。


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(文責:ガラパゴス髙橋・豊田)