パン職人の修造144 江川と修造シリーズflowers in my heart
パン職人の修造 江川と修造シリーズflowers in my heart
修造が目が覚めた後
江川は岡田に頼んでアボカドとエビのタルティーヌとコーヒーを持って来て貰い修造に渡した。
食事中の修造に向かって「明日から少し休んで下さい」と言った。
「え?なんで?」修造はタルテイーヌを平らげながら江川を大きな目で見た。
「たまには帰らないと」
「今忙しいからなあ」
「いつも忙しいじゃないですか。それに1周年記念の頃にはもっと忙しくなるかもしれないんだし、今しかないですよ」
「そうかなあ」
「それと、1周年記念のパンですが、Chrysanthemen-Campagne(菊のカンパーニュ)とdreifach geflochtenes Brot(三連編み込みパン)にしようと思っています」
「わかった、じゃあ俺の休暇が終わる頃だからみんなで頑張ろう。俺の居ない間に菊のステンシルを頼んだよ」
「はい」
ーーーー
そんなこんなで心配しながらも修造は1週間休む事にした。
帰りの車の中で色々考えた。
それはこんな風だった。
今出来るだけ頑張って貯えておかないと俺が抜けた後困るだろう。最近は江川がパン職人決定戦の番組で2位になってから江川に会いに来るお客さんも珍しくない。
いつも店の中はパンでいっぱいにしておきたいけどあんな風に休んで良いって言われるなんて江川もしっかりして来たな。
店の近くの高速入り口から本線に合流して車を走らせる。
家では律子孝行に勤しんで、土日は久しぶりにみんなで長野にある律子の実家に帰るかな。お義父さんやお義母さんにも長い事会ってないし。そして途中遊園地に行くのはどうだろう。よし!俺はこの期間は家族に張り付いて離れないぞ!
決意を新たに高速を降りて最寄りのスーパーに立ち寄った。
律子の好物を色々作る予定だ。
おやきにあんかけ焼きそばにソースカツ丼に山賊焼、信州そばに牛乳パン。
「待てよ、これ全部作ったら多分叱られるな。とりあえずあんかけ焼きそばは決定だ!カツ丼の豚肉は冷凍にできるしキャベツは他にも使えるしまあ買っとくか!」結局あれもこれもと買いすぎたが、料理していくうちに減るだろうと思い車のバッグドアを開け荷物を詰め込んだ。
しかし帰る途中で、よく考えてみると「そうだ、男の料理に対して妻がよく後片付けがなってないとか、作りすぎとか高額過ぎるとか苦情が出るのは耳にするな。俺も気をつけよう。そもそも工房でだって片付けながら調理するとか基本だもんな。帰ったらまず冷蔵庫を掃除するか、いや待てよ、場所が変わったとかそれもまた叱られるから注意しよう。兎に角細心の注意を払って行動しないとな。家に入る瞬間から気をつけよう」江川に知られると「やっぱり怖いんですね」と揶揄われそうだがこっちは真剣なんだ!
と言うわけで車を駐車場に停めて荷物を持って口の端を上げる。
「ただいまーっ」
パンロンドに就職した時から住んでいるアパートは玄関を入ってすぐ右が風呂などの水場、その向かいのドアが台所、その奥がグリーンのソファとテーブルが置いてあるリビング、その右の部屋が寝室だ。家族が4人になって狭くなりすぎたがどうせ引っ越すんだからまあいいかと言うわけでそのまま暮らしている。
「あれ」電気が消えていて静かだ。
みんないないんだな。
律子に連絡してみる『帰ったよ。みんなどこ?』
返信を待ってる間に冷蔵庫の奥に新しいものをしまう。
次に台所のあちこちを気づかれないぐらいに退けて拭く「どけふき」をしておく。
「色々大変だろうなあ」
しかしこう言うと人ごと感があるのでこれはNGワードだ。
そう思いながら床を拭く。大地の食べこぼしもこまめに拭いてくれてるんだろうなぁ。
洗濯も大変だよ。
ベランダを片付けながら洗濯物を取り込んで机の上に置き、畳んでみるが詳しい場所は分からない。
子供タンスの引き出しを開けては閉めて場所を探す。
続いて寝室兼長女緑の勉強部屋の拭き掃除。
勉強机の教科書を閉じて隅に置く。
もう緑も4年生か、早いなあ。
背も高くなって。
ちょっと感動していると『ピンコン』と音がした。
律子から返信が来た。
「おかえり修造。今日はみんなで緑のお友達の家族とバーベキューしたあとお泊まりさせて貰うの。帰りは明日になります」
「了解」と返信を送った後、気が抜けてソファにゴロリと横になる。
「そう言えば今日は土曜日か」お泊まりだから明日は遊園地に行けそうもないかもな。学校があるから次の土日まで長野には帰れないんだな。
そんな事を考えているうちに寝てしまう。
夕方
目が覚めた修造はふと親方に会いたくなってパンロンドに行く。
東南商店街のパンロンドは相変わらず活気に溢れている。
店に入ると柚木親方の奥さん丸子が「あら、修ちゃんいらっしゃい」と声を掛けた。
「奥さん無沙汰してます」と言いながら中に入り、他の職人一人一人に「押忍」と言いながらペコッペコっと頭を下ると「修造さーん」と杉本が手を振ってきたり他の職人たちも「修造さん」「元気か修造」などと声をかけられしばらくみんなの近況を聞いた後、親方の横に立つ。
「今日あれ行かないですか?」
「おっ!良いねぇ」
あれとは駅前の居酒屋で2人どちらかが飲み潰れるまで呑んで、残った方が勝ちという勝負なのだが、修造は全然酔わないのでいつも親方が酔い潰れるという会の事だ。
「修造さん、俺も行って良いですか?話したい事があります」
「おっ!藤岡も参加するか!行こう行こう」
というわけで夕方、満員で騒がしい居酒屋の4人テーブルを3人で囲む。
藤岡は修造に藤丸パン食品テロ未遂事件の話をした。
修造は出来事の全てに驚いて口を開けたまま聞いていた。
「杉本が協力してくれて助かりました、風花や由梨も無事連れて帰ってくれたし」
「それと、鴨似田夫人はメイクのせいなのか全然顔が違って見えた。それに以前より若返ってたし」
「美魔女ってやつだな」
「そうなんです親方」
そこに入り口から入って来た男に藤岡が手招きした。
つづく
今回もお読み頂き誠にありがとうございます。
食品テロ未遂事件のお話はprevent a crisis 杉本ほ137話から142話になります。
江川と修造の出会いはこちらのマガジンから
世界大会を目指す話はこちらも
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