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食品輸出の基本知識①「日本と海外の流通事情・小売事情の違い」

~卸も路線便もない世界を知る~

日本と海外では食品の流通事情も小売事情もかなり異なります。今回はその違いについて説明します。

流通事情・小売事情含め、一番の特徴(違い)は、『卸』も『路線便』も海外にはないことです。

国内でスーパーマーケットを開店するなら常温食品は3社でほとんど品揃えできます。グロサリーの卸、菓子の卸、菓子の地域卸の3社でほぼすべての常温加工食品を品揃えできてしまいます。

しかし海外でスーパーマーケットを開店するには、数百社と直接取引しないと商品が揃いません。食品メーカーの立場で言い換えれば、多くの小売業や飲食店と直接口座を開設し取引をする必要があります。

更に路線便が存在しないので自社で各店に商品を直接配送しなくてはなりません。卸の口座を使って、路線便で商品を届け、小売に納品する・・・という日本では当たり前の手法が通用しません。

食品メーカーを海外で立ち上げるということは、自社配送網を整備し、小売店や飲食店と直接取引する体制や仕組みを構築する必要があるということですが、初期費用がかかるため参入障壁が非常に高いです。

そうした事情から海外ではOEMが盛んではないですし、商品の種類が日本ほど豊富でないです。食品製造業をゼロから立ち上げるのは日本よりもハードルが高いと言えます。

海外で小売業をしていると日本とは異なる商習慣が多々あります。まず、何でもかんでも返品される返品文化がまだまだ残っています。小売側の責任による汚損品や破損品はもちろんのこと販売期限が残り少なくなった商品もどんどん返品されてきます。

極端な話だとこんな話もあります。「初回100ケース納品。翌月100ケース納品。半年後に200ケース返品。」一定規模の小売チェーンはそんなことはもうありませんがそんな返品文化がアジアではまだまだ残っています。

商品の店頭陳列を食品メーカーが行うケースも実は多いです。海外視察をした経験がある方はスーパーマーケットやデパートなど大型小売店に行くとプロモーターと呼ばれるスタッフがお店に大勢立っている光景を見たことがあると思います。

メーカー側が採用しコストを持っている店頭販売員が大勢店頭に立っています。その店頭販売員兼陳列要員であるプロモーターは女性であるケースが多いですが、彼女達はメーカーの社員であり、勤務先が小売店や飲食店となっています。パートタイマーがまだまだ少ないので、ほとんど全員正社員です。

そのプロモーターやルートセールスの社員が商品陳列を行います。そのためプロモーターもルートセールスもいないメーカーの商品はバックルームにいつまでも置かれたままとなり、納品した商品が長期間バックルームで放置され販売期限を迎えて、全て返品されるということが起こります。

プロモーターとルートセールスの重要な業務の一つが発注です。店頭とバックルームの在庫を数え、品切れが起こらないようにお店のスタッフに発注依頼して、注文伝票(PO・ピーオーPurchase Orderの略称)をもらって会社に連絡する、という仕事がプロモーターの最重要業務です。

棚割りをしっかり守るという意識があるのは一部のチェーン店だけで、まだまだ棚割り管理ができていないためメーカーで発注管理と店頭管理をしっかりしないと店頭から商品がすぐに消えてしまいます。そのためプロモーターが大勢店頭にいるのです。

ルートセールスが店を回り御用聞きをするというのは私が小売業で店舗勤務を始めた1980年代に似ています。まだまだそんな感じです。

また、小売視点で言うと納品時の欠品や品切れが非常に多いです。私がマレーシアで働いていた1990年代で食品の納品率は20%ほどでした。2000年代の台湾でも40%ほどでした。ラオスで大手小売チェーンを2010年に指導した際も納品率は20%ほどでした。

納品率が低い理由は食品メーカーが日本のように多くないため配給制を取っているから、という理由があります。欠品を前提としてあちこちの小売店から注文が入るため、販売期限切れや商品破損や商品汚損による返品を防ぐためにも食品メーカーは納品数量を絞りこみます。

そのため製造数量も絞り込むことになるため小売業ではいつも商品が不足して品切れしていました。小売側の発注数に任せて納品すると大量の返品を受けるので数を絞るという側面もあります。

小売が返品なしにすれば良いと思われるかもしれませんが、私がマレーシアで勤務していた1996年に試験的に1店舗で返品なしの取り組みを開始してみたら、賞味期限切れの商品や汚損・破損品が大量に納品され大変な思いをしました。

とにかく日付の古い商品は返品をしない店に送り込めという指示が多くの食品メーカーで出されたため、いつも日付の古いが納品され苦労しました。海外は日本のような正直で性善説の国ではないので、そんなことが起こってしまいます。


また、万引きも非常に多くシンジゲートという窃盗チームが大挙して高額商品を盗みにやってきます。そのため高額品は鍵のかかるケースに入れて販売したり空箱を店頭に置いてレジで商品を渡したりしていました。

スーパーの現地人の責任者が、日本人に変わると日本式が正しいと考え、やり方を変更したがるので盗難しやすくなりシンジゲートが集まる店となり、不明ロス率がどんどん上がります。

現地を知らない新任の日本人責任者は日本視点で改悪ばかりします。日本で0.1%といわれる不明ロス率が簡単に2%や3%を越えるくらいになるのでシンジゲートは脅威となります。

マレーシア法人の本社勤務中には、全社の不明ロス対策責任者も兼務していましたが、私が担当する前には、半年の不明ロス率が6%を超えた店もありました。小売業で6%も不明ロスを出たら、やっていけないです。

売場にいるプロモーターはシンジゲートのメンバーの顔を知っており、プロモーターと何度も話し合い、信用してもらい、シンジゲートが来店すると全店にシグナルが出る仕組みを作りシンジゲート対策を進めると、盗みにくい店になるので、シンジゲートは他の盗みやすい店に行くようになり不明ロスは下がります。

プロモーターは他の店のプロモーターと連絡を取っており、いまどこの店にシンジゲートが集まっているか知っています。そのような情報を持っているプロモーターと個人的な信頼関係を築いて情報をもらい不明ロス対策をすることが、実はスーパーマーケットの管理者の重要な業務となりますが、そんなことを知らない日本人管理職が新しく赴任すると、隙だらけの店となり不明ロスが発生します。

アジアでは日本人が優秀という訳では決してありません。日本でバリバリの優秀な方が数カ月で潰れるのを何人も見てきました。

日本では10言えはば、10仕事をしてくれます。優秀な人は10言えば20も30も仕事してくれますが、アジアでは違います。

特に現場の末端スタッフは、10言っても1も働いてくれないやんちゃ坊主が大勢います。勤務中に職場からいなくなってしまう。遊びに行ってしまう。お店で大声で歌を歌いだす・・・そんな彼らを取りまとめて、1つの組織にして成果を出すのに苦労する日本人が多いです。


アジアでは商品が配給制と言えるくらい小売より食品メーカーが圧倒的に強いです。そのために小売でどんなことが起こるのかお知らせします。

アジアではFOC(Free of charge)やPWG(Purchase with gift)・PWP(Purchase with purchase)と言われるプロモーションが多く行われます。

FOC(Free of charge)はオマケのことで、PWG(Purchase with gift)は買ったらプレゼントがもらえるプロモーション、PWP(Purchase with purchase)は日本ではセルリキと呼ばれ、買ったら他の商品が安く買えるというプロモーションです。

セルリキは日本のコンビニではポピュラーで一定以上の金額を買うとキャラクターグッズが買えるというようなプロモーションです。

お店には商品と一緒に大量のおまけが送られてきます。ひどい時には商品におまけがもらえると突然印刷されたパッケージで商品が納品されます。もちろん小売側に何も事前連絡はありません。

おまけは後でお店に送られて来るので、店頭にその商品を陳列するとお客さまからオマケを要求されて、初めて小売がそのことに気付く・・・そんなことが日常茶飯事です。

小売がメーカー側にクレームを入れると商品供給がストップするだけなので、何の解決にもなりません。自分のコストでたくさん売れるように小売をサポートしているというのが食品メーカーの考えなので弱い小売の現場はいつも泣かされていました。在庫が大量にあっても、陳列できない訳ですから・・・

小売店舗はおまけの在庫管理のために膨大なスペースと、おまけの手渡しと在庫管理にかなりの時間をさく必要がありました。

アジアと日本のスーパーで事情が異なるのは他の販促面でもあります。ラックジョバーと言わる「棚買い」が盛んで、売場を一定期間借り切っての特売や新商品案内が非常に盛んでです。

小売は一定の金額をリベートでもらえば、どんどん場所を提供するので、非常に店頭催事が打ちやすいです。お店にはプロモーターと呼ばれる食品メーカーの自社社員が常駐しているので、ある意味色々やりたい放題で店頭催事が打てる状況です。


また、小売はメーカーに登録料を要求するケースが多いです。登録料とは、新商品を小売がマスター登録する際に要求するお金のことです。

コンビニの登録料は高額なので、コンビニの店頭に商品を並べるのは大変です。百貨店は登録料は取りませんが、フェイシング数が1や2なので、拡販は難しいです。そんな中、どうやって海外に食品を大量に売っていくのか・・・というのが次回の話になります。

詳しくは「食品輸出の学校」で解説しています。ぜひご確認ください。

「食品輸出 実務と実践塾Eラーニング」2021年10月食品新聞社様で開講予定です。

図8

株式会社グローバルセールス 代表取締役 山崎次郎
食品輸出の学校 学校長


 

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