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それぞれのベンチそれぞれの物語

ふだん何気なく通りすぎるベンチですが、それぞれのベンチにはそれぞれの物語があります。

神宮外苑のベンチ

神宮外苑にこんなクラシカルなベンチがあるのは知りませんでした。でも、せっかくのデザインをぶち壊すトイレの手すりのような仕切りは何なのでしょうか。

人が寝っ転がることができないようにするためのデザインなのでしょう。東京では、ホームレスが公園などで寝たりゆっくりしたりすることを避けるために「排除」ベンチを置いたり、既存のベンチに「改良」を加えているそうです。

ロンドンのベンチ:19世紀後半

ちょうど同じ日にセピア色のベンチの写真を見つけました。ヴィクトリア朝時代ということなので19世紀の終わりごろのものです。

ロンドンの公園のベンチでホームレスの人々が休んでいる様子です。二人ずつ腰かけているので、寝っ転がってはいませんが、ベンチに仕切りはありません。

ロンドンのベンチ:現在

そしてロンドンでは、今も公園や広場、歩道や川沿いなどあちこちにベンチが置いてあります。散歩や買い物で疲れた足を休めたり、サンドイッチ屋さんで買ったランチを食べたりと、みんなが思い思いに利用しています。

そんなベンチにはたいてい仕切りはついていません。だから、たまにそんなベンチに寝っ転がっている人を見ることもあります。

リヴァーサイド・ヴュー3番地

ジェイは25歳の時ホームレスとなり、2年間テムズ川のほとりにあるベンチで寝泊まりしていました。目の前にテムズ川があり、その向こう岸にロンドン・アイを眺めることができる花の都ロンドンの一等地です。不動産価格の高いロンドンで、よほどのお金持ちじゃないと手にすることのできない眺めを毎朝起きるたびに目にすることができるのです。彼はそのベンチを愛し「リヴァーサイド・ヴュー3番地、ヴィクトリア‣エンバンクメント」と勝手に呼んで「マイホーム」としていました。

ある日、目が覚めるとベンチとスリーピングバッグの間にカードが挟んでありました。それは近くにある『ホームレス・ロンドン』というチャリティー団体のもので、助けが必要なら歓迎しますというものでした。ジェイはそのチャリティー団体を訪れ、様々なサポートを得ることができました。そのおかげで何とかホームレスの暮らしから脱出することができたのです。

それから10年。ジェイは今では結婚して子供と3人、イングランド北部にある街の普通の家で暮らしています。ほんの10年前にベンチで寝泊まりしていた生活が今では信じられないと言います。

ジェイは今でもロンドンに行くたびに当時の「家」だったベンチを訪れます。妻を連れてきて、ベンチからの眺めを見せたりもしました。ホームレスの暮らしは楽なものではなかったけれど、「ホーム」と呼んだベンチで毎朝眺める光景は至上のものだったと今でも思っています。

今の生活は『ホームレス・ロンドン』の助けがなかったら得ることはできなかったものです。ジェイはかつての自分と同じような境遇にある人達を今度は自分が助けたいと、チャリティーを通してヴォランティアをしています。オンラインでクイズショーを開催して、その売り上げ金をチャリティーに寄付しているのです。

メモリアル・ベンチの物語

イギリス各地で公園や広場や散歩道に置いてあるベンチに記念プレートが付いているのを見かけます。メモリアル・ベンチというものです。

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金属プレートに記念する人の名前や生没年と共に、故人に対する思いがつづられています。

たとえば、この銘板には「この森をこよなく愛し、ここで60年間散歩を楽しんだジェフ・ミッチェルを記念して」とあります。

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他にも、故人の思い出や、メッセージなど思い思いの言葉が刻まれているのを読むのが私のひそかな楽しみです。実は私はイギリスの墓地を散歩してお墓に刻まれている墓碑を読むのも好きなのです。

お墓もいいですが、ベンチだとほかの人の役にも立つので実用的でもあるメモリアルとなりますね。記念日には家族でお花をもってベンチを訪問する人もいるようです。

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わたしがいなくなったあとでどこかにベンチを置いてもらうとしたら、どこがいいかなと考えることがあります。お気に入りの公園の花壇の前にしようか、いつか行った湖水地方の湖を眼下にみおろす丘の上にしようか、海が見える砂丘のそばの道にしようか。それとも日本の、ふるさとの散歩道?

あなたならどんなところにメモリアル・ベンチをおきますか。そしてどんな物語をつづってほしいですか。

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いつも読んでもらってありがとうございます。