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スタートアップ60社の採用支援をしてわかった「スカウト」で意識したいポイント

この記事はグローバル・ブレイン(GB)の投資先企業へのハンズオン支援を行うValue UP Teamの千田、および採用支援に特化したグローバル・ブレインの子会社・GBHR株式会社の並木、國分による共同記事です。

この記事では、私たちが約60社ほどのスタートアップの採用支援をする中で見えてきた「ダイレクトスカウト」のポイントをご紹介します。

具体的なスカウトの手法だけではなく、採用目的の設定や採用要件の策定など、ダイレクトスカウトのプロセス全体における要点を、以下のステップで順に見ていきます。


「なぜ採用をするのか」を解像度高く考える

採用を考える上でまずやるべきことは、採用を通じて何を解決したいのかという目的(WHY)を具体的に整理することです。

ここが定まっていないと、どんな人を採りたいのかという採用要件も定めることができず、採用アクションを考える上での判断軸がなくなってしまいます。

採用の目的を定めるためには、社内の各チームや経営層における課題や目指す姿についてヒアリングを交えながら、ともに議論していくことが重要です。

課題を深掘りしていった結果、新たに人を採用するのではなく、ツールを導入したり、無駄だった業務をカットしたりすることで課題が解消できるケースもあります。無駄に採用費をかけないためにも目的の整理に時間をかけていくことが必要です。

課題をきちんと吸い上げて理解するために、人事も社内の業務を深く・解像度高く把握しておく必要があります。経営陣や求人部署の担当者とコミュニケーションを取り、人事自身が各チームの役割や、自社の目指していく戦略を踏まえた上でアクションを行っていくのが重要です。

「どんな人を採用するのか」を戦略的に考える

次に、目的をもとに採用すべき人の要件を考えていきます。前項でWHYを考えましたが、ここはWHOを考える段階です。

この時に「SaaSの営業経験がある人」「〇年以上のエンジニア経験」など、経験値だけで採用要件作りを終えてしまうのは少し危険です。その理由は2つあります。

1つは、経験値だけが合う方を採用しても、事業価値に共感していないことで業務にコミットしきれず、早期退職をしてしまうというような事態も招きかねないから。

もう1つは、自社と同じ業界経験を持つ経験者は当然同業界の他社も当たり前ながら狙っており、採用難易度が高いからです。

上記のような課題を解決するためには、以下のように採用ターゲットを戦略的に考えることをおすすめします。

まずは、採用要件では「自社のどんな課題をどのように解決する能力・経験を持っている人か」を定義しておくとよいです。たとえば「顧客と商談をしてニーズを吸い上げ、顧客ごとに導入プランをカスタマイズして提案できる人」や「経営を含めた社内メンバーと協議しながら、既存のプロダクトをより顧客が使いやすいものに改善できる人」などのような形です。

さらに、自社事業が挑む課題に造詣の深そうな方や自社の価値に共感してくれそうな方であり、かつ求める経験に近いものを持っている方を定義しておくのもおすすめです。

たとえば、小売店舗のDXを進めるSaaSを提供するスタートアップでの採用を考えてみます。このスタートアップで営業メンバーを採用する際、どうしても「SaaS」の営業経験を必須要件として探してしまいがちです。

ですが、自社の価値をわかってくれそうなのは「小売店舗のペインを良く知っている人」です。そう考えると小売店舗の責任者をしていたような方も対象になり得ます。いわゆる営業職の経験がなくとも、来店者や社内外の方とコミュニケーションを取って売り場改善をしていたような方であれば、法人営業としての活躍も期待できそうです。こうした定義をしておくと、後述する候補者ピックアップのプロセスにおいても、より採用に繋がる方を探しやすくなるかと思います。

自社に合う採用ターゲットを明確にするために有効なのは、いま活躍している社員の経歴や入社理由をヒアリングをしてまとめることです。そうすることで「入社してくれる人」の共通点がわかってきます。採用要件の定義に困った際は、すでに入社した人がどのようなポイントに価値を感じてくれていたのか改めて深掘りしてみるのも1つの手です。

「どう採用するのか」を適切に考える

「なぜ採用をするのか(WHY)」「どんな人を採用するのか(WHO)」を整理したら、具体的な採用の方法(HOW)を5つのプロセスに分けて考えていきます。

1. そもそもダイレクトスカウトを使うべきかを検討する

ダイレクトスカウトの利点は、レベルの高い人材を狙ってアプローチできることや、自社の頑張り次第で採用をスピーディーに行っていける点にあります。

しかし、世の中にはダイレクトスカウト以外にも以外の採用手段が数多くあり、むしろそちらのほうが効率的に採用ができる場合もあります。実際、GBで採用支援をした企業では、ポジションによっては転職エージェント経由で獲得したほうがスカウトよりも効率よくいったケースもあります

「エージェントやスカウトでも採用が難しい人材を是が非でも獲得したい場合はヘッドハント」、「カルチャーマッチを重視した採用をしたい場合はリファラル」など、採用のケースによって適した手段は様々です。前項で定義した採りたい人にあわせて手段を変えていけるのが理想だと言えます。

また当然のことではありますが、ダイレクトスカウトを行うには費用や工数がかかります。特にダイレクトスカウトの場合、1人採用するのに最低でも100~200通、文章をカスタマイズして送れる工数を確保する必要があります。必要な費用と工数が確保されているかをきちんと把握してから、本当にダイレクトスカウトが最善の手段なのかを検討しておきましょう。

以下は、私たちが考えるコストの目安です。候補者ピックアップをアシストする機能がある媒体もありますが、その他のスカウト媒体ではもう少し時間がかかる想定で計算しています。

こうした工数や費用を概算する際は、ネット上にある情報も参考にしつつ、他企業の人事にヒアリングをしてみるのがおすすめです。ダイレクトスカウトに着手すべきかどうかについて、現実的にはどの程度のコストがかかりそうなのかを踏まえた上で検討できます。

2. KPI設定をする

採用が上手くいかなかった場合の改善点を見つけるために、KPI設定は必ずしておきましょう。

ここで気をつけたいのが、世間でよく言われる「この媒体では約XX通を送れば1名採用できる」などのような言説を信じすぎてしまうこと。とにかくスカウトを増やせば採用ができると考え、配信数だけを目標にしてしまうのはよくあるパターンですが、それでは採用全体のプロセスにおいてどこに課題があるのかが見えてきません。あくまでも一例ではあるものの、以下のような指標をおいてどこの数値がビハインドしているのかをウォッチすると良いでしょう。各KPIの実数・移行率の両方の予実を確認し、PDCAを回していくのがコツです。

なお、この数値は会社、ポジション、アプローチの方法などによって上下します。ここでもやはり知り合いの人事ネットワークを通じて情報収集し、現実的な値を置くと良いかと思います。

3. 候補者をピックアップする

採用要件が固まり、ダイレクトスカウトでのKPIも立てられたら、いよいよ候補者ピックアップをしていきます。

ここで気を付けたいのが、キーワード検索「だけ」で候補者を選んでしまうこと。マーケティング担当を採用したい時に、プロフィールに「マーケティング」「CMO」などと入れている候補者をとりあえず検索し、その方の経歴をほとんど見ずに送ってしまう…というようなケースのことです。

配信対象者が減ってきたときや配信数の消化期限が迫っているときなど、候補者ピックアップに時間をかけられない場合にやってしまう方が多くいます。

マーケティングとひと口に言っても、BtoBかBtoCかで大きく異なりますし、デジタル広告やSEO、オフラインでの販売促進など業務も多岐にわたります。その方が自社が求める経験をされているかどうかはキーワード検索をしただけでは判断ができません。

定義した採用要件を改めて確認し、マーケティングの中でも誰に対してどんな手法でマーケ活動をされてきた方を探したいのかに注意をして、時間をかけながらピックアップするのをおすすめします。

4. スカウトを打つ

候補者ピックアップの次は文面を作成してスカウトを送信する段階に入ります。文面の作成にあたっては3つの「合わせる」を意識するのがポイントです。

①候補者に合わせる

配信を効率化するためにテンプレートを用意することは大切ですが、それをそのまますべての候補者に送るのは避けたほうが良いです。

スカウトを送る候補者はあくまでも人であり、これから同じ会社の仲間になるかもしれない方です。スカウトであっても普段人と顔を合わせるときのように、その方に合わせたコミュニケーション(文面)にアレンジするのがマナーだと言えます。

人によって文面をカスタマイズする際に意識しておくとよいポイントは「なぜあなたを選んだのか」を伝えること

「〇〇社で〇〇のご経験が魅力的で…」のように書く企業も多いですが、〇〇の部分を書き換えているだけのテンプレートと見なされてしまいかねません。さらに一歩踏み込んで「〇〇の立場で〇〇な成果を出されていることに驚きました」など、具体的なその方自身の経験を踏まえて、その経験に自分たちがどう評価しているかが具体的に伝わるように、スカウトをお送りすると良いでしょう。

また、候補者によってはSNSアカウントを掲載している人もいます。そういった方にはSNSを見た上で感じたことを添えるのも良いと思います。「ここまで自分のことを見てくれたのか」と熱意が伝わり、スカウトの返信をしてくれる人も多くいます。実際に「こんなスカウトを送ってくれたのは貴社が初めてだったので、お会いすることにしました」という声をいただくこともありました。

②自社に合わせる

その他の企業の文面を参考にするのは良いことですが、彼らが使っている言い方やよく使われている表現に影響されて、それをそのまま利用するのは注意が必要です。

たとえば、限られた文字数しか書けない件名に「急成長SaaS」や「資金調達〇億」などのような、他の企業でも言える言葉を使ってしまうのは少々もったいないです。自社の強みや他企業との違いが伝わりづらくなってしまいます。

それよりも「自社はどんな世界を生み出そうとしているのか」を伝えると、響く人にはきちんと響くものになります。小売店舗をDXするSaaSであれば、「デジタルを使って未来の小売店舗を世界に生み出す」「店舗で働く人の悩みをデジタルで解決する」などのような形です。

こうした自社の価値を知るためには、自社の事業理解を深めておく必要があります。各ポジションの業務理解とあわせて「そもそも自社の価値とは何なのか」を言葉で表せるよう、日頃から経営陣や各チームとコミュニケーションをとって理解しておくと良いです。

③媒体に合わせる

媒体によって「ビジネス色が強くて堅め」「SNSの側面が強くて柔らかめ」など、スカウト媒体にはそれぞれ世界観があります。

この世界観の違いを理解せず、ある媒体でのテンプレートを別の媒体で使ってしまうと、ちぐはぐなコミュニケーションになってしまいます。候補者の中には他媒体のテンプレートであることがわかってしまう方もいるかもしれません。そうなると会社への信頼性は大きく下がってしまいます。

同じダイレクトスカウトだからと一緒くたにせず、各媒体ごとに基本となるテンプレートはわけて用意するのがベストです

また自社の魅力を伝えようとするあまり、スカウト文面が膨大になってしまうことがよくあります。気持ちはとてもよくわかるのですが、ダイレクトスカウトはあくまでも「メッセージ」形式で、企業と候補者がつながるものです。

メッセージの域を超えて情報量が多いスカウトは最後まで読む気にならず、候補者の離脱につながりかねません。スカウト文では要点を絞り、求人要項やカジュアル面談に誘導するようにすると移行率も高められます。

長文になるのを防ぐため、各媒体でスカウトの上限の文字数を決めてしまうのも手です。チャットの要素が強い媒体は200文字以内、メールのような形式で遅れる媒体は500文字以内などのように決めてみると良いでしょう。

5. 振り返りをする

スカウト送信や面接設定などがある程度1周したら、設定したKPIをもとに振り返り、打ち手を考えていきます。

ここでは特にスカウト→カジュアル面談、カジュアル面談→1次面接などの「移行率」に着目をして打ち手を考えていきましょう。「なぜ達成できなかったか」という問いをもとに、改善の仮説を考えていくのがおすすめです。

ちなみに振り返りの際によくあるのが、「スカウト文面を変える」という打ち手に終始してしまうこと。

数字がビハインドしているのには複合的な理由が考えられます。もしかしたら最初のスカウトではなくその後の返信メッセージに改善点が潜んでいるのかもしれませんし、自社のWebサイトに書いてあることとスカウトに齟齬があって求職者に不信感を感じさせているのかもしれません。

こうした改善の仮説を思いつくためには、スカウトに取り組んでいる他社の人事の方に聞いたり、書籍や記事を読んだりしてインプットを増やしていくのが正攻法だと思います。

ちなみに返信率など、会社の知名度によって変わる指標もあります。文章や配信対象を変えるだけでなく、採用広報やブランディングの面での打ち手を考えるのも良いでしょう。

まとめ

以上、さまざまな企業の採用支援を行ってきた私たちが考えるダイレクトスカウトのポイントをご紹介しました。

人材採用は一朝一夕では成果がでないものです。自社の価値を見つめ直したり、求職者の方の立場に立って考え続けたりと、地道なアクションを重ねる時間が必要になってきます。

そうした積み重ねの先に、自社を大きく飛躍させるような方との出会いがあるはずです。素敵な出会いのために日々努力されている採用担当の方にとって、この記事が少しでもお役に立てれば幸いです。

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