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生きることと幻想の間

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#夏

幻想記ー日暮れの花

母の運転する車の助手席から夕暮れの空を眺めていると、黒い服を着た背の高い女性(女性だろうか、本当に?)が暗い歩道を歩いているのが見えた。
彼女の容姿は確かに見えているはずなのに、なぜか脳みそではよくわからず、よって性別もあいまいで、そのほっそりとした手に持っているものだけが鮮やかに見えていた。

花だった。赤い、ダリアのような花が、透き通り、あるいはかすかに発光し、複雑な色彩の粒子を帯のように残し

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夏の幻想

夏の幻想

誰かが見た夏の景色だろうか。青く燃える空に白い龍神が飛んでいく。開け放たれた奥座敷で寝転ぶわたしは夢を見ている。

かすかに香る湿ったイグサの匂いに混じる線香の煙、畳に落ちる影の濃さ、光の力強さ。いっときのうちに影は部屋の端まで移動し、また戻り、時間を狂わせながら境界の門をたたく。

縁側をひたひたと歩く白い足のたおやかさ、活けられたクロコスミアの赤、青い青い空、白い白い雲、井戸の中から長く高い草

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