幻想記ー日暮れの花

母の運転する車の助手席から夕暮れの空を眺めていると、黒い服を着た背の高い女性(女性だろうか、本当に?)が暗い歩道を歩いているのが見えた。
彼女の容姿は確かに見えているはずなのに、なぜか脳みそではよくわからず、よって性別もあいまいで、そのほっそりとした手に持っているものだけが鮮やかに見えていた。

花だった。赤い、ダリアのような花が、透き通り、あるいはかすかに発光し、複雑な色彩の粒子を帯のように残していく。

不思議な花の黒子のような彼女と車がすれ違う一瞬、長い髪から覗く猫のように明るい瞳と視線が交差した。

むせ返るように暑い、真夏の、
夕暮れと夜の隙間で起こったこと。