マガジンのカバー画像

diary

40
運営しているクリエイター

2023年2月の記事一覧

蝶葬

北向きの薄暗い部屋の床で、紋白蝶がもがいているのに気づく。いつのまにここにいたのだろう。秋の終わりに室内に入れた鉢にさなぎがついていたのだろうか。誰にも気づかれずに生まれ、必死に羽ばたいているが、よく観察するとひとつの翅が歪んでうまく飛べないようだった。

砂糖水を傍に置いたりしながら夜になるまで待っていたけれど、彼女はうまく飛べないままだった。虫かごに入れるのも、この部屋で育てるのも、嫌だと思っ

もっとみる
冬と闇のこと

冬と闇のこと

大人と呼ばれる年齢になってから、冬を好きだったことがなかった。北国の冬はとにかく長く、暗く、寒く、やまもりに積もった雪に閉ざされた圧迫感が喉を締め付けて、うまく呼吸ができなくなって、いつも苦しかった。

単純に日光が足りないせいもあっただろうし、自分の心身の調子が悪い時期であったせいもあるし、人生のそういう期間であったせいでもあるだろうが、冬は特に救いようがない気持ちになることが多かった。自分に対

もっとみる