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【琴爪の一筆】

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読書の際に「琴線に触れた」を超えて「琴爪で弾かれた」一文一節を紹介しつつ、その私的な心象や思考を綴ります。心を鳴らす言葉に出会った時の、その音色を忘れないように。
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#現代思想入門

【琴爪の一筆】#5『現代思想入門』千葉雅也⑤

【琴爪の一筆】#5『現代思想入門』千葉雅也⑤

著者の、ほんの少し寂しさを纏った淡い微笑みが目に浮かぶような一文。
この一文のみならず全篇を通じて衒わない文体に、とても好感が持てました。

実はこの一文に至る前に、独白とも言える別のエピローグがあります。物事に真摯に向き合った人がどうしても辿り着いてしまうであろう境地が書かれています。それはぜひこの本を手にして確かめてほしいと思います。

本当はもっとたくさんのご紹介したい一文があるのですが(少

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【琴爪の一筆】#4『現代思想入門』千葉雅也④

【琴爪の一筆】#4『現代思想入門』千葉雅也④

私の世代である「団塊ジュニア」が生きてきたその時々の環境では、このような強迫観念が今よりも濃く充満していたように思います。

かくいう私も漠然とした不安があったのか、難易度の高い国家資格を取るという志を持った時期がありました。しかし「人は持ったものに縛られる」という、いつどこで拾ってきたのかもわからない一見陳腐、さりとて名言とも取れる言葉をいたく気に入っており(今でもそうだと思います)、ふとある時

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【琴爪の一筆】#3『現代思想入門』千葉雅也③

【琴爪の一筆】#3『現代思想入門』千葉雅也③

確かに。私自身はどちらかと言うと能動タイプ寄りな節があるので、他人から能動性が求められることが少ない分「自分で考え、決めたことじゃなきゃ何をするにも楽しくないんじゃない?」って考えがちな人間であることにまず気づきます。自分の立ち位置の認識ですね。

さらに省みると、あからさまな強制力をともなった「命令」には相当な拒絶反応を示すものの、そこまではいかずとも、他人の指示、もしくは指示とすら感じない誘導

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【琴爪の一筆】#2『現代思想入門』千葉雅也②

【琴爪の一筆】#2『現代思想入門』千葉雅也②

私の場合、秩序だっているものには一定の美しさ、清々しさを感じるけれど、どこか落ち着かない気分になることがあります。それがアーティストのレベルになると、自身の表現にも影響を与えてしまうという話。個人の意識においては完璧な秩序などは求めず、ある程度秩序を乱すものを受け入れることでむしろ不安が解消される。これは私自身も賛同でき、さらには人間共通の感覚だとも思えます。

その一方で、概念的には秩序と混沌を

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【琴爪の一筆】#1『現代思想入門』千葉雅也①

【琴爪の一筆】#1『現代思想入門』千葉雅也①

序盤も序盤、本文が始まって2ページ目にあるこの一文でいきなり「はっ!」となってしまったんですよね。無意識のうちに方向づけられていた「単純化は正義」という思いこみをいとも簡単に別次元に連れ去っていくこの一文。「これは連れ去られるべき」と私のゴーストが囁いたのです。

「常識」という言葉を盲目的に忌み嫌っているにもかかわらず「自分の中にしれっと存在していて、かつ多数派かどうかすらも確証がない常識」があ

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