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アメリカ大統領選の討論会はどうして子どもの喧嘩状態になったのか?

今週火曜日にアメリカの大統領選挙に先立ち、第一回目の討論会が開かれました。日本で同時中継を見た方は、トランプ、バイデン、司会者の三者x2(通訳)の声が入り混じって、カオスだなぁと思われたかもしれません。

子どもの喧嘩並みに低レベルな言い争いと、相手の持ち時間や司会者の制止にまで割って入ってひたすらぶつぶつ言っていたトランプ氏。どうしてたった1時間半、トランプはおとなしく司会者の指示に従って、賢い風を装えなかったのでしょうか?


実はトランプは非常に冷静に状況を分析していて、自分の利益を最大化するために狡猾に動いているんじゃないかと仮説を立ててみました。


トランプはもはや賢いところを見せる必要がない!?

アメリカは自宅の郵便番号で社会階級が分かるほど、知識階級と労働階級の暮らす地域がはっきり分かれています。まして、NY,ボストンをはじめとする東海岸、サンフランシスコ、ロスなどの西海岸の主な都市には理論派の知識層が、中西部の都市には感情派の労働者層が多いとされています。


私の予想では、トランプはもう知識階級の、判断力があって、まじめに日々ニュースをフォローして、論理的な嗜好を重視する人たちが自分を支持する可能性は1ミリたりともないことに気付いているんじゃないかと思います。そういう人たちに対して今更ちょっとまともなこと、理論的なこと、倫理的なことを言ったところで、絶対に自分の見方にはならないことをもう十分わかっているのでしょう。だから、ディベートで全く過去の発言や対応と違うことを言っても、痛くもかゆくもないんです。なぜならそんな過去の情報をさかのぼって事実がどうこう確認するような人は最初っから相手にしていないからです。

一方で、これまでの政治家の難しい言葉遣いが分からなかった人たち、何となくいけ好かないと思っていたような感情派の人たちは、そもそも一生懸命毎日のニュースをフォローしたりしていません。だから、これまでの経緯とつじつまが合わない無茶苦茶なことを言ったとしても、その場だけ何とか取り繕えればわからないんです。

とにかく、ニュースで切り取られるシーンが何となく堂々としていて、国のため、というようなことを言っておけば、そういう人たちを取り込めると思っているんじゃないでしょうか。


何度もバイデンを妨害したのは?

今回のディベートでは、トランプは何度も何度もバイデンの持ち時間に話に割って入り、司会者に注意を受けていました。たった二分黙って人の話も聞けない、おかしな人だ、支持率が下がると思わないのか、と私は最初思っていました。

ところが、これまで話したように、トランプが選挙戦のターゲットを既に絞っていると考えると、討論会でバイデンの持ち時間にも関わらず、何度も話に割って入っていったのも何となく理解できます。とにかく、バイデンが賢そうに、堂々と話している時間を減らすことがトランプ最善手なのですから。

一生懸命にこれからディベートをしたところで、内容をきちんと追いかけたいと思う人、理解できて、国のリーダーとして正しいことをしているか判断するような人はトランプを支持するはずがないのです。内容がいまいち理解できない人や、自分の会社や組織の利益のためなら国のためのあるべき政治なんてどうでもいいと思っている人をつかんで離さなければOK、というわけです。


そうすると、圧倒的なトランプ派でも、バイデン派でもない宙ぶらりんの人だけを対象に選挙戦を進めればいいことになります。そういう人たちって、理論的にものを考えたり、先にあることが分かっている選挙戦に向けて情報収集をきちんとできない/しないような人たちなんですね。

それなら、何となくニュース番組にうつった一瞬に何となく信頼できそうなオーラを出しておけばいい、時間も話す順番もいちいち守る必要もない、という戦略になってもおかしくありません。

コロナやBLMへの対応は?

2020年は本当にいろんな事件がありました。

特にアメリカではコロナやBLMのデモが大きなニュースになりましたが、トランプの対応はまともに国民のための政治をしたいと思っている人が考えることと180度逆でした。

国家の難局に、ここでかっこいいスピーチ、国民みんなで団結して乗り越えよう、等のメッセージを残しておけば、後々まで語り継がれる名シーンを作ることだってできたはずなのに、どうしてここまでひどい対応しかできないのか、と何度も驚かされました。

これも、極端な成果主義をベースに考えるとつじつまが合います。

彼の目標はとにかくビッグになること、だと仮定すると、大統領になった今、ちょっといい演説をして評判がちょっと上がったところで、もはやどうでもいいのでしょう。自分の名前はいずれ歴史に刻まれるわけなので。

ノーベル平和賞をくれそうな大きなトピック(対北朝鮮)にはそれなりの力で取り組んできたように思います。でもノーベル賞はもらえなかった。

コロナの対応を一生懸命やったとして、ノーベル平和賞や医学生理学賞をもらえるか?無理でしょうね。医学系のリーダーに取られてしまいます。BLMは?相当一生懸命やればもらえたかもしれませんが、そもそも自分の意志と正反対のことなので、もらえるかわからない賞のためにそんなには頑張れません。それよりも、大統領をやめた後もこれまで通りお金持ち白人集団に仲良くして一緒に豪遊してもらうために、彼らの有利になるように政治を動かした方がよっぽどトランプにとってはお得なわけです。


こう考えると、トランプはとっても自分の欲望に忠実で、的確に自分の望みを満たすための選択をし、驚くほど徹底して実行に移しているように思えます。差別や貧困、格差に苦しむアメリカ国民や世界の人にとってはとんでもないリーダーですが、この実行力がもし本当に彼の計画に基づくものだったとしたら、その鉄の意志に関してだけはもはや尊敬していまいます。


バイデンはどう戦うべき?

さて、ではバイデンはどういう態度に出るべきなのでしょうか?

本来であれば、トランプの挑発に乗らず、大統領としては年齢が懸念されていることも踏まえてひたすらクールでスマートな候補を演じきればいいはずです。

ただ、トランプが極端な動きをしているので、バイデンもこれに対応した策を考えた方がいいかもしれません。これまでのトランプの言動で、論理的思考を重視する人は既に有無を言わさずバイデン派になっているはずなんです。あまり込み入った話に首を突っ込んで、知識層に批判されるようなボロを出してしまうと、投票を棄権されて自分の票を減らすリスクがありそうです。一方、トランプの低レベルな茶々入れに付き合ってだらだら時間をつぶしても全くその層の支持率には影響しません。

であれば、トランプ同様、ディベート自体に深入りせずに、宙ぶらりん層の心に響く演出だけしておくのが吉と出るかもしれません。

討論会開始すぐはなんとなく顔が青白く、ネクタイも白黒で地味でまじめなイメージになってしまったバイデン氏。なんとか、トランプとは別お戦略で宙ぶらりん層の心をつかんで、選挙戦を勝ち抜いてもらいたいものです。


トランプが無理やり選挙のレベルを引き下げた?

こうして見てみると、第一回の討論会の運びはもしかすると両陣営の目論見通り、まともに議論を深めずに、何となくお互いの長所をちらっと見せるだけの会に終わったのかもしれません。

トランプの話しぶりを見て、この調子で国際会議で相手のペースを満たして、強気の外交をやってくれるのか、バイデンをみて、弱者にやさしい、落ち着いた政治をやってくれるのか、と思ったり。

ただ、これらは本当に薄っぺらの印象合戦でしかないんです。

世界をリードする大国のリーダーが、十分な議論と思考力、政治力で比べられずに、こんな稚拙でその場しのぎの討論会で決められると思うと本当に残念です。


一方で、日本には政治家が一対一でガチンコの政治トークをして、国民がこんなに注目するイベントなんて存在しませんよね。もちろん、大統領制ではないことの影響もあるかと思いますが、なかなかリーダーの考えを直接国民に語ってもらう機会がないことはやっぱりさみしい気がします。


アメリカ大統領選の投票日は約一か月後の11月3日。結果がどうなるか、ハラハラします。

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