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7)レスベラトロールとプテロスチルベンの抗老化・寿命延長作用

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術7

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。

【レスベラトロールは長寿遺伝子サーチュインを活性化する】

 植物は、外敵(病原菌など)や過酷な外的環境(紫外線や熱や重金属など)に打ち勝つために、様々な生体防御物質を合成しています。植物体に病原菌や寄生菌が侵入したときに植物細胞が合成する抗菌性物質をファイトアレキシン(phytoalexin)と言います。

アンチエイジング(抗老化)の領域で注目されているレスベラトロール(Resveratrol)もファイトアレキシンの一つです。

レスベラトロール(Resveratrol)はスチルベン合成酵素(stilbene synthase)によって合成されるスチルベノイド(スチルベン誘導体)の一種です。
気候変動やオゾン、日光、重金属、病原菌による感染などによる環境ストレスに反応して合成されます。

赤ぶどうの果皮や赤ワインに多く含まれています。その他、ラズベリー、ブルーベリー、マルベリー(桑の実)、イタドリなどにも含まれます。

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図:レスベラトロールは気候変動やオゾン、日光、重金属、病原菌による感染などによる環境ストレスに反応して合成されるポリフェノールの一種。赤ぶどうの果皮や赤ワインに多く含まれている。その他、ラズベリー、ブルーベリー、マルベリー(桑の実)、イタドリなどにも含まれている。


レスベラトロールは1939年に発見されていますが、その健康作用が報告されるようになったのは1990年代に入ってからです。

フランス人はチーズやバターや肉類やフォアグラなど動物性脂肪を多く摂取しているのに、他の西欧諸国と比べて心臓病の死亡率が低いことが知られており、これは「フレンチパラドックス」と呼ばれています。

その理由として、赤ワインに豊富に含まれるポリフェノール類による抗酸化作用が指摘され、特にレスベラトロールの効果が注目されました。

レスベラトロールの抗酸化作用や心臓保護作用や動脈硬化予防効果などの観点からの研究は1993年頃から報告されるようになり、赤ワインに含まれるレスベラトロールの抗酸化作用や血小板凝集抑制作用がフレンチパラドックスの原因であると考えられるようになりました。

その後の研究でレスベラトロールのユニークな作用機序が次々と明らかになり、その一つが長寿遺伝子「サーチュイン」を活性化するという作用です。

寿命を延ばす確実な方法としてカロリー制限があります。カロリー制限は、栄養不良を伴わない低カロリー食事療法で、霊長類を含む多岐にわたる生物種において老化を遅延させ、寿命を延長させることが知られています。

このカロリー制限のときに活性化されて寿命延長と抗老化作用に関与するのがサーチュイン遺伝子です。このサーチュイン遺伝子を活性化する作用がレスベラトロールにあることが2003年のNatureに報告されました。(Nature. 2003 Sep 11;425(6954):191-6.)

マウスに高脂肪・高カロリー食を与えると寿命が短くなりますが、このときレスベラトロールを摂取させると寿命の短縮が防げるという報告が2006年のNatureにハーバード大学の研究グループから発表されています。(Nature. 2006 Nov 16;444(7117):337-42.)

2006年にはレスベラトロールがサーチュイン1(SIRT1)とPGC-1αを活性化することによってミトコンドリア機能を活性化し、代謝性疾患を予防することがフランスの研究グループから報告されています。(Cell. 2006 Dec 15;127(6):1109-22.)


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図:レスベラトロールは、カロリー制限や運動と同様にサーチュイン遺伝子(SIRT1)を活性化する(①)。サーチュイン1の活性化はストレス抵抗性を亢進し(②)、PGC-1αを脱アセチル化して活性化し(③)、ミトコンドリア新生を促進し(④)、ミトコンドリア機能を高める(⑤)。このような作用は、抗老化・寿命延長やがん予防の効果を発揮する。


【レスベラトロールの臨床効果は極めて限定的】

 これまでの記述を読むと、レスベラトロールは老化予防や寿命延長に効果が期待できるように思われます。しかし実際は、人間がレスベラトロールをサプリメントで摂取しても、ほとんど有効性は期待できません。

その理由は、生体利用率(バイオアベイラビリティ)が極めて低いからです。薬物の体内利用率をバイオアベイラビリティ(bioavailability)と言います。薬を服用しても、消化管からの吸収が悪かったり、分解が早くて血中から早く消失するような場合は、バイオアベイラビリティが低いと言います。

経口によるバイオアベイラビリティの低い薬は、その薬を内服しても、ほとんど効果が期待できないことになります。
レスベラトロールは小腸と肝臓で、フェースII解毒酵素によってグルクロン酸抱合や硫酸抱合による代謝を受けるので、活性型は全身循環には極めて少量しか移行しないためです。

そのため、レスベラトロールには抗酸化作用、抗炎症作用、抗老化作用、抗がん作用など様々な薬効が基礎実験で示されていましたが、臨床的効果は疑問視されていました。

リポソーム封入やナノカプセル化など、レスベラトロールの分解や代謝を阻止して生体利用率を高める方法が開発されていますが、人体でのレスベラトロールの有効性を保証できる製剤はまだ利用できる段階ではありません。


そのような状況で、バイオアベイラビリティ(生体利用率)が極めて高く、レスベラトロール以上に生理活性を有するプテロスチルベンが注目されています。


【レスベラトロールより生体利用率と臨床効果が高いプテロスチルベン】

 レスベラトロールより体内での安定性とバイオアベイラビリティの高い天然のレスベラトロール誘導体としてプテロスチルベンがあります。

プテロスチルベンもレスベラトロールと同様に、植物が合成する抗菌物質(ファイトアレキシン)の一つです。

プテロスチルベン(Pterostilbene)はレスベラトロールの類縁体で、レスベラトロールの2つの水酸基(OH)がメトキシ基(CH3O-)に置換した構造です。

プテロスチルベンはレスベラトロールと同様にブドウやブルーベリーなどに含まれます。

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図:プテロスチルベンはレスベラトロールの2個の水酸基(OH)がメトキシ基(CH3O-)に置換している。


レスベラトロールは腸管からの吸収が悪く、体内で急速に代謝され、半減期が非常に短いという欠点が指摘されています。
一方、プテロスチルベンは80%程度のバイオアベイラビリティを示すことが報告されています。
プテロスチルベン構造に2つのメトキシ基が存在することで、プテロスチルベンはより親油性になり、したがってより生物学的に利用可能になります。

プテロスチルベンは、グルクロン酸抱合または硫酸化に利用できる遊離ヒドロキシル基が1つしかないため、代謝的にも安定しています。

実際、ヒト肝ミクロソームで行われた酵素動態グルクロン酸抱合アッセイは、レスベラトロールがプテロスチルベンと比較してグルクロン酸抱合によってより効率的に代謝されることが示されています。

つまり、プテロスチルベンはレスベラトロールより消化管からの吸収がよく、グルクロン酸抱合や硫酸抱合による不活性化を受けにくいので、生物学的利用能が高いことを意味します。

プテロスチルベンもレスベラトロールと同様にAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)とサーチュインを活性化して、PGC-1α(Peroxisome Proliferator- activated receptor gamma coactivator-1α:ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γコアクチベーター1α)やFOXOファミリーなどの転写因子を活性化します。活性化したPGC-1αやFOXOはミトコンドリア機能を高め、細胞老化を抑制し、発がん抑制や寿命を延長する効果を発揮します。(下図)

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図:ブドウやブルーベリーに含まれるスチルベン誘導体のレスベラトロール(①)やプテロスチルベン(②)は細胞内のAMP/ATP比を上昇し(③)、AMP依存性プロテインキナーゼ(AMPK)を活性化する(④)。AMPK活性化はNAD+/NADH比を高め(⑤)、サーチュイン1(SIRT1)を活性化する(⑥)。AMPKはPGC-1α(Peroxisome Proliferator- activated receptor gamma coactivator-1α:ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γコアクチベーター1α)をリン酸化し(⑦)、さらにSIRT1で脱アセチル化されて活性化する(⑧)。サーチュイン1はFOXOファミリーなどの転写因子を脱アセチル化して活性化する(⑨)。活性化したPGC-1αやFOXOはミトコンドリア機能を高め、細胞老化を抑制し、発がん抑制や寿命を延長する効果を発揮する。


体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術 記事まとめ

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