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10)水素ガスは理想的な抗酸化剤

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術10

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。

【ミトコンドリアの酸素呼吸で活性酸素が発生する】

 ミトコンドリアにおける電子伝達系(呼吸鎖)においてATPが産生されるとき、必然的に活性酸素種(スーパーオキシド、過酸化水素、ヒドロキシラジカルなど)が発生します。


ミトコンドリアのTCA回路(クエン酸回路)によりNADHやFADH2の形で捕捉された水素は,ミトコンドリアにおいて,一連の酵素系(呼吸鎖複合体 I~IV)とATP合成酵素(呼吸鎖複合体Vとも言う)の連鎖を経て,最終受容体である酸素(O2)に渡されて水(H2O)になります。

複合体 I~IVの段階は,ミトコンドリア内膜のタンパク質や補酵素間で電子のやり取りが起こる過程であるため電子伝達系(呼吸鎖)と呼ばれます。

電子伝達系によってミトコンドリア・マトリックスから膜間空間にプロトン(水素イオン)がくみ出され、輸送されたプロトンによってミトコンドリア内膜の内外にΔΨと呼ばれる電気化学的ポテンシャル(プロトンによって生じる電荷の差)が作り出されます。

マトリックス側に戻るプロトンの駆動力を利用してATP合成酵素がADPと無機リン酸からATPを合成します。これを酸化的リン酸化と言います。
この酸化的リン酸化の過程でプロトン(水素イオン)の一部がうっ滞すると活性酸素種が産生されます(下図)。

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図:呼吸酵素複合体のIとIIIでスーパーオキシド(O2-)が産生される。スーパーオキシドはスーパーオキシド・ディスムターゼ(SOD)によって過酸化水素(H2O2)に変換される。過酸化水素の一部はヒドロキシルラジカル(OH-)に変換される。


【体内では電子の争奪が行われている】

 全ての物質は原子からできています。原子というのは物質を構成する最小の単位であり、原子核を中心にその周りを電気的に負(マイナス)に帯電した電子が回っているという形で現されます。

通常、電子は一つの軌道に2個づつ対をなして収容されますが、原子の種類によっては一つの軌道に電子が一個しか存在しないことがあります。このような「不対電子」を持つ原子または分子をフリーラジカル(遊離活性基)と定義しています。

本来、電子は軌道で対をなっている時がエネルギー的に最も安定した状態になります。そのためにフリーラジカルは不安定で、他の分子から電子を取って自分は安定になろうとします。フリーラジカルとは、不対電子をもっているために、非常に反応性の高まっている原子や分子なのです。

活性酸素は「不対電子を持っている酸素由来の分子」で、他の物質から電子を奪って酸化するのです。(下図)。

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図:不対電子を持っている原子や分子をフリーラジカルという。フリーラジカルは他の物質から電子を奪って安定化するが、電子を奪われた物質(酸化された物質)はフリーラジカルとなってさらに他の物質から電子を奪うようになる。このように体内では電子の争奪が繰り返し行われている。


「酸化」するというのは活性酸素やフリーラジカルが、ある物質の持っている電子を奪い取ることを意味します。「酸化」の本来の定義は「電子を奪うこと」なのです。一方、ある物質が別の物質から電子をもらうことを「還元」といいます。(下図)。

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図:ある物質が水素(電子)を奪われると「酸化された」という。逆に、水素(電子)を与えられると「還元された」という。体内ではこの電子のやり取りが繰り返し行われている。


前述のように、細胞が生きていくために必要なエネルギー(=ATP)は、細胞内のミトコンドリアで酸素を還元して水になる反応(電子伝達系)を使って産生しています。この過程では1分子の酸素(O2)に4つの電子(e-)を渡して四電子還元され、さらに水素イオン(H+)と結合して水(H2O)になります。

この反応では必ずしも酸素分子に電子がきっちり4個渡されるとは限りません。酸素分子に不完全に電子が渡され、部分的に還元されたものが発生し、これが活性酸素になります。

例えば、1個の電子が渡された場合はスーパーオキシド(O2-)という活性酸素になります。ふつうの酸素分子は16個の電子を持っていますが、スーパーオキシドは17個の電子をもっており、そのうち1個が不対電子になりフリーラジカルとなるのです。


【活性酸素は細胞成分を酸化して老化や病気の原因になる】

 フリーラジカルは、他の物質の電子を奪う(酸化する)性質があります。DNAから電子が奪われると誤った遺伝情報が作られ、がん細胞の発生につながります。

DNA以外にも、体の土台をなしている蛋白質や脂肪からも電子を奪い酸化して細胞の機能の障害を引き起こし、ひいては組織や臓器の機能の低下を招いて老化が進行し、様々な疾患を引き起こします。

このように、フリーラジカルが細胞や組織を構成する成分を酸化してダメージを与えることを酸化傷害といいます。

体内での活性酸素の産生量が増えたり体の抗酸化力が低下すれば、体内の細胞や組織の酸化が進むことになります。このように体内を酸化する要因が体の抗酸化力に勝った状態を「酸化ストレス」と言います。

酸化ストレスが高い状態というのは、「体の細胞や組織のサビ(=酸化)」を増やす状態であり、このサビが過剰になると、様々な疾患や老化の原因となります。

細胞や組織が酸化ストレスを受けると、細胞内のタンパク質や細胞膜の脂質や細胞核の遺伝子などにダメージが起こり、がんや動脈硬化や認知症など様々な病気の原因となります。

生物は酸素を利用することによって莫大なエネルギーを産生できるようになったのですが、その代償として酸化傷害による細胞の老化やがん化が促進されることになります。

酸化ストレスを軽減することは、がんや動脈硬化などの生活習慣病を始め、様々な老化性疾患の予防や症状の改善に役立つと考えられています(図)。

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図:細胞内において、フリーラジカルや活性酸素による酸化負荷から抗酸化酵素や抗酸化物質などによる抗酸化力を差し引いたものが酸化ストレスとなる。酸化ストレスはDNAの変異や細胞増殖活性を高め、免疫力を低下させるので、がんの発生や進展を促進する。細胞や組織の酸化傷害は心臓や腎臓や肝臓など多くの臓器の機能を低下させ、体全体の老化を促進する。


【水素は生体にとって理想的な抗酸化物質】

 前述のように、私たちが呼吸によって取り込んだ酸素がエネルギーを産生する過程で スーパーオキシド・ラジカル(O2-)という活性酸素が発生します。ふつうの酸素分子は16個の電子の持っていますが、スーパーオキシド・ラジカルは17個の電子をもっており、そのうち1個が不対電子になりフリーラジカルとなるのです。

スーパーオキシド・ラジカルは体内の消去酵素(スーパーオキシド・ジスムターゼ)によって過酸化水素(H2O2)に変わり、過酸化水素はカタラーゼやグルタチオン・ペルオキシダーゼという消去酵素によって水(H2O)と酸素(O2)に変換され、無毒化されます。

しかし、スーパーオキシドや過酸化水素の一部は鉄イオンや銅イオンと反応して、ヒドロキシルラジカル(・OH)が発生します。

本来、鉄や銅などの遷移金属は蛋白質を結合して存在しますが、がん組織や炎症が起こっている部位ではこれらの遷移金属はイオンの形で存在するようになり、これら遷移金属イオンが触媒となって、大量のヒドロキシラジカルが産生されるようになるのです。

ヒドロキシルラジカルも一つの不対電子をもっており、その酸化力は活性酸素のなかで最も強力で、細胞を構成する全ての物質を手当たりしだいに酸化して障害を起こします。

また、誘導型一酸化窒素合成酵素(iNOS)によって炎症細胞から産生される一酸化窒素(NO)とスーパーオキシド・ラジカル(O2-)が反応すると、ペルオキシナイトライト(・ONOO2-)という酸化力の強いフリーラジカルが発生します。ペルオキシナイトライトは炎症疾患における組織の酸化障害や発がん促進の原因となります。

水素ガスはヒドロキシルラジカルとペルオキシナイトライトを消去することによって、炎症における組織の酸化傷害を阻止します。(下図)。

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図:酸素(O2)がエネルギーを産生する過程や酵素反応や炎症などで1電子還元されて スーパーオキシド(O2-)が発生する(①)。スーパーオキシドは体内の消去酵素(スーパーオキシド・ディスムターゼ)によって過酸化水素(H2O2)に変わり(②)、過酸化水素はカタラーゼやグルタチオン・ペルオキシダーゼという消去酵素によって水(H2O)と酸素(O2)に変換されて無毒化される(③)。スーパーオキシドや過酸化水素の一部は鉄イオンや銅イオンと反応して、ヒドロキシルラジカル(・OH)が発生する(④)。さらに、誘導型一酸化窒素合成酵素によって炎症細胞から産生される一酸化窒素(NO)とスーパーオキシドが反応すると、ペルオキシナイトライト(・ONOO2-)という酸化力の強いフリーラジカルが発生する(⑤)。水素ガスはヒドロキシルラジカルとペルオキシナイトライトを消去して、酸化傷害を阻止する(⑥)。


活性酸素には体に必要な「善玉」もいて、全ての活性酸素を消去すると体の機能に悪影響を及ぼす可能性もあるというジレンマがありました。

その点水素は、活性酸素の中でも体の組織や細胞にダメージを与える「悪玉活性酸素(=ヒドロキシルラジカルやペルオキシナイトライト)」だけを消去し、善玉の活性酸素の働きを妨げないことが明らかになっています。しかも極めて小さいので体内のどこにでも容易に浸透できます。

例えば、水素ガス(H2)の分子量は2ですが、ビタミンCの分子量は176、ビタミンEは431、コエンザイムQ10は863という大きさで、水素ガスの数十倍から数百倍の大きさです。

水素ガス以外の抗酸化物質は分子量が大きいことや脂溶性や水溶性のどちらかの性質を持つため、体の中で働ける場所が限定されます。一方、水素ガスは小さいので、血管が閉塞していても組織に浸透して働き、血液脳関門も容易に通過できるので、脳内にも到達して抗酸化作用を発揮します。

ミトコンドリアにも自由に到達できます。

このように、水素ガスは生体にとって「理想的な抗酸化物質」と言えます。
近年、水素分子(H2)の医療応用の研究が急速に進んでいます。虚血再還流障害や急性肺障害や神経変性疾患や潰瘍性大腸炎などの様々な動物疾患モデルでの実験や、2型糖尿病やメタボリック症候群など人間における臨床試験において、水素分子の有効性が示されています(下図)。

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図:水素ガス治療は、日本人の3大死因の悪性腫瘍、心血管疾患、脳血管疾患を始め、患者数の多い糖尿病、メタボリック症候群、慢性呼吸器疾患、肺炎、アルツハイマー病などの認知症、パーキンソン病、腎炎・ネフローゼ、抗がん剤や放射線治療の副作用、自己免疫疾患などの慢性炎症性疾患、精神疾患(双極性障害や統合失調症など)など、数多くの疾患や病態の治療において有効性が報告されている。


水素ガス(分子状水素:molecular hydrogen)はヒドロキシルラジカルを選択的に消去したり抗酸化酵素を誘導する作用(抗酸化作用)、炎症性サイトカインの産生抑制や炎症性の転写因子の抑制などの抗炎症作用、細胞の増殖シグナル伝達系への作用、血管新生阻害作用などによってがん細胞の発生や進展を抑制する作用があります。

抗がん剤や放射線治療の副作用(間質性肺炎など)を軽減する効果も報告されています。
さらに、水素ガスは様々な炎症性疾患(自己免疫疾患など)や神経変性疾患(アルツハイマー病やパーキンソン病など)、呼吸器疾患、循環器疾患、糖尿病、腎障害など多くの疾患に対して治療効果を示すことが報告されています。


【水素ガスはPGC-1αの発現を誘導してミトコンドリア機能を亢進する】

 分子状水素(水素ガス)がFGF21を活性化して、肥満や糖尿病を改善することが報告されています。

FGF21(Fibroblast growth factor 21;線維芽細胞増殖因子21)は他の線維芽細胞増殖因子と構造上の相同性を持っていますが、細胞増殖を促進する増殖因子としての活性はなく、糖や脂質代謝を制御するホルモン様作用を示すタンパク質です。肝臓・脂肪・筋肉・膵臓などで産生され、FGF21の主要な標的組織は肝・膵・脂肪組織と考えられています。

FGF21の生理的役割は、飢餓に対する適応と考えられています。空腹に反応して肝の脂質代謝が亢進し、さらにケトン体が産生されると、FGF21が放出されます。FGF21を全身的に投与すると、血糖・中性脂肪が低下し、膵臓β細胞の機能が改善し、肥満と脂肪肝が改善し、アディポネクチンが増加し、心血管リスクファクターマーカーが減少するなどの効果が見られます。

FGF21はカロリー制限と同様の健康作用を発揮し、マウスの実験では寿命延長効果も見られています。FGF21は有望なカロリー制限類似薬と言えます。FDF21を過剰に発現するように遺伝子改変したトランスジェニックマウスは寿命が30%(オス)〜40%(メス)延びたという実験結果が報告されています。

FGF21は成長ホルモン/インスリン様増殖因子-1シグナル伝達系を抑制します。成長ホルモン/インスリン様成長因子-1シグナル伝達系の活性化は寿命を短縮することが明らかになっています。FGF21はこのシグナル伝達系を阻害することによって、健康作用を発揮し、寿命を延長する効果を発揮します。

分子状水素(水素ガス)がFGF21の発現を亢進するのであれば、そのシグナル伝達系の下流に存在するサーチュイン1を活性化し、PGC-1α(PPARγコアクチベーター1α)の発現を誘導する作用があるはずです。実際に分子状水素はPGC-1αの遺伝子発現を刺激して脂肪酸代謝を促進することが報告されています。

メカニズムは複雑でまだ不明な点も多いのですが、水素ガスはPPARα/FGF21/PGC-1αシグナル伝達系に作用してミトコンドリア新生を亢進し、ミトコンドリア機能を高める効果があるようです(下図)。これは、肥満と糖尿病とメタボリックシンドロームの改善における分子状水素の潜在的有益性を示唆しています。

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図:水素ガスは肝臓のFGF21を介する機序でサーチュインを活性化し、PGC-1α(PPARγコアクチベーター1α)を活性化することが報告されている。PGC1αの活性化はミトコンドリアの数を増やし、機能を高めることができる。その結果、老化を抑制し、寿命を延ばす効果を発揮する。


体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術 記事まとめ

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