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42)R体アルファリポ酸はミトコンドリアを増やす

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術42

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。

【R体アルファリポ酸はミトコンドリアでの代謝を促進する】

 アルファリポ酸(別名:チオクト酸)は、植物と動物(人間も含む)の体内で少量産生されていて、動物では脂肪酸とシステインから肝臓で合成されます。1950年に牛の肝臓から分離されました。かつてはビタミンB群のビタミンに分類されていましたが、体内で合成されるため、現在ではビタミンとは分類されず、ビタミン様物質と認識されています。
 

抗酸化作用、糖代謝を促進する作用、体内の重金属を排出する作用、糖尿病の神経障害を改善する効果などがあり、糖尿病や動脈硬化関連疾患(虚血性心疾患や脳梗塞)、多発性硬化症、認知症などの疾患の予防や改善に効果があることが報告されています。特に活性酸素などのフリーラジカルによる酸化障害が発症や病態進展に関連している疾患の治療に効果が認められています。
 

日本国内では医薬品(適応は「激しい肉体疲労時にリポ酸の需要が増大したとき」など)としてのみ取り扱われていましたが、2004年6月の食薬区分改正により、一般のサプリメントに配合しても良い成分となりました。糖代謝の促進や抗酸化作用があるので、ダイエット効果や抗老化や美容を目的としたサプリメントとして人気があります。

R体アルファリポ酸は多数の酵素の補助因子として働きます。特に、グルコース(ブドウ糖)の解糖で生成されたピルビン酸をアセチルCoAに変換するピルビン酸脱水素酵素複合体の補助因子として、ミトコンドリアでのエネルギー産生に重要な役割を果たしています。(下図)。

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図:1分子のグルコース(①)から2分子のピルビン酸(②)に変換される過程を解糖という(③)。解糖は細胞質で起こる。ピルビン酸はミトコンドリアに入り、ピルビン酸脱水素酵素によってアセチルCoAに変換される(④)。アセチルCoAはTCA回路で代謝され、酸化的リン酸化によってグルコース1分子当たり32〜38分子のATPが産生される(⑤)。ピルビン酸脱水素酵素の活性にはR体αリポ酸とビタミンB1が補因子として必要(⑥)。


アルファリポ酸にはR体とS体という2種類の光学異性体(鏡像異性体)が存在します。光学異性体はちょうど右手と左手のように鏡写しの関係になっています。つまり、R体を鏡に写すとS体になるという関係です。

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図:アルファリポ酸にはR体とS体という2種類の光学異性体が存在する。体内で生成されるアルファリポ酸はR体のみでS体は存在しない。


体内で生成されるアルファリポ酸はR体のみで、S体は天然には存在しません。しかし、アルファリポ酸を人工的に合成するとR体50%、S体50%の化合物が出来上がります。これをラセミ体と呼びます。ラセミ体からR体のみの単離が可能であり、R体だけのサプリメントも販売されています。
 

アルファリポ酸の場合、S体やラセミ体と比較して、R体の方が生物活性が高いという研究結果が数多く報告されています。アルファリポ酸がミトコンドリアを活性化するのは、ピルビン酸脱水素酵素の補酵素として作用するからです。ピルビン酸脱水素酵素を活性化する作用はR体のみで、逆にS体のアルファリポ酸はピルビン酸脱水素酵素の活性を阻害します(図)。

抗酸化作用だけが目的であればラセミ体でも目的を達成できますが、ミトコンドリアを活性化する目的ではR体のみのアルファリポ酸を使った製品を摂取することが重要です。(下図)。

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図:グルコース(ブドウ糖)が細胞質内で解糖系で分解されてピルビン酸になる。ピルビン酸はミトコンドリアに入ってピルビン酸脱水素酵素によってアセチルCoAになってTCA回路で代謝される。R体アルファリポ酸はピルビン酸脱水素酵素の活性を高めるがS体アルファリポ酸は阻害する。



【生物は食料不足の環境で寿命を延ばすメカニズムを進化の過程で取得した】

 人間を含め多くの生物は、食糧が不足すると老化速度を遅くして寿命が延びるようなメカニズムを進化の過程で獲得してきました。食糧が乏しくなるとすぐ死ぬような生き物は進化の過程で簡単に淘汰されます。栄養やエネルギーの不足に対して抵抗性を持つようなメカニズムを獲得したものが生き残ります。
 

実際、カロリー制限食では酸化ストレスや栄養飢餓など様々なストレスに対する抵抗性が増すことが知られています。食糧が乏しい時には、栄養飢餓に対する抵抗性を高め、代謝を抑制して寿命を延ばし、食糧が十分に入手できるようになったときに生殖活動が行えるように、食糧が乏しい条件(カロリー摂取が不足するとき)では寿命を延ばすメカニズムやストレスに対する抵抗性を高めるメカニズムが進化したと言えます。
 

食糧が少なくなったとき単に寿命を延ばすだけでなく、食糧が得られるときに生殖活動を再開することが目的であるため、若々しく保つ(老化を抑制する)ことも重要です。すなわち、カロリー制限は寿命を延ばすだけでなく、体を若々しくする効果もあることになります。


【カロリー制限ではサーチュイン遺伝子が活性化する】


 食糧が不足し飢餓状態になると、生体は様々な適応応答を行うために、代謝や防御機能に関与する遺伝子の発現レベルでの変化が生じます。

 

具体的には、生体エネルギーのATPが減少するためAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)が活性化し、インスリンやIGF-1の産生減少に伴う増殖シグナル伝達の抑制、オートファジーの亢進、サーチュイン遺伝子の活性化などが起こります。

サーチュイン(sirtuin)は長寿遺伝子として、酵母からヒトまで進化的によく保存された遺伝子です。サーチュイン(サーチュインファミリー)は食物不足(飢餓状態)の時に活性化される遺伝子群で、NAD依存性脱アセチル化酵素です。哺乳類では七つのサーチュイン(SIRT1~7)が存在し、SIRT1、 6、7は核内、SIRT3、4、5はミトコンドリア、SIRT2は細胞質に局在します(下図)。

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図:哺乳類の細胞内には7つのサーチュイン(SIRT1~7)が存在し、核内(SIRT1、 6、7)、ミトコンドリア(SIRT3、4、5)、細胞質(SIRT2)に局在している(下図)。


これらのサーチュインは NAD(nicotinamide adenine dinucleotide)依存性の脱アセチル化酵素としての活性をもっています。つまり、細胞内のNAD+量が増加するとサーチュインの活性は高くなります。
 

サーチュインによって活性が制御されているタンパク質としてヒストン、P53、FOXO、PGC1α、LKB1などがあり、細胞周期、代謝、抗酸化システム、オートファジーなどの細胞機能に影響します。その結果、細胞老化や発がんを抑制し、寿命を延長する効果を発揮するのです。(下図)。

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図:サーチュインはNAD+/NADHの比率の変動を感知することによって、細胞内の栄養素の供給状況や物質代謝の状況を把握している(①)。絶食やカロリー制限などによって栄養素、特に糖が減少すると、NAD+が増え、サーチュイン(SIRT)が活性化する(②)。サーチュインは細胞質や核に存在するSIRT1(③)やミトコンドリアに存在するSIRT3(④)など7種類が知られている。サーチュインはタンパク質の脱アセチル化(アセチル基を除去する)によって様々な転写因子や酵素などの活性を調整する(⑤)。サーチュインによって活性が制御されているタンパク質としてヒストン、P53、FOXO、PGC1α、LKB1などがあり、細胞周期、代謝、抗酸化システム、オートファジーなどの細胞機能に影響する(⑥)。その結果、細胞老化や発がんを抑制し、寿命を延長する効果を発揮する(⑦)。



【AMP活性化プロテインキナーゼはエネルギー低下を感知して活性化される】

 AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)は細胞のエネルギー代謝を調節する因子として重要な役割を担っています。AMPKは低グルコースや低酸素や虚血など細胞のATP供給が枯渇させるようなストレスに応答して活性化されます。
 

AMPKは触媒作用を持つαサブユニットと、調節作用を持つβサブユットとγサブユニットから構成されるヘテロ三量体として存在します。γサブユニットにはATPが結合していますが、ATPが枯渇してAMP/ATP比が上昇すると、γサブユニットに結合していたATPがAMPに置き換わります。その結果、アロステリック効果(酵素の立体構造が変化すること)によってこの複合体は中等度(2~10倍程度)に活性化され、上流に位置する主要なAMPKキナーゼであるLKB1に対して親和性が高くなり、LKB1によってαサブユニットのスレオニン-172(Thr-172)がリン酸化されると、酵素活性は最大に活性化されます。
活性化したAMPKは異化を亢進してエネルギー産生を亢進し、物質合成を抑制するように代謝をシフトします。(図)。

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図:AMPKはα、β、γの3つサブユニットからなり(①)、細胞内のATPが減少するとγサブユニットに結合していたATPがAMPに置換する(②)。これによってAMPKの構造変化が起こると、LKB1というリン酸化酵素の親和性が高まり、αサブユニットのスレオニン172がリン酸化されると、さらにAMPKの活性が高まる(③)。活性化したAMPKは異化を亢進してエネルギー産生を亢進し、物質合成を抑制するように代謝をシフトする(④)。運動や断食やカロリー制限はAMP/ATP比を上昇してAMPKを活性化し(⑤)、さらに、サーチュイン1を活性化する(⑥)。活性化したAMPKはサーチュイン1を活性化し(⑦)、サーチュイン1はLKB1を活性化する(⑧)。



【PGC-1αを活性化するとミトコンドリアが増える】

 細胞内のミトコンドリアの増殖を刺激することによって、細胞内のミトコンドリアの数と量を増やすことができます。ミトコンドリアが増えることを「ミトコンドリア新生」や「ミトコンドリア発生」と呼んでいます。細胞内でミトコンドリアが新しく発生することです。通常、既存のミトコンドリアが増大して分かれて増えていきます。
 

ミトコンドリア新生で最も重要な働きを担っているのが、PGC-1α(Peroxisome Proliferator- activated receptor gamma coactivator-1α)です。日本語訳は「ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γコアクチベーター1α」です。

PGC-1α(ペルオキシソーム増殖因子受容体γコアクチベーター1α)は転写因子のPPAR-γと結合して、PPAR-γの転写活性を高める因子として見つかりました。その後、PGC-1αは核内受容体を中心とするさまざまな転写因子と結合し標的遺伝子の発現を制御するタンパク質であることが明らかになっています。
 

PGC-1αはミトコンドリアの量やエネルギー供給の制御に中心的な働きを担っています。運動の様々な健康作用はPGC-1αによると言われています。PGC-1αはミトコンドリア新生を亢進します。つまり、PGC-1αを活性化すると筋力増強や抗老化など様々な健康作用が得られます。
 

AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)とサーチュイン-1はPGC-1αのリン酸化と脱アセチル化によってPGC-1αの活性を亢進し、ミトコンドリアの新生を促進します。(下図)。

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図:運動、絶食、カロリー制限、糖尿病治療薬のメトホルミンは筋肉細胞内のAMP/ATP比を上昇し(①)、AMP依存性プロテインキナーゼ(AMPK)を活性化する(②)。AMPK活性化はNAD+/NADH比を高め(③)、サーチュイン1を活性化する(④)。AMPKはPGC-1α(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γコアクチベーター1α)をリン酸化し(⑤)、さらにサーチュイン1で脱アセチル化されて活性化する(⑥)。サーチュイン1はFOXOファミリーなどの転写因子を脱アセチル化して活性化する(⑦)。活性化したPGC-1αやFOXOやその他のタンパク質はミトコンドリア機能や代謝を制御する。図中のPはリン酸化、Acはアセチル基を示す。(参考:Nature. 2009 Apr 23; 458(7241): 1056–1060.)


サーチュインはFOXOという転写因子を活性化してストレス抵抗性を高め、PGC-1α(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γコアクチベーター1α)を活性化してミトコンドリア新生を亢進します。これらの作用によって抗老化や寿命延長やがん予防の効果を発揮します。

転写因子FOXO(Forkhead Box O)はDNA結合ドメインFox(Forkhead box)を持つForkheadファミリーのサブグループ“O”に属する転写因子です。哺乳類の細胞にはFOXO1,FOXO3a,FOXO4の三つのアイソフォームが発現しています。FOXOはストレス応答、代謝制御、細胞周期、アポトーシス、細胞分化、DNA修復、免疫機能、炎症などに関連する多くの遺伝子の発現を促します。FOXOはサーチュインによって脱アセチル化されて転写因子として働き、細胞のストレス抵抗性を高めます。

運動すると骨格筋のPGC-1α量が増えます。運動や絶食やカロリー制限やメトホルミン(糖尿病治療薬)がAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)を活性化し、AMPKはサーチュインを活性化して転写因子のPGC-1αとFOXOファミリータンパク質を活性化し、ミトコンドリア機能や代謝を制御することが知られています。


【アルファリポ酸はAMPKとサーチュイン1を活性化する】

 アルファリポ酸がLKB1を活性化してAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)を活性化し、さらにサーチュイン1を活性化することが報告されています。以下のような報告があります。

α-Lipoic acid regulates lipid metabolism through induction of sirtuin 1 (SIRT1) and activation of AMP-activated protein kinase.(αリポ酸はsirtuin1(SIRT1)の発現誘導とAMP活性化プロテインキナーゼの活性化を介して脂肪代謝を調節する)Diabetologia 55(6): 1824-35, 2012年

この研究では、アルファリポ酸がサーチュイン1(SIRT1)とAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)の両方を活性化し、脂質代謝を活性化させる効果を明らかにしています。
以下のような報告もあります。

Alpha-lipoic acid upregulates SIRT1-dependent PGC-1α expression and protects mouse brain against focal ischemia(アルファリポ酸はSIRT1依存性PGC-1α発現を更新し、限局性虚血からマウス脳を保護する)Neuroscience. 2014 Dec 5;281:251-7.

この論文では、オスのCD-1マウスを用い、中大脳動脈閉塞によって脳虚血を作成しました。アルファリポ酸(50mg / kg)は虚血の30分前に腹腔内投与されました。
アルファリポ酸の投与は、中大脳動脈閉塞による神経学的欠損を有意に改善し、梗塞体積と脳浮腫を減少させました。さらに、SIRT1とPGC-1αの発現とSODの活性の増加が認められました。
つまり、アルファリポ酸はSIRT1依存性PGC-1α発現の亢進によって、脳の虚血性損傷を軽減するという報告です。

アルファリポ酸は抗酸化作用とピルビン酸脱水素酵素の活性を高める作用によってミトコンドリ機能を高めます。さらにAMPKとサーチュイン1を活性化し、PGC-1αを活性化してミトコンドリア新生を亢進します。つまり、アルファリポ酸には複数のメカニズムでミトコンドリアを増やし、機能を活性化します。
 

運動やカロリー制限やメトホルミンはAMPKを活性化してサーチュインを活性化します。R体アルファリポ酸はサーチュイン1を活性化し、AMPKをさらに活性化します。その結果、抗老化作用と寿命延長効果を発揮します。(下図)。

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図:運動やカロリー制限やメトホルミンはAMP/ATP比を高めてAMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)を活性化する(①)。LKB1はAMPKのスレオニン172(Thr-172)を活性化してAMPKを活性化する(②)。活性化したAMPKはサーチュイン1を活性化する(③)。サーチュイン1はLKB1を活性化する(④)。R体アルファリポ酸(R体αリポ酸)はサーチュイン1を活性化する(⑤)。R体アルファリポ酸は抗酸化作用とピルビン酸脱水素酵素の活性化作用があり、さらにサーチュイン1とAMPKを活性化する作用によってミトコンドリアを増やし、ミトコンドリア機能を高め、抗老化作用と寿命延長効果を発揮する。

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術 記事まとめ


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